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最終局面

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ルカはルシアンに手を引かれ、織女の塔の入口へと突き進んだ。背後ではセリナの叫び声とヴォイドウィーバーの鞭が空を切り裂く音が響き合い、星の光が爆発するような閃光が夜を照らした。ルカの心はセリナの無事を願いつつも、彼女の異様な姿――羽と混同した腕、鳥のような右目――が脳裏に焼き付いていた。「セリナ…あんな状態でも戦ってる…。俺も負けられない!」




ルシアンの歌声が塔の入口に光の道を広げ、黒い霧を押し退けた。「ルカ、集中して!鍵を握って、織女の声を信じるの!」彼女の声は弱々しかったが、決意に満ちていた。ルカは鍵を握りしめ、塔の扉に近づいた。扉には星の模様が複雑に絡み合い、鍵穴が淡く光っていた。ルカの腕の黒い模様が焼けるように疼いたが、彼は歯を食いしばり、鍵を差し込んだ。




ガチャリと音が響き、扉がゆっくり開いた。だが、その瞬間、塔の内部から冷たい風が吹き出し、ルカとルシアンを押し返した。風の中には織女の歌声とは異なる、不協和音のような囁きが混じっていた。「星紡ぎの者…ここまで来たのは褒めてやる…だが、鍵は我々のものだ…」




ルカはルシアンの手を強く握り、光の糸を呼び起こした。「ヴォイドウィーバーめ、織女に会うまで絶対に諦めない!」鍵が熱くなり、光の糸が塔の内部に伸び、闇を切り裂いた。ルシアンの歌声が再び高まり、二人を包むように光が広がった。




塔の内部は広大なホールだった。天井は星空のように輝き、床には無数の光の糸が織りなす模様が広がっていた。ホールの中央には、真紅の髪と翡翠色の目を持つ女性が立っていた。星の織女だ。彼女の周囲には光の布が浮かび、まるで星々を紡いだドレスのように揺れていた。だが、彼女の表情は厳しく、どこか悲しげだった。




「ルカ…ルシアン…よくここまで来た。」織女の声は柔らかく、しかし重く響いた。「だが、ヴォイドウィーバーの呪いは君たちの心に深く根ざしている。ルカ、君の腕の黒い模様…それは君の恐れと疑念の現れだ。ルシアン、君の歌は力を失いつつある。それでも、鍵を握る意志はまだ消えていない。」




ルカは一歩踏み出し、鍵を掲げた。「織女、母さんのことを教えてくれ!この鍵は何なんだ?ヴォイドウィーバーを倒して、呪いを解くにはどうすればいい?」




織女は静かに微笑み、ルカの腕の黒い模様を見つめた。「君の母は、星を紡ぐ者としてこの塔を守った。だが、ヴォイドウィーバーの闇に飲まれ、鍵を君に託して消えた。鍵は星の力を束ねるもの。だが、君の心が闇に傾けば、鍵もまた闇に染まる。ルカ、ルシアン、二人で光の糸を紡ぎなさい。それが呪いを解く唯一の道だ。」




突然、ホールの奥から黒い霧が湧き上がり、ヴォイドウィーバーの影が現れた。ビルの姿もそこにあった。彼の目は赤く輝き、銀の短刀を握っていた。「ルカ、ルシアン、鍵を渡せ。セリナはもう終わりだ。お前たちもここで終わる!」




ルカの心臓が締め付けられた。「ビル…お前、完全に操られてるのか?それとも…自分で選んだのか?」




ルシアンが歌声を強め、光の糸を織り始めた。「ルカ、ビルの心を救うには、君の光が必要よ!鍵を使って、織女と一緒に闇を断ち切るの!」




織女が手を上げ、光の布がホール全体を包み込んだ。「ルカ、ルシアン、星の糸を信じなさい。君たちの心が一つになれば、闇は消える。」




ルカは鍵を握り、ルシアンの歌と共鳴しながら、光の糸を操り始めた。だが、ビルの短刀が迫り、黒い霧が光を飲み込もうとした。その瞬間、遠くから「ピヨ!」という鋭い鳴き声が響き、血だらけのセリナがホールの入口に現れた。




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「お前はもう……。諦めろ!」


ビルは振り向きざまにセリナを銀の刃で切りつけた。


「諦められる訳がない。私は彼らの守護者だからな」


セリナが言う。ビルの手は止まらない。


「ビル!もうやめろ!」


ルカが叫んだ。


「目を覚ませビル!お前はこんなことするやつじゃないだろ…?」


ルカの言葉が耳に届き、ビルは顔を歪ませた。


「お前らに俺の何が分かる?…目を覚ませだと?ハッ!笑わせるな。最初から眩んでなどいないぜ。ヴァイトウィーバーには俺しかいないんだ。」


ビルは半狂乱になったように笑った。


「…どういうこと?彼は何を言ってるの?」


ルシアンが理解できないという風に呟く。


「はじめからビルはヴァイトウィーバーの側だったということ…?」


ルシアンの声を遮るようにルカが手を握りしめ口を開いた。


「…関係ない。そんなの関係ない!僕に温かい飲み物を出してくれたのは…少年院で笑わせてくれたのは…全部本当のビルだ!こっちに来い!」


ルカは光の糸を手繰り寄せ、ビルに手を伸ばした。ルカの腕の黒い模様も薄れるような眩い光があたりを満たす。


ビルは頭をもたげた。


「お前は、ほんとに馬鹿だな。」


…笑っている。ルカは確かにビルが満足そうに笑っているのを見た。しかし次の瞬間、ビルはルカたちに背を向け、ヴァイトウィーバーを仰ぎ見た。


「やってくれ」


ビルの言葉に、ヴァイトウィーバーはビルに覆いかぶさるようにかがんだ。ヴァイトウィーバーの漆黒の身体に隠れ、ルカたちからは何が起きているのか見えない。ただ、バキボキと骨が折れるような音が響いた。


「…何してる?…やめろ!」


ルカがヴァイトウィーバーを光の糸で投げ飛ばす。ヴァイトウィーバーは光の塔にぶつかり、動かなくなった。どこにもビルがいない。


その代わり、ヴァイトウィーバーの身体が段々小さく、変形していく。…ビル。ヴァイトウィーバーはビルの身体になった。


ルカはその姿にどこかで見覚えがあった。…はじめの門。星の狭間への門の前で、ルカを待ち受けていたルカ自身の影。ビルの形をしたヴァイトウィーバーは、それにそっくりだった。

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