表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
声を亡くした歌姫編
16/74

16.はじめてのお料理

 トントントン、と野菜を切る。

 とん、とん、と野菜が切られていく。

 横目で様子を伺いながら、僕は夕食の準備をしていた。隣には、危なっかしい手つきで野菜を切っているハーヴェルがいる。……実に緊張した、こわばった表情だった。


「料理は初めて?」

「――」


 こくり、と頷かれる。

 質問してから、そういえば彼女は『歌姫』だと思い出した。なにせ町を一つ浮かし続けるために必要な存在なのだから、料理なんてするはずがない。というか必要が皆無だろう。

 ケガでもされたら困るだろうし、何より召使がたくさんいただろうし。

 そのわりに来ていた服は、シンプルで質素なものだった。もしかすると着替えさせたのかもしれない。あるいは、あの格好でどこかから追い出されたのだろうか。


 ハーヴェルとの出会いから数日。

 ミーネさんを通じて僕らが知ったのは、彼女が受けたひどい仕打ちだった。


 類まれな力を持つ歌姫を母に持ち、しかしそれに似合う力がなかったハーヴェル。

 たったそれだけの理由で、彼女は居場所をなくした。

 ――その『声』すらも殺されて。


 挙句、向こうの都合次第では連れ戻される可能性があるという。実に腹立たしいことだ。今ほど自分に戦う力がないことを、恨んだ時はない。戦えたら、どれだけ安心できるか。

 誰が来ても追い返すと、怯える彼女に約束できない自分が情けない。

 本当に、情けない話だった。

「――」

「ん?」

 くんくん、と服を引っ張られる。

 ハーヴェルはどこか自慢げな表情で、彼女用のまな板を指差した。全部切れた、ということらしい。きれいにさいの目きりされた野菜が、まな板の真ん中にちょこんと山になっていた。

 多少は大きさにばらつきはあるけれど、充分に許容範囲。

 少なくともお師匠よりは、ずっとずーっとマシだ。


 あの人、魔女としては天才なんだろうけれども、いかんせん、こういうことがまったくできない。させるだけムダとは、まさにお師匠のための言葉なんだと僕は常々思う。

 元々僕だって、料理とかはそうできる方じゃない。

 ゆで卵とかぐらいなら作れる、という感じだ。繕い物なんてしたこともない。むしろ掃除以外の何もかもを、こっちに来てから本格的に触れてみたと言ってもいい。

 それもこれもお師匠が何もできないせいだ。

 そして――僕がそれ以外に何もできないせいでもある。

「よくできました。じゃあ、向こうで休んでていいよ。あとは僕がやるから」

「――」

 しかしハーヴェルは動かない。

 鍋に野菜を入れる僕を、じっと見ているようだ。……調理を見学したい、ということなんだろうか、これは。キッチンは結構広いから、邪魔にはならないけれど、少し緊張する。

 とりあえず、僕は鍋に油を入れて野菜を炒めはじめる。

 今日は野菜たっぷり具沢山スープだ。焦がさないように具をかき混ぜる僕の手を、ハーヴェルはじっと見ている。彼女はどこからか椅子を持ってきて、その上に立っていた。

 視界の端に、ふんだんにあしらわれたフリルが入る。

 ハーヴェルが着ている服の装飾だ。

 たまにテレビで紹介されていた、ロリータなるジャンルの服に近い感じがした。まさにお人形と言った感じの、かわいらしい洋服だ。……ちなみに、お師匠の余所行き用衣装の一つ。


 普段は装飾のカケラもないワンピースだけど、それなりの場所に行くときには、やはりそれなりの格好をするらしい。僕は一度も見たことがないけど。シンプルなのが好みだそうだ。

 でもお師匠にも絶対に似合うから、普段から着ればいいのに。そう言ったら、それじゃ余所行きの意味がないんだよぅ、とお師匠に怒られてしまった。



 ……乙女心はよくわからない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ