20.謎の苗
庭の果樹に実がなった。
どうも元の世界とはいろいろ違うようで、果樹は基本的に数日おきに一つか二つは実をつけてくれる。何ていうか……ゲームみたいだなぁ、とか思ったりする程度に規則的だ。
とはいえこれはこれで便利なもので、なぜならほぼ毎日何かしらの果物を収穫することができることがわかっている。それらを利用する料理などを、効率よく献立に加えられるのだ。
朝から僕はハーヴェルに籠を持ってもらいつつ、レモンっぽい果物を収穫する。
っぽい、が要らないくらいレモンレモンなんだけれど、微妙に違った。そういう凄く小さな違いに気づくたび、それを認識するたびに、ここは僕が生まれ育った世界ではないと思う。
「――」
僕が果物をもぐたび、すっと籠を持ち上げるハーヴェル。
その目は、それで何を作るの、と問いかけるようにキラキラしていた。
柑橘類はいろいろと使える。ジャムにしたり、紅茶とかに入れたり、料理の下味などに使ってみたり。これはさすがに無理だけど、そのまま食べるなんて選択肢もあるだろう。
今日は……そうだな、ドレッシングに使おう。
果汁を絞って、皮もきれいに洗って細く切って混ぜて。
「畑から野菜を取ってこなきゃなぁ……」
お師匠は基本自給自足が好きらしく、僕が作ったあの家庭菜園をよくいじっていた。どこからか持ってきた謎の苗を植えたり、水をやったり、肥料らしきものをまいていたり。
僕がひそかに福袋苗と呼んでいるあれは、森の中で見つけてくるそうだ。これは何ができるかなぁと子供のようにはしゃがれたら、僕には笑顔で苗を丁寧に植える以外の選択肢はない。
だってはしゃぐお師匠は、とてもとても可愛いから。
ちなみに、謎の苗はだいたい野菜かハーブらしきものができる。トマトのようなものやジャガイモのようなもの。丸いトウモロコシみたいなのがなったのもあった。
いくつかはさらに種を取り、畑に植えていたりする。
……季節やら土地やら気温やら何やらといった細かい要素は、あまり関係ない世界なんだろうか。要するにどこででも何でも育つ的な。便利だけど、僕としては違和感が少しだけ。
とはいえ細かいところを気にしても仕方がないし、都合もいいし、ありがたくこの世界の不思議な仕組みを受け入れることにしている。少なくとも、害になるものではないのだし。
「ありがとうハーヴェル」
「――」
ハーヴェルに持ってもらっていた籠を受け取り、頭をなでる。
うれしそうに少し微笑んで、彼女は家の中に走って戻っていった。
それと入れ替わるように。
「弟子くーん」
お師匠がギューンと飛んでくる。
僕にぶつかるというブレーキをかけ、お師匠は僕のそばに急接近した。
「じゃーん、みてみてー」
得意げに差し出されたのは、福袋苗。
あぁ、また持ってきたんですね、と答えつつ、僕はどこに植えるか考えていた。