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ロンドン

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ルカはビルの差し出したコップを握りしめ、温かい飲み物の余韻に浸りながら、頭を整理しようとした。ロンドン?そんな場所、聞いたこともなかった。エリンディルの森では、星の光と湖の静けさしか知らなかったのに、今、目の前には騒々しい四角い「何か」と、夥しい数の人々が蠢く世界が広がっていた。肩の傷はまだ疼き、腕の黒い模様はまるで生きているかのようにゆっくりと動いている気がした。




「ピヨ!」真紅の小鳥がルカの肩で小さく鳴き、鋭い目でビルを睨んだ。ルカは小鳥をチラリと見て、ため息をついた。「お前…何を伝えたいんだ?どうして言葉が分からないんだよ…」小鳥は首をかしげ、まるで「自分で気づけ」と言わんばかりに羽をパタパタさせた。




ビルはルカの困惑した表情を見て、軽く笑った。「お前、ほんと変わってるな。その鳥も、なんか普通じゃない雰囲気だ。で、その腕のタトゥーみたいな模様…何だ?自分で彫ったわけじゃなさそうだな。」




ルカは腕を隠すように袖を引っ張り、警戒心を隠さなかった。「これは…関係ない。ビル、さっき言った『サツ』って何だ?お前も追われてるって、どういうこと?」




ビルは肩をすくめ、窓の外を指さした。「サツってのは、警察のことだよ。俺は、まあ…ちょっとしたトラブルメーカーでな。細かい話は置いといて、お前も何かヤバいもんに巻き込まれてるだろ?その傷、普通のケガじゃない。血が赤いけど、なんか…変な感じがする。」




ルカはビルの言葉にハッとした。確かに、星の狭間では銀色の血が流れていたのに、今は赤い。黒い模様が刻まれた腕も、どこか現実感が薄い。まるでこの「ロンドン」という場所自体が、ルカの知る世界とズレているようだった。「ここ…本当に現実なのか?織り手の地を出たはずなのに、なんでこんな場所に…?」




その時、鍵がポケットの中で熱く脈打った。ルカは慌てて鍵を取り出し、じっと見つめた。鍵の表面には、星の模様が微かに光り、まるでこの世界に反応しているようだった。「夜の扉を開け、世界を紡げ…」ルカは呟き、老人の言葉を思い出した。「変化に惑わされるな…って、どういう意味だ?」




突然、窓の外でけたたましい音が響いた。金属が擦れるような、耳障りな音だった。ビルが窓に駆け寄り、カーテンを引いて外を見た。「ちっ、まずいな!サツの車だ!ルカ、動けるか?ここにいるとマズいぜ!」




ルカは立ち上がり、肩の痛みを堪えた。小鳥が「ピヨピヨ!」と鳴き、部屋の隅にある古びた木の扉を指さすように羽を振った。扉には、かすかに星の模様が刻まれているのが見えた。ルカの心臓が早鐘を打った。「この扉…鍵が反応してる!」




ビルが振り返り、眉をひそめた。「扉?ただのクローゼットだろ?お前、頭打ったか?」だが、ルカには確信があった。この扉は、ただのものではない。星の織女の歌が、遠くからかすかに聞こえてくる気がした。




外の騒音が近づく中、ルカは鍵を握りしめ、扉に近づいた。黒い模様が腕を這うように動き、肩の傷が一瞬強く疼いた。「ビル、一緒に来るか?この扉…多分、俺が行くべき場所に繋がってる。」




ビルは一瞬迷ったが、ニヤリと笑った。「へっ、面白そうじゃん。サツに捕まるよりマシだ。行くぜ、ルカ!」




ルカは鍵を扉に差し込み、ゆっくりと回した。ガチャリと音が響き、扉が開くと、そこには再び眩い光が溢れていた。




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その数分後、二人は手錠をはめられ、四角い箱に入れられていた。小鳥は何処かへ行ってしまった。


「おいルカ!お前ただの頭がおかしいやつだったのかよ!」


ビルに責められ、ルカは顔を真っ赤にして言い返した。


「違う!何で……何で繋がらなかったんだ…?」


鍵は警察に奪われた。


ビルは両手で頭をかきまわした。


「クソッタレ。信じた俺が馬鹿だった。」


ルカは泣きたい気分だった。


もう彼には、何も無かった。鍵も、小鳥も、織女の歌も……。この変な世界から脱出する方法も分からない。僕はきっとこの世界で心を蝕まれて、死ぬんだ。何で鍵は僕なんかを選んだんだ…。何をやっても踏んだり蹴ったりで誰のためにもならない。


右手に巻き付いた黒い糸が、腕を締め上げる。


「…う……」


「おいルカ大丈夫か?顔色が悪いぞ。」


ビルが顔を覗き込む。


「何だビル、病人連れてたのか」


警察の一人が、窓から覗き込む。


「うるせえ。お前には関係ないだろ。」


ビルは警察を睨みつけて言った。警察は肩をすくめ運転席に乗り込んだ。


間もなくして、パトカーは進みだした。


肩と腕の痛みに加え、初めての酔いに襲われたルカは最悪な気分だった。


二人は少年院へ連れて行かれた。

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