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星降る魔女の子供達  作者: ねぎとろ


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『恐怖を打ち破る一声』

 こうして私が自らのルーツを辿り、十三人存在する事が正しいと理解した時、同じく口元に手を当てて考えていたクロスも理解したのか、私個人を向きながらも隊長達へと聞こえるように話し掛けてきた。


「今の話を聞いて分かると思うが、残りの烙印者達は未だ討伐した数よりも多い。その上で、今まさに君のようなイレギュラーな存在が現れた。確かにスタークの言う通り、君たちの現れた経緯を考えれば不自然な出来事ではなく、予想できた事。……ただ、例え予想出来ていたとしても、私は、いや我々は君のような存在を信じたくはない」


 明らかな拒絶の意思を示され、私は堪らず言い返す。

「……それは、十三番目である私の烙印の位置が他とは異なる、魔女の器だからですか? それとも、明らかに危険な器がこの場に居ることについてですか?」


 返す言葉として合っていないかもしれない。だけど、最早信じたくもないと言われてしまったのだから、私という存在が簡単に認められることはあり得ない。

 少なくとも、俯いて弱気なままでいれば尚更だ。

 だからこそ、私は服を脱いで烙印すらも晒し、羞恥心を抑えながら強気な態度を見せた。

 結果がどうなろうとも、反抗意志と見做されても受け入れる覚悟を持って。


「ふむ。やはり蛇の烙印か。しかし、器と他では烙印の位置が違うというのはやはり信じがたい事実だな」


 覚悟を持って吠えたにも関わらず、私の言い返した言葉に返答はなく、クロスはマジマジと烙印を見つめて呟くだけ。これじゃあただただ羞恥心が増していくだけだ。


「あ、あの、さすがにそんなに見られると恥ずかしいと言いますか……その……」

「あぁ、済まない。研究者としての血がどうも騒いでしまってね。話を戻そうか。まずは先の返答だが、どちらも正しいと言える。しかし、それはあくまでも敵対してきた場合だ。人類の脅威にならず、我々で制御出来るのなら、器とて烙印者の認識を改める余地があるだろう」


 クロスの真剣な顔つきと声色。それを見れば言っている事が慰めや虚言、妄言の類ではない本心からのものだと告げていた。

 けれど、垣間見えた一縷の希望は喚き始めたカルマによって打ち砕かれてしまった。


「う、器だと!? お前、なんてもんをここに連れてきてやがる! 烙印者を連れてきた時点で頭がおかしいと思ったが、器なんて気でも狂ったのか!?」

「落ち着け、カルマ。彼女に私達を害する危険性がないと判断した上で連れてきたんだ」


 叫び散らし、今にも武器を取り出して私へと近づこうとするカルマを止める為に、必死になってクルスが引き留めてくれている。


「落ち着いていられるかよ! こんな危険な奴を庇うとか、お前は魔女に加担する気か!?」

「いや、そんなつもりは……。と、とにかく今は武器から手を離すんだ」


 クルスの胸ぐらを掴み、暴言を浴びせているのを目の当たりにしても、私にはどうすることも出来なかった。

 それくらい今の私は無力であり、何かをしようとして動けば、私自身が危険人物であるという事と、クルスが魔女に加担しているのではないかという疑惑が膨れ上がってしまう。

 だから、沈黙して見ている事しか出来ない。


「……静かにしたまえ。と言いたいところだが、私としてもカルマが騒ぎ立てるのも無理はないと思う。品性の欠片もない言い方になってしまうが、器など即刻処分した方が良い」

「っ! お前まで! しかし、この子に敵意なんて――」

「――もう良い。どけよ。これ以上邪魔するなら、お前も敵対者と見做して殺すぞ?」


 カルマが近寄る最中、何も出来ない私は一縷の望みを賭けて、何も喋らないスタークへと視線を向ける。

 が、一瞥された上でカルマの意見に賛成されてしまった。

 こうなってしまえばカルマを止めることは叶わず、私は殺されてしまうだろう。

 それにしても、希望と絶望がこうも一気に襲って来ればある意味冷静になれるというもの。

 良い意味で恐怖というのが消えているのは有り難い。


「じゃあな。自分が烙印者として生まれたことを恨め」


 死の宣告を告げられるのと同時に私がゆっくりと目を瞑ると、一瞬の静寂が流れ、それを破るようにしてクロスが声を張り上げた。


「――騒々しい! 静かにせよ!」


 その怒声により、私もカルマも現実に引き戻され、止められたカルマは驚愕しながらも離れていった。

 でも、どうして私が殺されるかもしれない直前まで何も言わなかったのだろうか。

 いや、考えても仕方がない。理由がなんにせよ助けてくれたのは事実なのだから。


「あの、助けてくれてありがとうございます」

「いや、こちらこそ騒いでしまい申し訳ない。これより先は問題が起きないように、ひとまずは私と君で話をするとしよう。……隊長達には後で意見を聞く、それで良いな?」


 最初は私へと微笑みながら声を掛けたのに対し、隊長達には怒りを浮かべた顔で言い聞かせるかのように言い放つ。

 その結果、渋々といった感じだが全員が頷くことで了承したことを示した。


「さて、そうだな。まずは君について教えてもらうとしよう。遅れて済まないが、名前を教えてもらえるかな」

「ユ、ユフィです! シスターにそう名付けてもらいました」


 名前の無かった私にシスターがくれた大切な名前。確か、空に浮かぶ一つの星をイメージして付けてくれたって言ってたっけ。なんだか懐かしいな。


「ユフィ、か。教えてくれてありがとう。確か君は今回の烙印者が出現した教会に居たそうだが、そこで生活をしていたという解釈で間違いないかな?」


 シスターとの事を思い出して涙腺が緩みそうな私を引き締めるようにクロスは淡々と質問を続ける。どうやら感傷に浸る暇はないみたい。


「は、はい。捨て子だった私を拾ってくれたシスターがずっと育ててくれました」

「ふむ、シスターか。確か、あの教会には我々の仲間が一人居たはずだ。そうなると、彼女が君を育てたのか。しかし、ならば何故報告をしなかったんだろうか。ただの女の子だと思っていた。いや、知っていた上で隠していた可能性もあるな」


 私に疑問を投げかけているというよりも、自問自答をするようにして考え始めてしまい、辺りには沈黙が流れ始めてしまう。

 しかし、そんな沈黙を破るようにクルスが一歩前に出て口を開いた。


「考えている最中に申し訳ありませんが、一つ良いでしょうか?」

「宜しい、許可しよう」

「では、私なりの解釈となりますがお話いたします」


 クルスがどんな解釈をしようと、クロスがどれだけ考えようとも、私にとってシスターは母親同然なのだから、どんな理由があったとしても構うことはない。

 けれど、それはあくまでも育てられた私だからそう思えるだけなのだ。

 シスターがどんな思いで私を育ててくれていたのか、どれほど大変で辛い思いをしたのか、それを推し量った事は一度もない。


「私は彼女との面識がありませんが、部下の一人は友人だったようで、遺体を見て泣いているのを確認しました。その上で、烙印者が攻めてきた中で応援を要請しないのはユフィが烙印者だというのを知っていたからでしょう。応援を呼んでしまえば、ユフィの存在を隠すのは難しく、烙印者が殺害対象である以上、それを危惧したのだと私は考えます」


 だからこそ、クルスが話してくれた解釈を聞いた時、私の心は重く沈んでいった。

 シスターにも大切な人、友人が存在していた。その事実だけで私の心は抉られてしまったのだ。

 なにせ、私という存在が居るだけで、それを隠すためには縁を切る他ない。

 そんな悲しい選択をする事はなによりも辛いのだろうと思えてしまう。


 ――けど、それでも私を選んでくれたことは本当に嬉しい。

 縁を切るほどの選択をするくらい私を大切だと思ってくれた証拠なのだから。

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