31.お肉の美味しい食し方 焼き編
お師匠の家のオーブンは、魔法と薪を使う。
これは魔法だけでは火力が出せない、という理由からだ。出ないことはないのだけど、その食材にとってちょうどいい火力を出すのが、それはそれは実に面倒くさい。
まぁ……要するに高火力過ぎてこげる、という話だ。
元が攻撃などに使うための魔法式だから、火力が強すぎるのは当然なんだけれども……。
ランプなどの明かりやオーブンに使うのは、【黒色魔法式】の一種だ。赤、青、緑という三色の基礎的な魔法式の応用から作られた、魔法式を使うための魔法式という感じだろうか。
その特徴の一つが持続性。
だからランプとか、長時間力を発揮してもらうものに使われる。その形状は黒い、断面がツヤツヤとした結晶であることが多く、消耗品なのである程度使うと砕けて消えてしまう。
基本的には特定の魔法式を発動させるのに使うのと同じ触媒を用意して、それを黒い結晶へと変化させるという作り方だ。回数を使いたいほど、用意する触媒の量も増える。
十回使いたい場合は十回分用意する、という感じだ。
要するに【黒色魔法式】とは、元となる魔法式のコピー。たとえば【赤色魔法式】にありがちな加減のできなささえも、結晶にはしっかりと受け継がれているわけだ。
なので基本的に火をつけるだけで、魔法の出番は終わる。
火加減は薪の出し入れなどで調節だ。
……さて、下ごしらえが済んだ鳥肉は、耐熱性の平皿の上にいる。周囲には付け合せの野菜がずらり。タマネギにナスにトウモロコシ。その他、ありとあらゆる野菜が肉に侍る。
中にいろいろと詰められてパンパンになった肉は、上からオリーブオイルのような香りのする油をかけられて、さらにハーブを細かくちぎったものが降りかかっている。
それをオーブンの中に押し込み、僕はしっかりとふたをしめた。
仕上げに、お師匠が胸の前で手を合わせ、それをオーブンに向かって突き出し。
「ふぁいあー!」
「お師匠、うるさいです」
いちいち叫んでオーブンに火を入れるお師匠。何かの儀式なのかって言うぐらい、オーブンを使うときにはいつも叫ぶ。ちなみに呪文の類は唱えなくても、魔法式は発動するんだけど。
「気分の問題なんだよ、弟子くん」
「はぁ……」
お師匠のこだわりはよくわからない。
僕が適当に返事をしつつ、椅子を引っ張ってオーブンの少し離れたところに置いた。火の加減をするのは僕の仕事だからだ。これでも焼き菓子とかのおかげで、だいぶ慣れている。
「じゃあ、弟子くんにお任せだねー。セラはお仕事するよぅ」
「できたら呼びますからね」
「はーい」
くるりと回って元の大きさになったお師匠は、そのまま実験用の部屋に向かう。
鼻歌交じりに飛んでいく背中に、僕は思わず笑みをこぼす。
さて、肉がちゃんと焼けるように見張らないと。いつもなら適当に読書をして待つところなんだけれども、今回は初めての相手なので気を抜くことはできない。
椅子に座り足を組み、僕はじっとオーブンを見つめた。