表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
森の中の生活編 -2-
37/74

37.破壊の魔法式

 今日はお師匠と一緒に、書庫の整理をしている。

 もちろん、僕は書庫には入らずに、荷物運搬に徹しているけど。

 その合間に適当に書物を開いて、僕は目を通していた。今日は魔法書の類ではなく、何かの資料の類ばかりらしい。やれ薬草の種類だの、毒草との見分け方だの。

 その中に、聞き覚えがある単語が出てくるものがあった。


「シェルシュタイン……青や緑、白の魔法式を専攻する一門、か」


 どうやら、これは世界中にある魔女や魔法師が所属する一門を、その分野などと共にまとめたもののようだ。若干古びているので、情報もそれ相応に古いのだろうが。

 世界にはそういう一門が、結構な数あるらしい。

 お師匠も、どこかの一門の出なのだろうか。

 どうやら一門に所属すると、そこの名前を家名――苗字として名乗ることが出来る場合が多いらしい。未だ知らないお師匠の苗字も、ここにあったりする可能性がある。

 それにしても、いろんな分野があるものだ。

 それって何か意味があるのか、といいたくなるものまで。

 ぱらぱらと流し読みして、最後の方にあったその一門のページに、僕は目を留める。


「ニルヴェルヘーナ一門……?」


 そこに書かれていたのは、専攻分野というよりも、特徴と危険さだった。さっきまで見ていた毒草や毒キノコなどの図鑑にあった、中毒症状のような書かれ方、というべきだろうか。

 ニルヴェルヘーナは、メルフェニカという隣国にある、世界でも有名な一門。ただしシェルシュタインのように専攻分野での業績のせいではなく、その異質な形態にに由来する。

 やたら細かく書かれていた内容は、僕の想像を軽々と飛び越えた。


 曰く、かの一門は、破壊に特化した才能だけで構成された集団である。


 魔法式の種類による向き不向きは存在するが、通常はまったく気にならない程度である。しかしこの一門は、とにかく破壊に用いる魔法に特化した才能をかき集めた。


 彼らを異常が出ないギリギリのラインで交配。さらにその才能を特化させていった。当然近親相姦の類だって当たり前で、数百年の積み重ねの結果、彼らの力は極端なほど偏った。

 シェルシュタインなど他の一門が、才能ある孤児などを引き取る傍ら、ニルヴェルヘーナは一門内での婚姻にこだわっているという。もはや、ちょっとの優劣では意味が無いのだと。


「ニルヴェルヘーナはね、狂気の一門なんだよ」

 ふわり、と僕の肩にお師匠が座った。


「魔法式はいろいろあるから、中には狂ってるようなところも、あるよ。人体実験とか。だけどもそれらを差し置いて、ニルヴェルヘーナの異質さは異様なんだよね……怖いぐらいに」

「……」

「彼らはね、最初に一門を作ったファリ・ニルヴェルヘーナって魔女に、没して千年ほど立つ今でもこの上なく固執しているというよ。かの一門における最高傑作にね。一度だけ、あの一門の魔女に会ったことがあるんだけど、正直、セラ的には二度目の遭遇は全力回避かなぁ」

 なんかヤなの、とお師匠はため息を零す。

 あまりヒトをそういう風に言わないお師匠に、そこまで言わせる存在は、ある意味で出会ってみたい気がしないでもない。でも、出来れば双眼鏡を使うほど遠くから眺めるだけがいい。

「あー、でも遭遇すればすぐに『それ』だってわかると、セラは思うなぁ」

「そうなんですか?」

「うん。だって格好がすごいんだもん」


 いでたちは、まるでどこかのお嬢様のような、ふりふりの黒いドレス。

 日傘を常備して、常にニコニコと微笑を浮かべる。


 僕の予想が間違っていないなら、たしかそういう風に言われる格好にゴシックロリータというヤツがあったと思う。お師匠の話からして、大まかにはその類の服装で間違いなさそうだ。

 テレビではさらに細かい区分も解説していたけど、さすがに記憶に残っていない。


「里から出たニルヴェルヘーナ一門が、どういう格好をしていると思う?」

 僕の手から本を奪い、テーブルに置きながら、お師匠は振り返った。

「彼らは、みんなファリの姿を模すんだよ。ファリ・ニルヴェルヘーナ。生まれながらに破壊することしかできなかったって言う、魔女の姿を。そして名乗るんだ、その魔女の名前をね」


 魔法師も魔女も、幻術を用いてかつていた少女の姿を模す。

 生まれながらにニルヴェルヘーナだった、魔女。

 千年ほど昔に死んだ、とされている……おそらくは、世界最強の存在。

 彼女が作り上げた一門は、未だに彼女に囚われているのか。


「弟子くんも、そういう格好のヒトを見かけたらさ、気をつけるよーにね」

 関わらずに逃げてね、とお師匠は言い残して、また書庫の方へ戻っていった。残された僕はあの本を手に取り直す気もなく、とりあえず近くにあった椅子にどさりと腰を下ろす。

 話を聞いただけなのに、やけに疲れがあった。

 僕が知る一門は、シェルシュタインだけで、みんなそういうものだと思っていたけど。

 その考えを、出来るだけ早く正さなければいけないのかもしれない。



 もちろん……それ以前に、出会わないことを願うけれど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ