表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/19

プロローグ

 雷鳴が夜を裂いた。


 濡れたアスファルトに二つの影が走る。


(みお)、こっち!」


 先を走る少女が振り返る。ショートカットの黒髪、鋭い瞳――朝霧(あさぎり)ほのか。

 彼女は澪と呼ばれた少女が唯一心を許した相棒だった。


「ほのか、待って……! あのデータだけは……っ!」


「大丈夫、バックアップは取った。あなたは逃げて!」


 澪は胸に抱えた小型デバイスを強く握りしめる。

 冷たい金属の感触の向こうに、自分の全て――ARIEL(アリエル)計画の結晶が詰まっていた。


EIDOLON(アイドロン)がまだ安定してないのよ!」


「安定してなくても動かすの! やらなきゃ殺される!」


 遠くで銃声が響く。

 光の破片が夜の雨を貫いた。


 追っ手は容赦なく迫ってくる。NEMESIS(ネメシス)の実行部隊。


 そのとき、ほのかは振り向きざまに微笑んだ。


「――澪、あなたの『心』は私が守る」


 そう言って、彼女はデータ転送キーを澪の手に押し込み、反対方向へと走り出した。


「ほのか!? 待って、ダメ――!」


 次の瞬間、爆風と伴に耳をつんざく轟音が辺りに響く。


 視界が白に塗り潰される。


   ***


 ……雨の匂い。

 そして、遠くから誰かの声。


『――「EIDOLON」、稼働開始』


 自分の声だった。

 だが、口は動いていない。


 思考が、身体から切り離されていく。


 ――これが……再投影……?


 世界が反転するような感覚の中で、白瀬澪(しらせみお)はふっと笑った。


「やっと、証明できた――『想い』は、死なない」


 それを最後に、意識は暗転した。


   ***


 次に目を開けたとき、世界はもう静かすぎるほどに穏やかだった。


 雨音だけが一定のリズムで響いている。


 見上げると、古びた木造のアパートがぼんやりと立っていた。

 看板には、消えかけた文字で「白鳩荘(しろはとそう)」。


「……ここは……?」


 声は出た。

 けれど、息は白くならなかった。


 手のひらを見つめる。

 濡れているのに、雨粒が触れない。


 ――私は、死んでるの?


 疑問よりも先に疲労が押し寄せた。

 倒れ込む身体。地面に触れた瞬間、ふっと世界が遠のいていく。


「おやまあ、こんな雨の中に……!」


 ぼやけた視界の向こうで、優しい声がした。

 古い傘を差し出す老女の姿。


「ずぶ濡れじゃないの。早く中へ入りなさい」


「……私……ここに、いていいの……?」


「いいも悪いもないよ。困ってる人を放っておけるわけないだろう?」


 女性の手が伸びてくる。

 その手を掴もうとして、すり抜ける。


 でも、温かさだけは確かに感じた。


「……ありがとう……」


 その言葉を最後に、澪の意識はふっと途切れた。


 目を覚ますと、布団の匂いがした。

 どこか懐かしい――まるで実家のような温かさ。


 (かたわ)らのちゃぶ台には、タオルと湯飲み、そして一枚のメモ。


『ここは白鳩荘。好きなだけ休みなさい――佐久間』


 メモの端には優しい筆跡でこう添えられていた。


『きっと、ここならもう誰にも見つからないよ』


 澪はその文字を指先でなぞり、静かに目を閉じた。


『誰にも見つからない場所』――


 それは、澪が生きてきた証を隠す最後の居場所(レイヤーフィールド)と同義だった。


        *


 それからどれほどの時が経ったのだろう。


 外の世界の季節は巡り、白鳩荘には新しい住人がやってきた。


 大学生。ゲーム好きで、どこか抜けていて。

 でも時々、誰かのことを本気で想えるような――そんな男の子。


 玄関の戸が開く音がして、埃っぽい部屋に光が差し込む。


「……ここが、新しい俺の部屋か」


 その声に、どこか懐かしさを覚えた。


 胸の奥で、何かが小さく共鳴する。


 澪は静かに目を開け、薄く微笑んだ。


「……また、誰かが『生きる』音だ」


 ――ここから、彼女の二度目の人生が始まる。


こんばんは!

『うちのルームシェア幽霊さんしか勝たん!』始めます!


社畜なりに、少しずつ更新していきます。

一区切りするまで粘るつもりです!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ