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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
森の中の生活編 -1-
12/74

12.水上都市の歌姫

 いつものように朝ごはんを作って、いつものように昼食とおやつの準備をして。お師匠は気ままに読書をしたり、時間のかかる実験の経過を伺ったり。そんな、他愛ない日常に。


「こんちゃーっす!」


 聞きなれた少女の声と、周囲の木々を揺らす羽ばたきの音が追加された。

 窓から空を見ると、細身の青黒いうろこを持つドラゴンが降下してくるのが見える。

 友人が持っていたゲームに、ドラゴンに乗って戦っているキャラクターがいたけれど、彼らが乗っていたドラゴンと似ているように思う。飛ぶことに特化した、身軽な感じだ。

 ゆっくりと降下したドラゴンの背には、毎度おなじみの彼女がいる。

「毎度おなじみ『魔女宅配』でーす」

「ごくろーさまー」


 一階にいたお師匠が、ヒトの姿になって近寄る。

 あぁ、ドラゴンの羽ばたきに吹っ飛ばされたからな、前に……。


 僕も慌てて一階へ向かい、外に出た。いくらヒトの姿になっても、そのヒトが非力なことこの上ないお師匠だから、荷物の類は基本的に僕が持ち運ぶことになっている。

 もちろん魔法を使えば簡単なんだけど、お師匠はそういうのは人力を好んだ。世の中には身の回りのすべてを魔法でまかない、料理さえも魔法で仕上げるものぐさがいるそうだ。

 で、そのものぐさな魔法使いとお師匠は仲が悪いのか、自力でできることを魔法でやるのを極端なほどに嫌う。なのでお師匠が作るのは、ランプなど生活必需品に使うものだけ。

「いつもご苦労様です、ミーネさん」

「いえいえー」

 ひょい、とドラゴンから降りた魔女――ミーネ。

 ゆるく結われた三つ編みが、身体の動きにあわせて揺れた。


「さてさて、いろいろ仕入れてきたんですけどどうっす?」

「……君は宅配業者なのか、商人なのかはっきりしたらどうかな」

「ふふ、ウチは副業オッケーですしねー。これで顧客もゲットできるですしー」

 さぁさぁさぁ、とミーネさんはいつものようにスティックを駆使し、魔法で繋がる特殊な空間からモノを目の前に出現させる。それは、僕が今まで見たことがない不思議なものだった。


 水面のように、自然ときらめく宝石か何かの原石。

 青のグラデーションが美しい布。

 後は見たことがあるようでないような、果物や野菜など。


 イカや魚もあった。特殊な空間はイコール冷蔵庫というわけではないらしく、魚介類はカラカラの干物になっていた。これはこれでおいしそうで、思わず頭の中のレシピ帳をめくる。

「んー、これってさ、やっぱりあの水上都市から?」

「そうっす。ちょうど臨時で手伝いに行ってたんですよね。ちょうどお祭りの時期で、噂の歌姫さんを空からジーっと眺めさせていただきました。いやぁ、キレイだった」

「水上都市と……歌姫?」

「はいはいはーい、説明はこのミーネさまにお任せを!」

 言葉と共にポポンという感じの破裂音がし、見ればミーネさんが謎の本を手にしていた。

 なぜか、メガネなんてオプションまで。


「水上都市っていうのは、文字通り水の上の都市。歌姫も以下同文です」

 海の上にあるその都市には歌と、霧が満ちている。海路の重要拠点であると同時に、そこは現存する【古魔法】の一つを管理し、現代にも伝えている一族が収める国。

 都市全体で守り伝えてきた【古魔法】は、声を触媒にする魔法。使い手は主に女性で、ゆえに魔女ではなく歌姫と呼ばれる彼女らは、国民にとても慕われている。


 ――と、説明はされたものの、にわかには信じがたい。

「そんなこと、できるんですか?」

「一応はね。何たら魔法式ーっていうのも、その名残らしいし。ただね、声が届く範囲じゃないと魔法の効果はないし、魔石っていうレアなアイテムが必須になるから面倒なんだよー」

「だから廃れた、と」

「さすがセラさんのお弟子さん、飲み込み早いっす」

 さてさて、とミーネさんはにやりと笑った。

「ここにありますは、その神秘の都市の名産品! さぁさぁ、早いもん勝ちっすよー」

「んー、どうするー?」

「……じゃあ、干物を各種、三つずつ。それからこの布を少し」

「まいどー! ……ところで布は何に?」

「お師匠が盛大に破ったカーテンの補修に」

「あー、大変ですね、ガンバっすよ」

 商品とお金を交換すると、ミーネさんは颯爽とドラゴンにまたがり、飛び去っていく。この辺は範囲は広いのだが、人手が足りないらしく、彼女はいつも忙しそうにしている。

 家の上空で挨拶するように数回くるくると回り、彼女は次の場所へ飛び去っていった。

 荷物を抱えて家に戻りつつ、僕はミーネさんと交わした言葉を思い出す。



 海の上に浮かんだ、歌姫に守られた霧の都市。森の中に住んでいるから忘れそうになってしまうけれど、この世界にもそれなりに海が存在していて、そこに都市まで浮かんでいる。

 その噂の水上都市に……少しだけ、行ってみたい気がした。

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