27.美味への欲は止まらない
「おーなーかーすーいーたーよーぅ」
「あなたは子供ですか」
じったんばったん、と僕の肩に乗って暴れるお師匠。
庭弄りが長引いてしまって、今日の夕食は一時間ぐらい遅れている。お師匠は基本、決まった時間にご飯を食べているので、身体がその時間に合わせるように空腹になっているらしい。
それに遅れてしまったのだからさぁ大変。
ハラヘリモードのお師匠は、買って買ってと駄々をこねる子供と同類だ。
正直、耳元で騒がれるのでかなりキツい。
つまんで他所におくにせよ、飛んでくるので無意味だし。
なので僕はおとなしく、騒音に耐えつつ料理続行。しばらくすると疲れて、しょぼーんと静かになってくれるし。そう……ほんの少し、耐えればいいだけの話だ。
案の定、しばらくわめいて静かになったお師匠を肩に乗せ、僕は切った野菜をバターを溶かしたフライパンに入れる。タマネギとにんじん、あとブロッコリーのような何か。
一通り火が通ると、傍らに置いてある水の入った鍋に入れて火の上に乗せる。
その間にフライパンにバターを足し、鶏肉を皮を下にして並べた。
これはお師匠が罠を仕掛けて取ってきたらしい。……あぁ、すっかり鳥や魚ぐらいなら平気でさばけるようになってしまった。慣れとは実に恐ろしく柔軟なものだと僕は知った。
鳥の表面がこんがりしたら、それも鍋に入れる。
最後の仕上げに、僕はフライパンにバターと、そして小麦粉を入れた。傍らには牛乳というよりも生クリームに近い牛乳が、ずっと前から出番を待っている。
いま作っているのは、最近になってやっと焦がさなくなったホワイトソース。
そう――今日のメニューは、シチューだ。
「お師匠は鍋の方、見ててくださいね」
「うー」
だるそうな返事をしつつ、ヒトの姿になったお師匠は僕の隣に立つ。今にも死にそうなしょんぼりモードのまま、それでもテキパキとあくをすくっては撤去する作業をしている。
一通りソースが完成し、野菜や鳥もくったりと煮えて。
「お師匠、そこどいてください」
「うー」
元の大きさに戻ったお師匠をまた肩に乗せ、僕はフライパンの中身を鍋に入れた。ゆっくりとおたまで巻き混ぜ、一度味をみる。……すこし牛乳と塩、ついでにコショウを入れた。
「んー、んふふー。弟子くんのおりょーりー」
香りですっかり元気を取り戻したのか、お師匠はご機嫌だ。
「そんな喜ぶほどのことですか? 食事はいつも僕が作ってるのに……」
「だってセラは、弟子くんのお料理が好きなんだもん」
ふわり、と鍋を覗き込みながら、お師匠はうっとりしている。
「シチューは甘くてトロトロで、かれ? っていうスパイシーなのもおいしいし。セラ、煮付けたお魚があんなにおいしいなんて思わなかったよー。だから弟子くんのお料理が好きなの」
たまんないよぅ、とお師匠はどこか虚空を見上げて呟く。
……どうやら、餌付けしすぎたようだ。