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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
声を亡くした歌姫編
14/74

14.ハーヴェル

 ――ごめんなさい。


 首にまかれた黒いひも。

 わたしはわるいこだった。

 おかあさまは、あんなにすごい歌姫だったのに。

 わたしは、わるいことをする、わるい子になってしまった。おかあさんに、もうどこにもいないおかあさんにおこられる。ごめんなさい、ごめんなさい……ハーヴェルはわるい子です。


 だけど、わたしの声はもうもどってこないのです。

 にどと歌うことができないのです。

 わたしは歌姫としてダメだから、黒いひもで声をころしてしまったから。

 だから、わたしはなみだをポロポロとおとすだけ。

 ずっとくらしていた、神殿の前。ポイ、と、ゴミのようにつまみ出されて。わたしはすわりこんで泣くことしかできません。だって何もできなくなってしまったから。


 まわりの人は、見ているだけ……でもない。

 だれも、わたしを見ていません。


 だってわたしは、この場所のために何もできない、ダメな子だから。

 やくたたず、だから。

 きっと、このままおなかがすいて死んでしまうんだろう。首に黒いひもをまいた歌姫は『ざいにん』だから、ハーヴェルはわるい子だから、みんなにきらわれてしまっているから。


 ――わたしは、おかあさんを『ころして』生まれてきたと、神官さまに言われました。わたしには、ハーヴェルにはそれだけのいみがあったのに、と言われました。


 だからがんばったんです。

 つめたいお水につかるしゅぎょうも、がんばったんです。

 すごいすごいと言われる、そんなおかあさんが大好きだったから。おかあさんのむすめとしてはずかしくない歌姫になって、おかあさんが天国でよろこんでくれるようにって。

 だけど、だけど。


 おかあさん。

 ハーヴェルは何がいけなかったんでしょうか。


 おかあさん。

 ただみんなのために、歌っていただけなのに。


 おかあさん。


「お前、歌姫なんだってね」


 誰かが――わたしのそばにやってくる。

 見上げると、そこにはとてもきれいな女の人がいました。

 神殿を守っている兵士さんが、おどろいたようすで神殿の中にもどっていって。そして神官さまがもっとあわてたようすでとびだしてきて。わたしを抱き上げる、その女の人をみて。


「不老の魔女が、何用だ」

「捨て子を拾っただけだが、何か問題でもあるのか?」

「その子は――」

「希代の歌姫リエル・シルスの娘ハーヴェル。知っているさぁ、貴様に横から掻っ攫われたかわいいかわいい弟子候補の娘なんだからな。……だ・か・ら、こうして迎えにきたのさ」


 まじょ、とよばれた女の人は、長い長い耳をぴくぴくと動かしている。

 本で読んだことがあった。

 この女の人は、エルフ種なんだ……。


「あぁ、ところで『次の娘』は育ってるのかい? だからこの子を捨てるんだろう?」

「……何の、ことだ」

「それともあれかね。齢十四の美姫の身体を手に入れたら、もうそっちは役立たずになっちまったのかね。リエルはもう死んじまったからねぇ……かわいいかわいい、姫を残して」

「……っ」

「てめぇの下種なタネでもさ、娘が生まれるならって上が見逃したんだよ。命の恩人をポイ捨てとはね。神官さまも落ちるトコまで落ちたもんさ。それでも娘に手は出さないんだねぇ」

「きさま……この私を愚弄するのか!」

「近寄るんじゃないよ、この恩知らずのクソ野郎が。それ以上近寄ったら物理的に種無しにしてやるよ。さすがに呪いでダメにするのは、色々と『かわいそう』だろうからねぇ……」


 わたしをだきかかえたまま、まじょさんはたのしそうにわらっている。黒い、きれいなドレスがひらひらと風にゆれて、長くて黒いかみのけが、まるでおどってるみたいにゆれている。



「なぁ、ハーヴェル」

 まじょさんはわたしを見て、にっこりとわらって。


「どうだい? アタシのところにこないかい?」


 わたしは、こくこく、とあたまをうごかしてへんじをした。

 神官さまは……真っ青になったまま、わたしたちを見ているだけだった。

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