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黒い模様

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ルカの意識が再び浮上したとき、彼は粗い毛布に包まれ、木の床の上で横になっていた。頭上には古びた天井が広がり、どこからか薪が燃える匂いが漂ってきた。肩の傷はまだ疼いていたが、誰かが布で巻いて応急処置を施したようだった。血は赤く、銀色の毒は消えていたが、腕に刻まれた黒い模様は脈打つようにうごめき、見ているだけでぞっとした。




「目が覚めたか、若造。」低い、渋い声が響いた。ルカが顔を上げると、部屋の隅で木の椅子に腰かけた老人がいた。白髪に覆われた頭、鋭い目つき、革の鎧に身を包んだその男は、腰に短い剣を下げていた。手に持ったパイプから紫の煙がゆらりと立ち上り、部屋に奇妙な甘い香りを漂わせていた。




「お前…誰だ?」ルカは警戒しながら身を起こした。頭はまだぼんやりしていたが、鍵を握る手に力を込めた。鍵はまだそこにあり、ほのかに温かかった。




老人はパイプをくゆらせ、目を細めた。「名乗るほどの者じゃねえ。ただの流れ者だ。だが、お前がその鍵を持ってるってことは、ただのガキじゃないな。織り手の地の外れで、ヴォイドウィーバーの追っ手に追われて倒れてた。運が良かったぜ、俺が見つけたからな。」




ルカは眉をひそめた。「ヴォイドウィーバー…あいつらがまだ追ってくるのか?」彼は腕の黒い模様を見下ろし、ぞくりとした。「それに…この模様は何だ?小鳥が…喋れなくなったみたいで…いや、俺がその言葉を理解できなくなったんだ。」




真紅の小鳥はルカの膝にちょこんと止まり、「ピヨ!」と抗議するように鳴いた。老人は小鳥を一瞥し、ふんと鼻を鳴らした。「そいつはただの鳥じゃねえな。星紡ぎの民の守護者だろ?だが、お前の腕の模様…それはまずい。闇の糸に触れたんだな。あれはヴォイドウィーバーの呪いだ。心を蝕む。放っておけば、お前自身が闇に飲まれるぜ。」




ルカの胸が締め付けられた。「心を…蝕む?どうすればいいんだ?この模様を消す方法は?」




老人は立ち上がり、窓の外を見た。そこには織り手の地の青い空が広がっていたが、遠くの地平線には不自然な黒い雲がうごめいていた。「方法はある。だが、簡単じゃねえ。鍵を使って、星の織女の元に行くんだ。あの女だけが闇の糸を解ける。問題は…ヴォイドウィーバーが織女の居場所を狙ってるってことだ。お前が鍵を持ってる限り、奴らはどこまでも追いかけてくる。」




「星の織女…」ルカはあの歌声を思い出した。母の目と同じ翡翠色の目を持った、真紅の髪の女性。「彼女は…母さんと関係があるのか?」




老人は答えず、ただパイプをくゆらせた。「さあな。それはお前が自分で確かめることだ。だが、急いだ方がいい。腕の模様が広がる前に、織女の塔に向かうんだ。そこに答えがある。」




小鳥が「ピヨピヨ!」と鳴き、ルカの肩に飛び乗った。まるで「早く行け!」と急かすようだった。ルカは立ち上がり、鍵を握りしめた。外では風が強くなり、黒い雲が近づいてくるのが見えた。老人は窓の外を指さし、言った。「塔はあの山の向こうだ。だが、道はヴォイドウィーバーの罠で溢れてる。気をつけな、若造。」




ルカは老人を見つめ、決意を固めた。「行かなきゃならない。鍵を守るため…そして、母さんのことを知るためだ。」




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ルカが扉を開けて外へ出ていこうとすると、老人が引き止めた。


「ああ、一つ忠告しておくが、あの塔はーー近くに見えて、遥か遠い場所にある。

だが、進んでいれば、お前さんが辿り着きたいと願っていれば、必ず、辿り着ける。変化に惑わされるな。…この世界とお前さんに、織女のご加護があらんことを。」


エルは彼の言っていることがよく分からなかった。視界は未だにぼんやりとしていて、顔すらまともに認識できない。


「…その傷には気休めだが腐敗を遅らせる処置をしておいた。永遠には持たないがな。さあ、行った行った。」


ルカは老人にうなずき、小鳥を肩に乗せて外の世界に繰り出した。


ルカが一歩踏み出した途端、空気が変わった。周りの景色がゆらぎ、崩れ落ちていく。




気がつくと、ルカはベットの上で寝転んでいた。窓の外を見て、ルカは目を見開いた。そこには見たこともない世界が広がっていた。


空には星がなく、目を焼かれるようなギラギラとした球体が一つだけ浮かんでいる。天空は黒でなく薄い青色。周りには規則正しく並んだ箱型の建物が連なっている。


ルカもその建物の中の一室にいると気づいた。それも、高い場所にあるようだ。下の方にはなめらかで広い道があり、棒が一定間隔で立っている。道を行く人の多さにルカは目が回った。たくさんの四角い何かが騒々しい音を立てながら道を行き来し、その中にも人がいる。


ルカは、こんな世界を知らなかった。


「お、目が覚めたか。」


声の先には、一人の青年がいた。ルカより少し年上くらいだ。ルカは自分と同じくらいの年の人間を始めて見て、戸惑っていた。


「ここは…?…エリンディルじゃない?」


ルカがつぶやくと、青年は隣に腰をおろした。


「エリンディル?聞いたことない地名だな。お前はそこから来たのか?」


ルカはますます困惑した。この人は誰だ?エリンディルを知らない…?そんなことあり得るのだろうか?


「お前、道路で倒れてたんだぜ。誰かに追われてたのか?その腕も……。ただ事じゃないな。」


男はルカにコップを差し出した。


ルカはそれを受け取り、口に流し込んだ。…温かい。体の芯からホカホカしてくる。こんな飲み物を飲んだのは初めてだ。


「悪いが、病院には連れていけないぜ。俺もサツに追われてる身でな。一応、応急処置はしておいたが…。」


確かに、肩には包帯が巻いてある。だが、巻き方はあの老人よりいっちゃなんだが下手だった。…それにしても、どういうことだ?ついさっき老人に巻いてもらったばかりなのに。


「俺の名前はビル。お前は?」


ルカは差し出された手を握った。


「僕はルカ。」


「…ルカ、さっきここがどこかって聞いてたよな。」


ルカはうなずいた。


「ここは、ロンドンだ。」



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