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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
声を亡くした歌姫編
21/74

21.木陰の揺り篭で

 穏やかな気候は、どうしても睡魔を呼び寄せる。

 一番危ないのは昼食後だ。お腹がいっぱいになって気温も程よくて、どんなにしっかり睡眠をとっていても、ついつい眠くなってしまう。横になったら、もう戻ってこられない。

 特に危ないのはお師匠だ。


「……むにゅ」


 現在、実に幸せそうな寝顔を僕にさらしつつ、木陰で惰眠をむさぼっている。食べてすぐに寝るのは身体によくないと、あれほど脅したにもかかわらず効果は限りなくゼロだった。

 お師匠はお世辞にも寝相がいいとはいいがたく、普通に目の毒なんですけど。

 こう……振り上げた足とか、いろいろと。

 今度、お師匠にロングスカートなどを買い与えなければ。マキシ丈のスカートをはいている女の子を町で見かけた。あれなら多少足を振り上げても大丈夫なはず、きっとたぶん。

 問題はそういうのをお師匠が気に入るかどうか、だ。ことごとく所持している服のスカート丈は短いから、もしかすると長いスカートは嫌いなのかもしれない。動きにくいだろうし。


 問題は、手に入れたとしてどうやって着せるか、というところ。

 普通に進めても着てくれるとは思えない。


 たぶん僕が褒めたら、気を良くしてきてくれるようになるんだろうけど。まずは着用するという最初の一歩を、何とかして踏み出してもらわないと。そこが一番の壁であり問題だ。

 しかしこの前に買い物に行ったから、当分出かけないと思う。

 足りない調味料も、足りている調味料も、一通り買い込んだのが痛い。

 一番少ないのはコショウなんだけど、これまでの経験上からして普通に使い切ろうと思ったら一ヶ月以上はかかる。もちろんコショウ三昧のメニューにすれば、もっと早くなるけど。

「さすがにそこまでは……」

 そんなわけで、僕は現状に耐える以外のすべを失った。

 お師匠は、一度男子高校生世代の脳内を覗いて自重を知るべきだと思う。中学生まで範囲を下げてもいいかもしれない。それとも、この世界の同年代はみんな達観しているのだろうか。


 ……いや、それはないだろう。

 お師匠が無頓着で、自覚が皆無なだけだ。


 あとは、きっと僕がそもそも異性というカテゴリにいないんだと思う。悲しい話だけど僕はお師匠にとって弟子以外の何者でもなく、種族だとか年齢だとか性別だとか些細なことで。

 それはそれで切ないような、くっつかれたりでうれしいような。

 ちょっとだけ複雑だ。

 さて、あのまま寝かしていたら風邪を引く。

 僕は物置から薄い毛布のような布を引っ張り出して、お師匠のところに戻った。


「――」

 なぜか、ハーヴェルがそこにいた。

 お師匠の隣で、ネコのように少し身を丸くして。


 ほんの一分かそこらの間に出現した彼女にも毛布をかけて、僕は家へ戻る。時計の時刻はちょうどお昼とおやつの間。今からなら、少し凝ったものが作れると思う。

 棚から砂糖や小麦粉を引っ張り出しながら、僕はぼんやり考えた。

 お師匠がいて、僕がいて、そしてハーヴェルもいる。実に穏やかで平和な日常だ。意味もなく笑ってしないそうになるくらいに、僕が置かれた環境は幸せなものだ。



 いつまでも続けばいい。

 この日々が、いつまでも続けばいい。

 そんな都合のいい展開なんて、ありえないとわかっているけど。

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