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手乗り魔女と異世界からきた弟子  作者: 若桜モドキ
森の中の生活編 -1-
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11.才能の褒め方

 ……さて、僕は正座してお師匠の話を聞いている。

 僕の目の前には黒い残骸。あの結晶とは似ても似つかぬ謎の物体。ランプの火となる黒い結晶を作ろうとした僕が、最終的に作り出したのは……まぁ、失敗作というやつだった。


 手順は間違ってないはずだ。

 というか、間違えるほど複雑でもない。


 あらかじめ教えられたレシピの通りに材料を混ぜるだけだ。料理で言うと目玉焼きのようなもので、もしもかの料理を間違える方法があるならぜひとも聞いてみたい。

 だけど僕は失敗した。

 ……どこで間違えたんだろう。


「というわけで、弟子くんのせーせきはっぴょーをします」


 僕の前でお師匠は、ふわふわと浮いていた。

 妖精種の羽は魔力の塊で、羽ばたかなくても浮いていられるのだと言う。というか羽ばたく力は皆無なんだと、本には書かれていた。……だから強風に抗えず飛ばされているのか。

「あのねー、セラの羽はどうでもいいからねー。ジロジロみないのー」

「はい」

「やっぱり弟子くんはさ、魔法式の展開がちょっと……うん、ダメダメな感じだね」

 お師匠はくるりと一回転し、ヒトの姿になる。

 そして僕が作った残骸の一つを摘んで、しげしげと眺めた。

「触媒の調合までは問題ないよ。一応結晶はできてる」

 だけど、とお師匠は続ける。


「キレイに固定化されてないっていうか、そんな感じ。使えなくもないけど、たぶんね、一瞬だけペカっと光って消えちゃうと思う。失敗作じゃないけど、ダメダメな感じ?」


 どうしてだろうね、となぜか問いかけられた。

 そんなの、僕が聞きたいくらいだ。

 正直なところ、中途半端に成功するなら最初から失敗してほしい。

「これはパメラの世界構築理論と、セラの予想なんだけどね。世界の素材はあらかじめ用意されていてさ、それをやりくりしてたくさんの世界が、存在しているとするよ」

「はい」

「作られた世界には、その世界固有の『理』があるんだろうね。そこで生み出されたすべての物体は、その『理』という方式にのっとって作られるんだと思うんだよ、セラは」

 それはつまり……僕がいる世界には魔法がない。魔法という『理』が存在しない世界で作られた存在だから、魔法式を扱うことができないという意味なのだろうか。

 確かに、そうするのが一番わかりやすいと思う。

 納得もできる。


「つまり僕は魔法使いにはなれない、ということですか」

「まぁ……そうなるね。とはいえ同じ材料で作られた肉と魂なら、今後の訓練次第で眠っていた力がペカっと目を覚ますかもしれない。希望は捨てちゃダメダメなんだよ」

「……はい」

「それに使えないなら使えないで、開き直ればいいんだよぅ。セラみたいに触媒調合専門の魔法使いになっちゃえば。それに弟子くんにはね、もっともっとすばらしい才能があるよ!」

「才能、ですか?」

「そーだよ、さいのーだよ。なんたって弟子くんはね、お料理が上手なの。おいしいよ。サラダのドレッシングも、スープも、お肉を煮込んだのもね、もちろんお菓子だっておいしいの」

 にへら、と表情を緩ませた、幸せそうな笑みを浮かべるお師匠。

 どこかで見たような、と思い出すまでもない。毎食とおやつの時に見せる、恍惚としたそれ以外の何者でもないからだ。ここに来てだいぶ経ったけど、お師匠はいつも同じ反応をする。

 ちらりと視線を向けた時計の針は、この世界で言う『おやつの時間』を指していた。



「つまり『おやつくれ』ということですね」

「えっ、ちちち、違うよ! セラは今ね、すごく弟子くんを褒めたの!」

「はいはい」

「あああ、あとねあとね! 弟子くんの場合『自分が使うのがアウト』だから、ランプみたいな仕組みなら魔法が使えると思うんだよ! 具体的にはわからないけどね、可能性なら」

「スコーンですか? パンケーキですか?」

「生クリームたっぷりのパンケーキ三枚重ね! ――ってちがーう!」


 違うのー、と大騒ぎするお師匠を放置して、僕はさっさとキッチンに向かう。

 まぁ、人間そう都合のいいことばかりではないので、天才的な魔法使いになれるとか思ったこともないし。むしろ似通った世界に飛んできた以上の幸せはないと思うんだよね。

 確かに使えたら、それはそれでいろいろ便利なんだろうけど。

「弟子くん弟子くん、違うんだよ、違うのー」

「はいはい」

 肩に乗ってぶつぶついうお師匠に、適当に返事を返しつつパンケーキを焼く。

 やっぱり、石をすりつぶすよりこういう作業の方が、好きかな。


 ……お師匠も喜んでくれるし。

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