30.お肉の美味しい食し方 タレ編
今日の料理当番はお師匠だ。
何でも、知り合いの猟師に丸々とした鳥をもらったらしい。
その筋のプロによって捌かれた鳥は、僕がやるのとはまるで違うものに見えた。生前の姿はさっぱりとわからないけれど、肉としての形状は、まさに七面鳥といった感じだろうか。
そう、師走のシーズンにテレビの向こう側に拝むばかりのアレだ。
……そういえば、一度食べてみたいって思ったなぁ。
「さーてと、セラもちょっとはお料理できるんだからねー」
「わかってますよ、それくらい」
直々に教えられたのだから、さすがにそれはわかってる。
大人サイズのキッチンは、小柄なお師匠には少々大きすぎる感じだけれど、二つほど設置された踏み台の上を軽やかに行き来することでカバーしている。とはいえ足元が危なっかしい。
……今度、もう少し大きい踏み台を作ろうと思う。
「で、その鳥肉はどうするんです?」
「やっぱり丸焼きだよぅ。……ってことで、弟子くん弟子くん、ハーブとってきてー」
「肉料理に良く使うアレですか?」
「そー、あれー」
わかりました、と僕はキッチン脇の扉から外に出る。この世界にも勝手口というものはあるようだ。扉の向こうには、僕が来る前からあったハーブ畑がある。
まぁ……畑というか素焼きのプランターが並んでいるだけ、なんだけれども。
そこから鳥肉料理で良く使うハーブを収穫する。
結構な量が必要になるかもしれないので、少し多いかなってぐらい。
「お師匠、採ってきました」
「んとねー、じゃあ弟子くんにはタレを作ってもらおうかなー」
「タレ、ですか」
「そだよぅ。まずハーブを適当にちぎってねー、それを調味料の中に入れるのー。調味料はワインとか塩コショウとか。ニンニクも必要だねー。あと、セラは隠し味にこれを入れるの」
と、お師匠が取り出したのは――。
「タマネギ……と、果物?」
丸々としたタマネギと、昨日木からもいできたばかりの柑橘系の果物。
「そそ。これを摩り下ろすんだよぅ。果物は搾るの」
その後、他の調味料を全部混ぜてしばらく置いて、火にかけてワインのアルコールを少し飛ばすんだとか。ちなみにタレはタレでもつけるのではなく、漬け込むためのものらしい。
タレ改め漬け汁は、肉の中に詰めるものと混ぜてしまうとお師匠は言う。
つけたりかけたりするタレは、別に丁寧に作るんだとか。
「あ、でも弟子くんはコドモだからワインは触っちゃメーなの。セラがやるよー」
「じゃあ、僕はタマネギをやっときますね」
とりあえず僕は袖をまくって、お師匠の隣で作業を開始した。
さぁ、どんな味になるんだろう……楽しみだ。




