織り手の地
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ルカは鍵を高く掲げ、織り手の地に響く光の糸を感じ取った。草原の草花、青い空、遠くの山々――すべてが彼と繋がっているかのように脈打っていた。鍵から放たれる暖かな光が、ルカの周囲に淡い輝きを広げ、まるで星の布を織るように、光の糸が空気中で揺らめき始めた。
「ルカ、今だ!その糸を操れ!」真紅の小鳥が叫び、ルカの肩から飛び立って虚空を旋回した。「君の心が弱まなければ、織り手の地は君を守る!」
ルカは目を閉じ、深く息を吸った。かつての失敗――ほつれた布、途切れた糸――が頭をよぎったが、今は違った。鍵の力が彼の心を導き、織り手の地のエネルギーが彼に力を与えていた。「僕にはできる…母さんが教えてくれたように、星を紡ぐんだ!」
ルカが心の中でそう叫ぶと、光の糸が一気に動き出し、彼の周囲に輝く壁を形成した。それはまるで星空を閉じ込めた障壁のようで、草原の光を反射して眩しく輝いた。ヴォイドウィーバーたちの黒い馬が突進してきたが、光の壁にぶつかり、弾き返されるように後退した。馬の赤い目が怒りに燃え、地面に焦げた跡を残した。
リーダーのヴォイドウィーバーが銀の剣を振り上げ、冷たく笑った。「小賢しい星紡ぎめ!その壁で時間を稼いだところで、鍵は我々のものだ!この地も、星の力も、すべて闇に飲み込まれる!」
その言葉に、ルカの胸に一瞬の恐怖がよぎった。だが、肩の傷口が疼く中、鍵の暖かさが彼を支えた。ふと、頭上を旋回する小鳥の声が聞こえた。「ルカ、思い出して。君の母さんが言ってたこと。『星は恐れを飲み込む』って。」
「母さん…?」ルカの脳裏に、母の姿が浮かんだ。彼女が星の布を織る姿、優しく微笑む翡翠色の目。そして、彼女がかつて語った言葉――「どんな闇も、星の光の前では力を失うよ。ルカ、信じて。」
ルカは鍵を握りしめ、大きく息を吐いた。「信じる…僕の光で、闇を追い払うんだ!」彼は光の糸をさらに強く引き寄せ、壁を越えて攻撃に転じた。糸が螺旋を描きながらヴォイドウィーバーたちに向かい、彼らの黒い霧を切り裂いた。リーダーが剣を振り下ろすが、光の糸はそれを弾き、剣にひびを入れた。
突然、草原の遠くから再びあの歌声が響いた。星の織女の声だ。柔らかく、しかし力強く、ルカの心に勇気を注ぎ込む。「進め、ルカ。鍵は君の意志そのもの。織り手の地を、闇から守れ。」
ヴォイドウィーバーたちが後退し始めたが、リーダーはなおも叫んだ。「これは終わりじゃない!鍵が目覚めた今、すべての世界が我々の手に入る!」彼が手を振ると、黒い馬たちが一斉に消え、代わりに空に暗い裂け目が開いた。裂け目からは不気味な囁き声が漏れ、ルカの光の壁を揺さぶった。
小鳥がルカの側に戻り、鋭く言った。「ルカ、あの裂け目は危険だ!鍵を使って閉じるか、この地を離れるか、選ぶんだ!でも急いで!織り手の地が持たない!」
ルカは光の糸を握り、裂け目を見つめた。鍵が熱く脈打ち、彼に何かを訴えているようだった。母の言葉、織女の歌、小鳥の導き――すべてが彼に決断を迫っていた。
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ルカは嫌気が差していた。森を出てから、誰かに助けられてばっかりだ。小鳥の言うことを、…かぁさんの言う事を聞くのには、うんざりだ。
ルカは新たな力を手に入れ、何でもできる気がしていた。実際、自分で敵を追い払った。
ルカは開いていく裂け目に、手を伸ばした。鍵を持っているのとは反対の手を。
「何してる!」
小鳥は怒ったようにルカをつつく。それでも、ルカは手を伸ばし続けた。裂け目から真っ黒に塗りたくられた糸が、ルカの手へと伸びてくる。歓迎するように。手繰り寄せるように。
鍵が下ろした手の中で暴れる。
黒の糸が、ルカの指先に触れた。
その瞬間、ルカは闇の彼方へ堕ちていった。
「ピヨピヨ!」
耳のすぐ横で、小鳥のさえずりが鳴り響く。鬱陶しくてルカは耳を抑えた。すると、その指を小鳥が乱暴につついた。
「なんだよ!!」
ルカが鳥を叩き、起き上がると、頭がクラクラし、左肩に鋭い痛みが走った。
「ここは……?」
視界は曇りガラスを通しているかのように、熱っぽくぼやけている。何度か目を瞬くが、視界は晴れない。肩を抑えた手は血まみれになっていた。…血が、赤い。腕には巻き付くような黒い模様が刻まれている。
ルカはようやく何かがおかしいことに気づいた。
「ピヨピヨ!」
真紅の小鳥が抗議するように鳴く。
「鳥みたいだよ?普通に喋りなよ」
「ピヨ!」
「まさか、喋れ無くなったの?」
鳥は首を横に振った。
「僕が…君の言葉が分からなくなった…?」
鳥はうなずいた。
始めてのことにルカは困惑し、背中が冷たくなるのを感じた。
「お前、こんなとこで何してるんだ?」
突然声をかけられ、飛び上がる。
「…酷い怪我じゃないか!」
ルカの意識は、そこで途切れた。