エピローグ 『世界を救った普通の女の子』
「これで終わった。良かった、こんな私でも世界を救えたんだ」
使命を果たした私は、仰向けになりながら小さく呟く。
あれだけ荒れていた空も、完全に魔女が消えたことで嘘のように晴れている。
月明かり戦いによって荒廃と化した戦場を照らし、スポットライトを当てるように私へは更に強い光が降り注いだ。
そして、空から伸びる光は私以外にも伸びており、十三本という数も相まって、これが烙印者を元の場所へと還す為の光である事に気付くのにそう時間は掛からなかった。
「魔女が消えた今……。そっか。例え私が生き延びたとしても行かなきゃいけないのか」
光が降り注いだ場所へと視線を向ければ、うっすらとした人影が昇っているのが見え、やがて小さく空に輝く星となっていた。きっと私の体も同じような結末を迎えるのだろう。
暖かく包み込む光によって自分の意思は消えていき、抗えずに閉じていく瞼によって、私が思う事は一つだけとなっていく。
それは、『役目は終わった、空へと還ろう』という事だけ。
……でも、そんな思いに身を任せようとしたその時、地面へと降ろすように体を掴まれた。
「行かないで下さい!」
「まだウチも一緒に居たいっすよ!」
「私達を置いて貴方だけが去るなんて許さないわ! 仲間でしょ!? 戻ってきなさい!」
皆の声が、掴むその手が、昇ろうとする私を止め、体が意思を宿すように動き出す。
戻りたい。まだ行きたくない。
仲間と一緒に生きていたいと!
「「「ユフィ!」」」
三人の声でパッと目を開いた私は、伸ばされた手を掴もうと必死に腕を伸ばす。
「絶対に離しちゃ駄目よ!」
ルーナが私の手を掴み、ノーヴァとメルクも私を引っ張り出そうと更に力を込める。
ボロボロの体なのに、引っ張る力はそれを感じさせず、私の体は徐々に引っ張られていく。
動くたびに次々と抜けていく力はまるで浄化されているような気さえ覚え、光から抜ける最後の瞬間には、私の胸元の烙印が世界を照らすかの如く眩しい光を放った。
それにより視界はホワイトアウトし、勢いよく飛び出した私は地面へと激突する。
が、すぐに振り返り、光の中を見ればそこには武器である笛と烙印だけが残されていた。
「……力が無くなっちゃった」
きっとこれは、私がこれから先生きる為の代償として奪われたのだろう。
長年付き添った力と、私を何度も救ってくれた武器。これを失うのは少しだけ寂しくなってしまう。
でも、力を失う程度でまだまだ皆と生きる事が出来るのなら安いものだ。
「三人とも、助けてくれてありがとね。けど、これでもう私は力もない普通の女の子になっちゃったよ。ねぇ、本当にこんな私でも一緒に居てくれる?」
「当たり前じゃない。もうこの世界は平和なんだから、力なんてなくて良いのよ」
「そうっすよ! ユフィさんが魔女を倒したお陰で皆が救われたんすから! 力なんて気にしないで下さいっす! 英雄を否定する奴が居たらウチがボコボコにするんで!」
「あはは。ちょっとそれはどうかと思うけど、まぁでも、ユフィさんはこの世界の英雄ってのは間違いないですし、胸を張って生きていきましょうよ!」
三人からの暖かい言葉が飛び交い、私を私として認めてくれることに涙が零れてしまう。
「ありがとう。こんな私だけどこれからもよろしくね」
鼻水を垂らし、涙が頬を伝う中で私が三人へと笑顔を向ければ、いつの間にか三人とも貰い泣きをしており、私達は四人で生きている事を再確認するように抱き合った。
静かな世界で泣き声だけが辺りに響くも、涙は時間が経てば止まっていく。
「ちょっと疲れちゃったね。少し休もっか」
泣き疲れ、戦い疲れた私達はお互いに手をぎゅっと繋ぎ、もう離さないと示しながら、その場に倒れ込む。
空には一際輝く十二の星々が煌々と輝いており、なんだか見守られているような気持ちになりながら私達は暫くの間休息を取るのだった。
魔女が消え、平和になった世界で変わらず時間は流れていく。
あれから数か月経った今、誰もが荒れ果てた地を直そうと尽力していた。
「あ、そういえば聞きました? 隣国の建て直しがそろそろ終わるらしいですよ!」
「えっ!? そうなんすか!? それならウチらも早く直さないとっすね!」
「そうだね。この国も随分荒れちゃったし、でも、全部終わったら行ってみたいな。元烙印者が観光気分で行っていいのか分からないけどさ」
「ふふっ。大丈夫よ。今の貴方なら問題ないわ。――だって、普通の女の子だもの」
それは私達やジャッジメントの隊員達も例外ではなく、組織そのものが瓦解していたとしても日夜修繕作業に時間を費やしている。
そう、世界中の誰もが烙印者や魔女の爪痕を消す為に。
「そっか! そうだよね! よーし、頑張るぞ!」
烙印が消え、力の大半を還した彼女は今日という日を大切な仲間たちと謳歌していく。
――一方で日が沈んでいく中、魔女が死んだ地では一人の男が本を手に空を見上げていた。
「魔女、貴様は強大な敵だった。祖父を退け、幾年もの月日を掛けて尚、世界を牛耳ろうと蘇った執念は凄まじいものだ。唯一自らの子を制御出来なかったという点を除けば、今頃貴様はこの世界に君臨していただろう」
男の言葉に呼応するように風が吹き荒れ、本は男の手から離れていく。
「ふっ、怒るか。しかし今の貴様は死んでいる。魂が砕け、依代を無くしている以上は残された僅かな力もすぐに消えるだろう。最早恐れるに足らずよ」
高らかに笑う男への強風は続いていく。けれども男の態勢は揺らがない。
魔女を煽りながら落ちていた本を拾い上げると、それを破いて燃やした。
「貴様ら等この世には不要。魔女も烙印者も、なにもかもがこの世界には不要なのだ。貴様は子らと共に宇宙より我らを照らしているが良い」
沈みゆく太陽。暗くなっていく空。――そして、世界を照らす月と十二の星々。
「――これより、我らが時代の幕開けだ」
月明かりに照らされた男は高らかに空へと告げると、星と月を背に暗闇へと去っていくのだった。




