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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
声を亡くした歌姫編
18/74

18.言葉

 朝起きて三人分の食事を用意し、家事をこなしつつハーヴェルの様子を伺い、お師匠の手伝いなどをし。昼食を作り、日替わりおやつも作り、夕食の準備をし、汗を流して眠る。

 それを何度か繰り返していくうちに、僕はある問題に直面した。


 ――ハーヴェルだ。


 彼女の首には、黒く禍々しいあざがある。一見するとそれはレースのようで、美しくすら見えるけれど、その黒いあざのせいでハーヴェルは声を出すことができないでいる。

 声を出せない、というのは不便だ。

 他のことをしながら問いかけ、それに対する質問を得る……とか、僕が日常で普通に使っていることができない。これで迷子にもなられたら、それこそ大騒ぎになってしまう。

 何かしら、意思疎通する方法はないだろうか。

 僕は何通りか手段を考え、ある日、夜中にお師匠に相談してみた。


「やっぱり筆談ですかね」

「んー、無難だよねー。問題は文字を教えなきゃいけないことだけどー」

「……そういうの教えないんですね、その神殿とやらの人たちは」

「必要がないからじゃないかなー」

 お師匠がいうには、歌姫というものは崇められる存在なのだそうだ。

 時々人前に出て崇められて、普段は歌をうたったり世話をされたりするだけの日々。必要のないことは何一つとしてさせずにいて、もしも『使えない』となったら捨てる。

 だから歌姫は、ハーヴェルは基本的な知識がない。年齢もあるんだろうけれど、文字の読み書きもできないし簡単な計算もできない。たぶん、僕以上にこの世界を知らないと思う。


 ……いや、知らないように育ててきたんだ。


 下手に知識をつけられたら、自分たちの言うことを聞かなくなると思って。これはまさに道具扱いだ。道具として使い勝手がいいように育て、そして捨てた連中への怒りがこみ上げる。


 まぁ、そいつらを詰っても問題は解決しない。

 殴りこむにしても水上都市は遠いし、前提条件である殴りこむだけの力もない。兵士か何かにバッサリ切られておしまいだ。それに長く続いた行為を、止めるだけの材料もないし。


 歌姫がいなければ都市は終わってしまう。

 都市に暮らす人は、きっとかなりの数いるのだろうから……彼らと歌姫を秤にかけて、そして選んだのが今のシステムなんだと思う。いや、そう思わないとやってられない。

 もしもくだらない何かのために、ハーヴェルがこんな目にあったなら。

 僕は……。


「とりあえず文字のお勉強だねー。セラ、メルフェニカの魔法学校で時々特別せんせーもするから、一応『人に何かを教える』のはそこそこ得意な方だと思うんだよぅ」

 と、そこでなぜかお師匠は、にやりと僕を見て笑い。

「弟子くんも、文字は読めるけどあんまり書けないから、一緒におべんきょーだね。例の日記だってニホンゴってので書いてるでしょ? セラには読めないからわかるんだよー?」

「おっと僕には用事があるので失礼しますよお師匠」



 僕はすばやくその場を離れた。

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