星の狭間
grok
ルカが門をくぐると、目の前に広がったのはエリンディルの森とは全く異なる世界だった。空は紫がかった靄に覆われ、遠くには巨大な水晶の塔がそびえ、淡い光を放っていた。地面はまるでガラスのように透き通り、その下には無数の星がきらめくように流れていた。まるで夜空を踏みしめているような感覚に、ルカは思わず息をのんだ。
「ここは…どこなんだ?」ルカがつぶやくと、真紅の小鳥が肩から飛び立ち、くるりと宙を舞った。「ここは『星の狭間』、世界と世界の境目だよ。君の鍵が開いたのは、ただの門じゃない。夜の扉そのものさ。」
「夜の扉…じゃあ、言い伝えの『世界の秘密』はここにあるってこと?」ルカは鍵を握りしめ、周囲を見回した。すると、遠くの水晶の塔からかすかな歌声が聞こえてきた。それはどこか懐かしく、ルカの胸を締め付けるようなメロディだった。まるで誰かが彼を呼んでいるようだった。
小鳥が首をかしげて言った。「その歌…気をつけな、ルカ。あれは『星の織女』の声だ。彼女は星の力を操る者だけど、誰もその本当の姿を見たことがない。優しく導くこともあれば、試すこともある。君の母さんも、昔、彼女と関わったことがある…って話だよ。」
「母さん?」ルカの声が震えた。母の記憶は曖昧で、ただ暖かい笑顔と星の布を織る姿だけが心に残っていた。「母さんが…この場所を知ってたってこと?」
小鳥は答えず、ただ塔の方をじっと見つめた。その時、ガラスの地面が揺れ、ルカの足元にひびが入った。ひびの奥から、黒い霧が這い出し、徐々に人の形を模し始めた。それはさっきのルカの分身とは違い、もっと古めかしいローブをまとった姿だった。霧の顔には目がなく、ただ口元だけが不気味に笑っていた。
「星紡ぎの末裔…鍵を渡せ。さもなくば、星の狭間ごと君を消す。」低い声が響き、ルカの周囲に冷たい風が吹き荒れた。
小鳥が叫んだ。「ルカ、気をしっかり!こいつは星の狭間の番人だ。鍵を渡したら、夜の扉は二度と閉じられない!」
ルカは鍵を胸に押し当て、塔の歌声と番人の脅威の間で心が揺れた。でも、母の記憶と小鳥の歌が彼に力を与えていた。
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ここは、星の狭間は、ルカの心そのもの。小鳥はそのことを知っていたが、敢えて口に出さなかった。彼が混乱すると思ったのだ
星を紡ぐ民は、誰しも星の狭間を持っている。織女がその歌を歌うからこそ、星を紡ぐ力を使える。この場所で星がまたたき続ける限り、彼らの記憶は薄れることがない。
しかし、小鳥は気づいていた。
本来この場所にいてはいけないものが、いる。ローブの男はルカの心に侵入したのだ。
星の狭間の番人がこちらに干渉してくることなど、まずない。外の世界で何か良くないことが起きている。小鳥は直感した。
…男は何を企んでいる?さっきの言葉が小鳥の胸に引っかかっていた。星の狭間ごと君を消す……。ルカに何をする気だ?
「この鍵は、誰にも渡さない。」
ルカは男に言い放った。男は眉間にしわを寄せ、ぬらりと銀の両手剣を取り出した。
ルカは見たこともない物に最初眉根を寄せた。何がなんだか分からなかったのだ。
「危ない!!」
小鳥の叫びにルカが反応する前に、男の剣がルカの左肩を貫いていた。傷口からは銀色の血が滴り、剣の毒がルカを侵食仕出す。ルカはそれを見てようやく、それが人を傷つける、人の命を奪うためのものだと理解し、恐怖に顔を歪めた。
「…っ!うあああああ!」
かつて感じたことのない痛みに、ルカは地を転げ回った。男はその様子を見て、口元を歪ませた。
「この場所を破壊するより、君自身を手に掛けたほうが手っ取り早いと思ってね。悪いが、君の人生はここで終わりだ。」
ルカの視界は段々と狭窄していき、自分の叫び声も遠のいていった。肩の激痛はいつまでも、夢の中にまでつきまとった。
完全に意識を失う直前、こちらに背を向けて男と対峙する、真紅の髪の女性を見た気がした。