33.ハルの手紙
家に影を落とす巨体。
そして窓を振るわせる風。
わざわざ確認するまでもなく、それはミーネさんと愛ドラゴンのアウラだ。黒いうろこにほっそりとした、けれどたくましい身体は、僕から見てもこの上なくかっこいいと言える。
名前は明らかに女性のそれだけど、アウラは『彼』――つまりオスだ。
ドラゴンとその乗り手は同性であることが多いらしい。そして荷物運搬の場合、気質が穏やかなメスが選ばれるのがほとんどだという。街中で暴れたりしないように、という理由で。
現に『魔女宅配』でも、オスのドラゴンに乗っているのはミーネさんだけだそうだ。
その理由を、僕は前に尋ねたことがある。
するとミーネさんは、にやにやデレデレしながら。
「どうせならイケメンの方がいいじゃないっすか」
……と、答えてくれた。
実にいい笑顔だった。
今日は、そんなミーネさんとの一週間ほどおきの再会だ。依頼書を含む手紙の類も彼女が運んでくれているので、彼女の存在がこのアトリエの生命線とも言える。
「こんちゃーっす」
わずかに地面を震わせてドラゴンは着地し、ひらりとミーネさんが飛び降りた。
いつも三つ編みにしている髪は、今日は結わずにそのままだった。
風圧で乱れた髪を適当に掻き上げながら、斜めがけのかばんから封筒を取り出し。
「はい、セラさんとお弟子さんにお手紙ですよ」
「手紙?」
「ハルちゃんからっす」
「え? ハル……から?」
「ハルから手紙ー? みるみるみるー!」
遠くにいたお師匠が、荷物も放り出して飛んでくる。
いつものように僕の頭にぺたりと張り付き、よじ登るお師匠にもよく見えるよう、僕は受け取った封筒の中身を広げる。一応読むのはできるんだけど、時間がかかってしまうからだ。
「えーっと――セラお姉ちゃん、お兄ちゃん、こんにちは。ハルです。メルフェニカの学校は楽しいです。お友達もできたしお勉強もわかるようになりました。先生も優しいです」
そこにはハルの近況が、とても楽しそうに綴られていた。
僕が知る学校生活と変わりないその内容に、思わず元の世界が懐かしくなる。
「ハルちゃん、元気そうだったっすよ。また会えるといいですねぇ」
「そう、ですね……いつか、また」
その時のハルは、どんな風に成長しているのだろうか。
成長した彼女の姿を思い描き、僕も負けていられないと思った。