28.セラ様と呼びたまえ!
「呼びたまえ!」
「……は?」
のんびりとした朝。
お師匠はおはようの挨拶よりも先に、そんな叫びを放った。
さらには僕の目の前で、むんっと腕を組み。
「思うに弟子くんは、セラへの敬いが足りない気がするんだよねー」
などと、実に心外なことまで言い出す。
何か至らないところがあったのだろうかと考えるけれど、特に思い当たらない。
日々の食事には決して手抜きなどしないし、合間に行う魔法の勉強だって――実技がからっきしというところ以外は順調だ。少なくとも調合に関しては、精度が上がっている、はず。
ましてや敬いの心が足りないなんて、あってはならないことだ。
なれない料理に勤しんだのも、爆発に咽ながら使えもしない魔法の勉強をしたのも。
すべてお師匠ただ一人のためなのに。
「ちゃんと敬ってますよ」
「ホントかなー? セラのこと、愛玩動物みたいに思ってない?」
「……」
思わず、無言になってしまった。
確かにお師匠のことを可愛がるのは僕の趣味の一つだ。
指先や手のひらで頭を撫でると、まるで猫のように目を細める姿とか、たまらない。特に意味も理由もなく、無性に撫でたくなることもある。だって、お師匠がすごくかわいいから。
だから、 つい愛玩してしまうわけで……。
「やっぱりー! セラはおとなのレディなんだよ! きっとたぶん弟子くんより年上のはずなんだからーっ。弟子くんのバカバカバカー! セラのこと、ペットとか思ってたんだああ!」
目の前を上下左右に飛び回るお師匠。
最後に僕の胸に思いっきり体当たりして。
「弟子くんのバカ」
そのまま、動かなくなってしまった。
どうやらすねてしまったらしい。
これはこれでかわいいなぁ、とか思ったりもするんだけど、さすがにそれを口にすると後が厄介だし、このままでいられても何かと困るので、なんとか機嫌を直してもらおう。
とりあえず、指先で後頭部を撫でてみた。
すると、かすかにうれしそうな笑い声が聞こえる。
この程度で単純だとか、僕は思わない。むしろこの程度で機嫌が良くなるくらい、僕を好ましいと思ってくれているんだと自惚れてみる。それは、この上ない喜びだ。
まるで蝶のようにふわりと僕から飛び立ったお師匠は、今度は僕の手に止まった。
手をおわんのように丸くすると、次はその中にすっぽりと納まる。
「で、イヤですか?」
「……ちこうよれ、くるしゅーない」
ご満悦の様子で僕の手の中にいるお師匠。
そんなんだから、ついつい愛玩したくなるんですよ。




