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魔術師様のお飾り妻のはずが身ごもりました  作者: 氷雨そら


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17/20

国王陛下と筆頭魔術師の家族

 ローレンが生まれてから一年が過ぎた。

今日は初めての本格的な社交だ。


「美しいな」

「ありがとうございます」


 金色の糸で刺繍されたドレスは、軽やかでありながら上質な印象だ。

 アレンディオ様は、筆頭魔術師の制服に身を包み、私に微笑みかけてくる。


 いつ見ても、見惚れてしまうほど麗しい――私の旦那様。


 アレンディオ様は褒めてくれるけれど、麗しいのは彼の方だ。

 男爵令嬢として育ってきた私だが、王立学園のマナーの教師たちにはどこに出ても恥ずかしくないとお墨付きをいただいていたから、なんとかなるはずだ。


「緊張しているのか? だが、今日は国王陛下ご夫妻と公爵夫妻、それから副魔術師団長夫妻と王立研究所所長が来るだけだからそんなに気負うことはない」


 ――そのメンバー相手に、気負うなというのは無理な話だ。


 アレンディオ様にとっては、いつも関わっている相手なのだろうが……。


「ぱーぱ!」


 なんとローレンは「まま」よりも「ぱーぱ」と言うほうが早かった。

 アレンディオ様の申し訳なさそうなことといったら。


「ふふ」

「まーま!」

「ええ、ローレン。一緒に行きましょうね」


 ドレスで子どもを抱き上げたまま歩くのは難しく、アレンディオ様が抱き上げてくれている。

 一緒に並んで歩くと、王城の奥へと案内される。


 奥の部屋には、すでに人が集まっていた。

 王国の中枢を担う者ばかりだ。


「あっ、新しい子が来た~!」


 走り寄ってきたのは、金色の髪に紫色の瞳の美少女だった。

 この国において、紫色の瞳が発現するのは王族以外にいない。

 つまり、目の前にいるのは第一王女エミリア殿下だ。

 お辞儀をすると、エミリア殿下はチョコンと立ち止まって、私たちを見上げた。


「面を上げよ」

「かしこまりました」

「第一王女エミリア・ミラベルよ。名乗りなさい」

「シエラ・フィアレでございます」

「やっぱり、筆頭魔術師の奥方なのね」


 エミリア殿下は、まだ四歳くらいだろう。

 王族というのは、皆こんなにも大人びているものなのだろうか。


 そんなことを思っていると、エミリア殿下はローレンに近づいた。

 アレンディオ様がローレンを抱き上げたまま膝をついた。

 すると、エミリア殿下とローレンの目線が合う。


「ねえ、どうしてこんなにたくさん精霊がいるの?」


 エミリア殿下は不思議そうに首をかしげた。


「――ああ、でも筆頭魔術師の子どもなのだから不思議ではないわね」


 紫色の瞳が虹色の光を帯びた気がした。

 もしかすると、瞳に魔力が宿っているのだろうか。


 すると、国王夫妻が壇上から降りてきた。

 私は再び深いお辞儀をしたが……先ほどから、アレンディオ様が頭を下げる様子がない。


「フィアレよ……娘が失礼した」

「エミリア殿下が私に興味を示すのはいつものことですので」

「だって、あなたっていつも精霊に囲まれているんだもの!」

「……どうぞ、ご自由にご覧ください、殿下」


 アレンディオ様がにっこりと微笑むと周囲がどよめいた。

 確かに、学生時代のまったく笑わない彼しか知らなかった私もとても驚いた。

 アレンディオ様は、ローレンが生まれてからさらに表情が柔らかくなったかもしれない。


「一緒にこっちで遊びましょう」

「まーま!」

「まあ、私はママではないのよ……でもいいわ、ほらこちらにいらっしゃい」


 アレンディオ様がローレンを下ろすと、エミリア殿下は手を差し出した。

 人見知りをするのではないかと思ったけれど、ローレンは機嫌良くエミリア殿下について行く。


「エミリアがごめんなさいね」

「王妃殿下、もったいないお言葉です」

「これから、娘と仲良くしてやってくれ」

「恐れ多いことです――国王陛下」


 こんなふうに、国王夫妻に声を掛けられる日が来るなんて、想像もしていなかった。

 でも、これからはこんな機会も増えるのかもしれない。

 ローレンとエミリア殿下が仲良く遊ぶ姿を見つめながら、私はこれからの日々に思いを馳せるのだった。


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