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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
森の中の生活編 -1-
3/74

3.激甘党と甘い人

 お師匠の家――アトリエは二階建てだ。


 二階に僕とお師匠の自室と、書斎と物置がある。一階にはそれ以外の生活スペース、台所だとかリビングとか。それからいろんな実験などをするための部屋。それに使う道具の置き場。

 庭は結構広くて畑もある。僕が勝手に作った、家庭菜園スペースだ。時々、普通の大きさになったお師匠が、キラキラした目で若葉を見ていることがある。


「早くおいしいのたべたいね、弟子くん」


 そんな風に、にこにこと笑って。

 それからご機嫌な様子で、畑の上をくーるくーる、と飛び回る。


「ねぇねぇ弟子くん、これとかそろそろ食べられるんじゃないかなぁ」


 指差すのは大きく広がる緑色の葉だ。

 根菜類らしく、見た目はニンジン以外の何者でもない品種だったと思う。甘く煮付けたものを食べたことがあるけれど、味も大体同じような感じで、ほっこりとおいしかった。

 この世界の食物は、見た目は元の世界とあんまり変わらない。お師匠が作ってくれるサラダにはレタスのような野菜が使われているし、柑橘系のドレッシングがあったりもする。

「セラはね、弟子くんのお料理が好きだよー。また何か作ってよーぅ」

「じゃあ……シチューにしますか」

 小麦粉や牛乳、バターは存在しているから、できないことはない。

 一度、家庭科か何かの教科書の記憶を頼りに作ったけれど、それなりにおいしくできてお師匠は大喜びだった。あのもったりとした甘さが、好みにストライクだったらしい。

 わぁいわぁい、とまるで子供のようにはしゃいでいる。

「木に引っかからないようにしてくださいね」

 やっと開花したんですから、と僕は苦笑した。


 お師匠が飛び回っている畑の一角には、柑橘系の果樹が植えてある。

 見た目はオレンジ色のレモン……という感じだ。

 切ってみると中身はとてもレモン。香りもだいたいレモン。この世界では柑橘類を料理などによく使うらしく、どこの家にも一本か二本は植えてあるとお師匠は言った。

 すでに家の脇には品種の違う果樹が、十本ほど植わっている。

 季節ごとに花を咲かせ実を抱き、食卓に彩を添えてくれているようだ。


 僕はとりあえず、手近なところにあるハーブを摘む。昼食に作るサラダにかける、ドレッシングの風味付けに使うためだ。それと、毎日欠かさないオヤツにも使う。

 最近はクッキーが続いたから……今日はスコーンにでもしようか。まぁ、僕がスコーンと勝手に呼んでいるだけで、実際はそれによく似た見た目と食感のお菓子なんだけれど。

 ちょうどジャムを作ったばかりだから、それをつけて食べるのも悪くない。

「甘くしてねー、とっても甘いほうがいいよー」

「はいはい」

 ご機嫌に庭の散歩を続けるお師匠に背を向け、僕は家に向かって歩き出す。

 まったく、お師匠の甘い物好きも困ったものだ。


 実験の合間にお菓子。

 食後にもお菓子。

 寝る前にもお菓子。

 とにもかくにもお菓子お菓子お菓子。


 僕が元いた世界に連れて行ったら、大騒ぎするだろうな。

 あっちに移住すると言い出すかもしれない。魔法なんてものが存在しないとしても、甘味物の前ではきっと些細な問題だ。移住しなくても、再現しろと言われるかもしれない。

 ……まったく、お師匠の甘党にも困ったものだ。


 だけどもし、お師匠をつれてあの世界に戻れたら。

 僕はきっとその手を引いて、ありとあらゆる甘味物を食べさせるんだと思う。

 不恰好なお菓子にも、おいしいねぇと笑ってくれるあの人のためなら、どんな出費も苦労も問題ではない。お師匠が笑ってくれたら、それだけで僕は満足。


 相変わらず僕はあの人に甘いなぁ、と苦笑した。

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