『烙印者の力』
誰もが口を挟まず、クルスのみが解釈を話している。
徐々に周囲の雰囲気は重苦しい、というよりも静寂に包まれた。
シスターが母性を持っていたのか、それとも同情してくれていたのか。或いは……。
誰もが解釈を聞いて考え、少なくともクルスが話しおえてから数分は誰も言葉を発しない。
「……確かにその可能性は高そうだ。しかし、烙印者と知ったのなら殺すのがジャッジメントとしての責務。赤子とてそれは変わらない。万が一にもなんらかの事情で殺さないとしても、育てるなどどうかしている。クルス、お前もそれは理解しているだろ?」
そんな雰囲気の中、最初に口を開いたのはクロス。
自分が噛み砕いた答えをクルスへと訊ねている。
「はい。クロス総隊長の言う通り、脅威になる前に排除すべきだと思います。とはいえ、我が子同然に育ててきたのなら、例え烙印者だとしても生きて欲しいと思ったのかもしれません」
「いや、どうだろうな。お前の意見も間違っていないかもしれないが、俺の意見としては、その彼女とやらは烙印者を兵器として利用する為に育ててたと思うぜ」
カルマ曰く、シスターは私を兵器のように育てるつもりだったと思っているようだけど、私は違うと思う。
もし、シスターが生きていたら私に対しても自衛の方法くらいは教えてくれたかもしれないけど、少なくともこの先も普通の女の子のように育ててくれたはずだ。
あくまでも育てられた私が勝手にそう思っているだけかもしれないけど……。
「なにを馬鹿な事を。烙印者を使うなどと、そんなの上手くいくわけがない」
「そ、そうです! 私なんかが兵器なんて無理ですよ!」
「果たしてそうでしょうか? 私からすれば忌避すべき事だと思いますが、今現在こうして目の前に烙印者が敵意もなく居るのです。言い方は悪いですが、幼い時から洗脳でもすれば簡単に兵器化出来ると思いますよ」
私が話に割り込んだことにより、ずっと黙っていたスタークも話に入り、冷ややかな視線で私を睨んできた。
「待て! それでは本人の意思はどうなるというのだ! 烙印者だとしても、彼女はまだ罪を犯していないただの女の子なんだぞ!?」
「罪? 烙印者として生まれたこと自体がそもそも罪なのですよ」
スタークの冷たく言い放った言葉で、どうしてか私の目からは涙が溢れ始めてしまった。
さっきまで何度も同じような事を言われていたのに。どうしてかさっきの一言で私という存在そのものを否定された気がして、溜まっていた感情が爆発したのだ。
「ごめん、なさい。生まれてしまって……ごめんなさい……」
情けなく泣きながら謝る私は、きっと惨めであっただろう。
それでも、私が言葉の暴力に傷つき、泣いてしまったという事実はこの場にいる全員に『まるで普通の女の子』のようであると認識させるには充分だった。
それからというもの、私が泣き止むまで誰一人口を開くことなく、スタークに至ってはバツの悪そうな顔をしながら目を背けている。
「……少し脱線してしまったようだが、話を戻すとしよう。私から話し始めて申し訳ないが、彼女が亡くなった今、真相は解明不可能となっている。ならば、蒸し返すよりもこれからを見据えて器の力を確かめるとしようか」
「はっ、確かに器としての能力は未知数の為、調べるべきかと!」
スタークがクロスに同調している中、クルスは私を横目で見た後に謝るように少しだけ頭を下げてくれた。
話し合いがヒートアップした結果、クルス自身も私を傷つけてしまったと思ったのだろう。
まぁ、確かに私の心には少なからずヒビが入ってしまったが。
でも、そもそも烙印者がこういう扱いで済んでいること自体が奇跡なのだ。だから、こうしてクルスが庇う姿勢を見せてくれるのは凄く有り難く、そして、なによりも嬉しかった。
「何か考えているようだが、これから君に幾つか試してもらいたい事がある。無理強いはしたくないが、これは君自身も自分を知る良い機会になる筈だ」
「い、いえ、無理強いだなんてそんな事ないです! クロスさんの期待に応えられるかは分からないですけど、精一杯頑張ります!」
クルスのお陰で気を持ち直した私は求められる結果にどうにか応じられるように、せめて気持ちだけでも昂らせて返事をし、頭を下げた。
「宜しい。まずは烙印者の能力についてといこう。ユフィ君は烙印者が残滓と呼ばれる生命体を創り出したり、武器を創り出せるのは知っているかな?」
残滓を創り出すのは器の私には出来ない。烙印者が言っていた事だから真偽の程はあるが、きっと間違ってはいないだろう。
だとすれば、私に出来る可能性があるのは武器を創り出す事くらいだ。
「えっと、残滓については一応知っています。でも、さっき討伐された烙印者の女の子が私は器だから残滓は創れないと言っていました」
「烙印者の情報か。信憑性に難ありだな。とは言え、今はもう一つの方だ」
クロスが期待しているのは残滓ではなく、武器だったようで、さっさと答えろと、創って見せてみろと言わんばかりに鋭い視線を向けてくる。
「もしかして武器の創り方すら知らないのか?」
どれだけの時間が経とうと一向に何もしない私に痺れを切らしたのか、顎に手を当てながらクロスはそう訊ねてきた。
「……はい。私自身烙印者であるというのを知ったのすら今日なので分からないんです」
「そうか。では自分の心に念じてみると良い。ただ、万が一これで創れないとなると、申し訳ないが情報も持っていない君の利用価値は無いに等しくなるが……」
淡々と告げてくるが、これは非常にまずい。利用価値がなくなるという事は即ち私を殺した方が良いという事になる可能性が高い。
被害妄想が過ぎるかもしれないが、有効利用できない以上、組織としては危険因子を残しとくなんて事はまずしないだろう。
でも、まだ希望はある。クロスが言ったように、心の中で念じれば武器を創り出せるはずだ。
『汝、我が復活の為に力を欲するか。良いだろう、力を貸してやる。星の名に応じた武器を汝の手に授けよう。器として、我の為に力を集めるが良い』
「――はっ! はぁ、はぁ。なに、今の……」
突如聞こえた声に私は驚き、動悸は上がっていく。
けれど、私を心配するとか以前にクロスを含めた他の隊長たちは私を凝視しながら警戒していた。その理由は明白。私に聞こえた声が皆にも聞こえたとは思えないし、手に握られている武器が原因だろう。




