17.添い寝リターンズ
「……眠った?」
「えぇ、まぁ」
夜遅くに、僕とお師匠はリビングにいた。
ハーヴェルはいない。お師匠の部屋にあるベッドで眠っている。
僕は紅茶を二人ぶん淹れて、テーブルに並べた。
「あー、今日も疲れたー」
ヒトの姿をしているお師匠は、ソファーの上で胡坐をかいでいる。
……いろいろ危ういのでやめてほしいんですけどね、えぇ。
お師匠の服は、どれもこれも丈が短いから。
「もう魔力すっからかーんだよー」
しばらく羽は出ないね、ため息混じりにつぶやいた。
そう、お師匠は自ら望んでヒトの姿というわけじゃない。
妖精種の羽は魔力の固まりだ。あれは使い切らなかった魔力を、羽の形に固定しているのだと言う。要するに、あれはストックというわけだ。普通なら使い切らない。
しかし魔法によっては、とんでもない負担を支払うことがある。
そうすると妖精種はあの小さな姿を保てず、ヒトになってしまうのだ。
「……でもなんでヒトの姿に?」
「さぁねー、セラもわかんない。そういうものだーって認識だもの」
「不思議ですね」
「空を飛ぶだけで魔力を消費するから、魔力が無くなると飛べなくなって、でもあの大きさだと危ないからヒトの姿になるっていう説があるけど……まぁ、そんなもんじゃないかなー」
「当事者がそんなアバウトでいいんですか」
「だって『そうなる』んだから仕方ないよぅ。調べる技術なんてないしー」
ずずず、と行儀悪く紅茶をすするお師匠。
よくわからないけれど、お師匠が言った説は結構わかりやすい。確かにあの大きさで足元をりょこりょこされたら……踏まない自信は僕に無い。お師匠が相手でも、自信が持てない。
自己防衛というヤツなんだろうか。
何にせよ、とても便利だ。
時と場合とお師匠の服装にも寄るけれども。
たとえば今なんかは、あまりよろしくないタイミングだ。お師匠が使うベッドは一人用で大きいとは言いがたく、子供とはいえ二人も眠れるほど面積はない。
僕のベッドはふた周りほど大きいからいけそうだけど、もしベッドを入れ替わるとしても明日からの話だ。さすがに眠ったハーヴェルを、起こすようなことはできない。
普段ならベッドは本を置く場所で、お師匠は部屋にある綿やら何やらを詰めた籠の中を寝床として使っている。しかしヒトの姿ではさすがに使えない。
かなり困った状態なのだけれど、お師匠はなぜかうれしそうに笑っている。
数秒後、その意味を僕は思い知った。
「こうなったら仕方ないね。セラが弟子くんに添い寝をしてあげよう」
「結構です」
「遠慮しなくてもいーんだよぅ。さぁ寝よう、ほら寝よう」
「僕は床でいいです」
「師匠命令には従いたまえ、さぁ、添い寝だよ」
「だから、僕は床で……」
「じゃあ、セラも床で寝るよ。弟子くんが寝るとこで、セラも一緒に寝るの」
さらに数秒後、僕は自ら折れることにした。このまま続けてもたぶん堂々巡りだし、どうせ朝起きたら隣にいるんだろう。結果が同じなら、もう最初からおとなしくする方がマシだ。
がんばれ、僕の理性。