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星降る魔女の子供達  作者: ねぎとろ


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『終わりの始まり』

 そうして、クロスに止められるまで殴っていた私の体が返り血で染まり、原型を留めていない程潰れた顔を見た時、正気を取り戻した私の体から力は抜けていった。

 それと同時に武器が手からするりと滑り落ち、乾いた音を立てると、吐しゃ物を抑える為に口へと手を当てる。


「どうだ? ユフィ君には魂が見えているかな?」


 口に含んだ状態では答える事は出来ず、ゆっくりと頷くが、その拍子に抑えていたものは全て飛び出した。


「ご、ごめんなさい!」


 反射的に謝罪した私は、吐瀉物にまみれた床を必死に拭こうと服を脱ごうと手を掛ける。

 しかし、そんな私の行動をクロスが制止する。


「そこまでしなくて構わないよ。どちらにせよ掃除するからね。それで、やはり残滓は創れそうにないかな?」


 吐いた事に怒る事はなく、自然に話を進めるクロスに安堵した私は口元を拭って息を整えると、自分の身に起きた現象を身振り手振りを加えながら説明した。


「ふむ、魂が勝手に吸い込まれたと。つまり君にはーーー」

「ーーーはい、残滓を創ることが出来ません」

「やはり器だけは特別か。所で、吸い込んでから君になにか異変はあるかな?」

「いえ、特に何も起きないみたいです」


 魂を吸い込んだことで身体に変化が無いのは一見良い事かもしれない。

 でも、きっといずれ何かが起こるのは間違いないのだ。

 それに、今この瞬間においては何も起きないという事はむしろ場を悪化させただけ。

 現に私がクロスへと魂を吸い込んだという事を伝えた直後から、隊長達はそれぞれの武器を取り出して警戒している。


 恐る恐る見てみれば、クルスは白くモコモコした毛を纏っている銃を、スタークは捻じれている槍、カルマは角の付いたガントレットを構えていた。

 ただ、いつ爆発するか分からない爆弾のような存在の私を刺激しない為なのか、今はまだ攻撃を仕掛けるつもりはないみたいだ。


「お前たち、武器を収めよ。問題ない」


 攻撃してこないと分かっていても、本能から体は震えてしまい、それを見兼ねたクロスは隊長達へと指示を出した。しかし、


「ですがっ!」

「ふざけるな! こいつは危険だ! 今ここで殺した方が良い!」

「黙れカルマ! お前が決める事ではない! 命令だ、武器を収めよ。三度目はないぞ!」

「……畏まりました」


 クロスの最初の一声で武器を収めていたクルスとは違い、残りの二人は反発した。

 特にカルマに至っては私を指差し、殺意剝き出しで睨んでいる。

 とはいえ、クロスが激昂して怒鳴り上げた事でカルマも渋々武器は収めてくれた。


「部下たちが何度も無礼な真似をしてしまい申し訳ないな」

「なっ! 総隊長がこんな奴に頭を下げる必要なんてありません!」

「うるさい、黙っていろ。これは私のけじめだ」


 部下の失態は上司の責任。まさにそれを体現したかのように、本来敵であるはずの私、烙印者にすらクロスは頭を下げた。

 が、この予期せぬ事態は私としてはむしろ困惑してしまうのだ。


「あ、あの頭を上げてください。こういう風に扱われるのも承知の上ですから」

「それも含めて私としては申し訳なく思うが。そうか、君が許すのならば有り難い限りだ」


 ここで私が許さないと言った場合、クロスは頭を下げ続けるのだろうか?

 っと、多少そういった好奇心のようなものが芽生えてしまうものの、元から許す以外他なく、口が裂けても許せないなんて言えないが。


「許します、許しますからどうか顔を上げてください! お願いします!」


 隊長達、主にスタークとカルマから放たれる尋常ではない殺気は、このままクロスに頭を下げ続けさせれば命の補償はないと認識させるものだった。


「君の寛大さに感謝する。では、本題に戻そう。現状君に出来るのは武器を取り出す事だけ。他の烙印者と違って残滓は創り出せない、と。他に君自身が感じる違和感とかはあるかな?」


 なんとか頭を上げてくれた事で、殺気は若干収まり、続けざまにクロスが話を戻してくれたお陰で私も平静を取り戻す事が出来た。


「違和感……ですか」

「そう、違和感だ。少しでも気になることがあるなら教えて欲しいが、どうだろうか?」


 私の一挙手一投足見逃さないよう為なのか、顔を近づけて再度訊ねてくるクロスに驚きはしたものの、慌てて答えることなく、少し考え込む事にした。

 というのも、違和感があるかと聞かれたらあると言えるのだが、ここで不都合な事を追加するのは得策じゃない気がするのだ。

 それに、この違和感はきっと器だから感じているものに違いない。

 つまり、他の烙印者の力なんかを奪えば奪うほどに違和感は増していく……と思う。

 今までずっと気付かない振りをしてきたけど、烙印者としての力を使った時から鮮明に感じてしまう存在が私の中には居るのだ。

 心の中心に鎮座し、なにかを待っている存在が。


「――少し考えてみたのですが、違和感は特にないです」

 こんな心の中のことなど誰かに説明出来るはずもないし、この存在が解き放たれてしまう可能性がある。

 なんて言ったら私は今度こそ危険人物に認定されてしまう。

 だから、私は話さずに嘘を吐いた。

 どうにかしてこの存在を解き放たないように防ぐことは無理でも、限界まで抑えなきゃいけない。

 それが話さない私への罰であり、戒めなのだ。


「分かった。その言葉を今は信じるとしよう。さて、君の処遇についてだが、ひとまずは牢に入ってもらう事になる。無論、拒否権はない」


 牢という言葉を聞き、一気に血の気が引いていくのを感じた私は咄嗟に首を横に振ろうとしたが、『拒否権はない』という言葉を思い出し、頷くことで難を逃れることが出来た。

 しかし、依然として私の心臓は恐怖で鼓動が早まり、呼吸も安定しなくなっている。

 どこで失敗したのか。どうして牢に入れられるのか。やっぱり殺されるんじゃないか。

 悪い方向へとどんどん進んでいく思考に押し潰されそうになる。


「クルス。一発頼んでも良いか?」

「はっ。総隊長の頼みならばお任せください」


 俯き、ぶつぶつと呟く私はきっと傍目からすれば狂っているように見えるだろう。

 周囲の会話なんて聞こえないが、きっと、だからこそクルスは私へと銃口を向けているのだ。

 一刻も早く黙らせる為に。


「い、いや。まだ死にたくない……」

「案ずるな。総隊長が命令しない以上、私達は君を殺す気なんてない」


 諭すように言われても、銃を向けられている以上信じる事なんて出来ない。

 ましてや、今までフォローしてくれていたクルスに銃を向けられているのだから、尚更裏切られたような気持ちになってしまう。


「あっ……」


 乾いた部屋に鳴り響く一発の銃声と、同時に聞こえたのは羊の鳴き声。

 弾が私を貫く感触はあれど、不思議と痛みはなく、襲ってくるのは異常な眠気だけ。

 俯いていたからクルスの持つ銃をよく見ていなかったが、こうして撃たれてみれば理解できる。これこそがクルスの持つ、武器の能力なのだと。


「ちっ! こんな奴さっさと殺しちまえば良いのによ!」

「カルマ、少し黙っていろ。これはクロス総隊長が決めた事だ」

「はいはい、分かりましたよ」


 カルマは私を殺さないという事に渋々ながら納得し、その場を立ち去っていく。

 その後ろを続くように、私を見向きもせずにスタークが去り、クロスも一瞥した後に歩き出す。残ったクルスだけが私を抱きかかえ、皆とは違う方向へと歩き出した。


「怖がらせてしまって済まないね」

「……いえ、殺されないだけでもありがたいです……」


 意識が朦朧とし始め、瞼は重力に耐えられないかのように落ちていく。


「……殺すわけがないよ。だって君は僕の役に立つんだからさ」


 最早、完全に意識が落ちる手前の私では、クルスの呟きが聞こえても返事は出来ず、ただただ眠りへと誘われていくだけだった。

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