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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
声を亡くした歌姫編
24/74

24.おくりもの

 朝になった。


 これからハルは、ハル・シェルシュタインという名前で、メルフェニカの魔法学校に通うことになっている。元は歌姫でもあったわけで、魔法使いとしての才能は母親譲りなんだとか。

 だから、それを生かす道が最適という判断からだ。

 学校は学期の途中らしいけれど、ハルは才能があるから大丈夫、とのこと。


「学校はねー、きっと楽しいと思うよー」

 お師匠は、さっきから念入りにハルの髪をいじっていた。

 少しでも長く一緒にいたいのかもしれない。


 だけど、長いころならともかくすっかり短くなってしまった髪は、そう長々と弄繰り回せるものでもなくて。しばらくするとお師匠は、名残惜しそうに作業を終わらせた。

「メルフェニカの魔法学校はいいトコだとセラが保障するよ。だって、セラが時々せんせーしてるトコだからね。何かあったらセラの名前を出すといいと思うよ」

「うん……ありがと、セラお姉ちゃん」

 ぎゅうぎゅうと、子供のような大きさのお師匠と、子供のハルが抱きしめあう。僕はまとめられたハルの荷物を持って、それを見ている。ここは混ざるべきだろうけど、恥ずかしい。

「お兄ちゃんも、ありがと」

 それからハルは僕に駆け寄ってきて、ぎゅうっと抱きついた。

 まだ彼女の声を聞いてから数時間しか経っていないのに、その声はすっかり耳になじんでしまっている。だからこそ、声を聞いてしまったからこそ、寂しさはさらに募った。

 もう、この声を聞く機会は当分ないんだと。

 そう……わかっているから。


「セラさーん、そろそろ行きますよー」

 外からはミーネさんの声。


 彼女がメルフェニカの学校まで、ハルを送ってくれることになっている。なお、パメラさんはハルの髪を持って、夜のうちにここを去ってしまった。何というか……忙しい人だ。

 僕は家の外に出て荷物をミーネさんに渡し、ハルの頭を撫でる。

 言葉はない。

 なくても問題ない。


 ――がんばっておいで。


 ハルはにっこりと笑った。子供らしい、満面の笑みだ。

 大丈夫。声にしなくたって、僕の思いはちゃんと届いている。

「じゃ、出発しまーす」

「気をつけてねー。なんかね、最近メルフェニカは気候崩れ気味らしいからー」

「了解っす」

 確認するように、ミーネのドラゴンが羽を上下させる。

 軽い上下の運動はだんだんと力を増し、ドラゴンの身体がわずかに浮き上がった。


「あの……!」


 ミーネの腕の中にいるハルが、僕とお師匠を見る。

「わたし、がんばる。セラお姉ちゃんみたいな、パメラさんみたいな魔女に……」

 なるから、と。

 少し泣いているような声と笑顔を残し、ドラゴンは一気に空へと舞い上がった。下の僕らに挨拶するように何度か旋回し、一気に遠くへと飛び去っていく。

 その姿はあっという間に見えなくなって、そして僕とお師匠だけが残された。


「なんか、寂しくなりますね」

「そだねー」


 ふわふわと僕の隣に浮いているお師匠。吹き飛ばされないようヒトの姿だったけど、いつの間にか元に戻ったようだ。長時間ヒトの姿だったので疲れたのか、ふわりと僕の肩に座る。

「ハルからはねー、いろんなものをもらったような気がするんだよ」

「……そう、ですね」

「これからもがんばらなきゃねー」

 ハルに負けてはいられないんだよぅ、と自らを鼓舞するお師匠。

 確かにその通りだ。

 幼い彼女が遠い異国でがんばるのだから、こっちも負けてはいられない。僕は彼女と違って才能が皆無のようだけど、せめて簡単な魔法だけでも使えるようになっておかないと。



 ……さて、まずは今日のおやつの準備からはじめようか。

 腹が減っては戦はできぬ、というしね。

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