19.お買い物
……さて。
僕は今、お師匠とハーヴェルと一緒に、近くの町に来ている。
この世界に来た時に、僕が散々さまよった場所だ。
魔法大国であるメルフェニカ王国の隣、同じく魔法を重視するノイン王国。ここに来て長い時間が経ったように思うけれど、僕は初めて自分が住んでいる国の名前を知った。
白いレンガっぽい資材で作られた建物は、実にオシャレな雰囲気がある。ヨーロッパのような感じと言うべきだろうか。道は整備されていて、ところどころに噴水と公園がある。
そこには子供がたくさんいて。
「にゃー! やめれー!」
なぜか、お師匠が追い回されていた。
一応、買い物に来たのだけれど……あの様子では無理かもしれない。ちなみにハーヴェルは子供たちに混ざって、一緒にお師匠を追い回している。どことなく楽しげな様子だ。
僕は近くのベンチに腰掛け、はしゃぐ子供の声を聞きつつ周囲を眺めている。ここはちょうど町の中心部で、僕の位置から見て左右に伸びているのが大通り――街道の一部だという。
右がノイン王国の首都へ、そして左がメルフェニカ王国だったはずだ。
この道をメルフェニカ方向へ進むと、ランドール領があるという。お師匠曰く、魔法使いは行かないほうがいい場所だとか。何でも極度の魔法嫌いで、バレたら命はないのだとか。
特にお師匠――妖精種やエルフ種など魔法が使えて当たり前の種族だと、実際には使えなかったとしても問答無用で追い出されたり、白い目で見られたり、ボラれたり……などなど。
聞くだけで恐ろしい町だ。
そんなところに到着しないでよかったと思う。
いや……異世界から来たなんて言ったら、たぶん魔法使いかそれに似た何かに認定されてしまうだろうし、そうなると何もわからない僕としてはまさに人生の終わりなわけで。
「――」
くんくん、と服を引っ張られる。
いつの間にか僕の背後に、ハーヴェルが立っていた。
彼女を見て僕は、ここに来た理由を思い出す。ハーヴェルの服やら何やら、ともかくいろいろと買い込むために来たんだった。……問題はお師匠が、未だ追い回され続けていることで。
「あー、先に服の店に行ってますからねー」
と、僕は軽く声をかけるだけにし、ハーヴェルと手を繋いで店に向かった。
背後から薄情者だの何だの聞こえるけれど、聞こえないことにする。
初めて『町』に来たのか、ハーヴェルはどこか楽しそうだった。表情はあまり変わらないのだけれど、だんだん彼女の感情を掴み取ることができるようになってきている。
そんなハーヴェルが、ある店の前で足を止めた。
「――」
ちらり、と商品と僕を交互に見る。
ガラスの向こう側にあるのは、人形が纏ういかにも女の子らしい服だった。
今の服ほど装飾がゴテゴテしていない、シンプルな感じのワンピース。足元にはリボンがついた靴に、髪飾りもある。値札を見たところ、結構なお値段のようだけれど……。
「――」
じいっと、見られている。
一応、僕がサイフを預かっているし、そこそこの金額は持ってきたのだけど。さすがにちょっと高すぎるというか、森の中で着る服じゃない、かな。普通にしていても結構汚れるし。
とりあえず店の中に入る。
ハーヴェルは店の中に入ると、手ごろな値段の服を見始めた。
どうも、この店にある服が気に入ったという感じらしい。ほっと胸をなでおろしつつ、ちょこまかと移動する彼女について歩く。ピンクピンクした店内は、ちょっとだけ居心地が悪い。
「――!」
ある服とリボンをを手にとって、ハーヴェルは僕を振り返る。
これまたいかにも女の子、という感じのワンピースだ。
Tシャツっぽい生地でできている。すそには濃いチェックの布が、ひだを作るように縫い付けられている。リボンはその布と同じもので作られていて、黒いレースで縁取られていた。
「こういうのがほしいの?」
こくこく、とうなづかれる。値札に書かれた値段は手ごろだ。これならあと三着ぐらいは買っても大丈夫だろう。そういうと、ハーヴェルはうれしそうに僕に抱きついてきた。
だんだんと感情を表に出してくれて、僕はうれしく思った。
その後、僕とハーヴェルは他の店を巡り、それぞれで服や靴、髪飾りなどを購入。ついでに筆記用具の類も入手して、さらについでにカフェでちょっとした甘いものなども食べてみた。
夕暮れが始まりかけたころに、お師匠と別れた場所に戻ったのだけれど。
「……ぐすっ、ひどいよぅ」
木の上でひざを抱えてすねたお師匠の説得に時間がかかって、結局、そのまま一泊する羽目になってしまった。今度からは、しっかりとお師匠を確保してから移動しようと思う。