49話 『魔女』
「良い目だ。さぁ我が子よ。器としての責務は果たされた! 後は我を楽しませてから糧となるがよい!」
魔女が高らかに宣言しながら両手を広げると、地面を侵食するように泥の沼が広がっていき、そこから次々と泥人形が形作られていった。
警戒して見ていることしか出来ない私を尻目に、泥人形は数を増やし、気付けば十二体の泥人形がそれぞれ武器を持って構えていた。
「……魔女の前座は烙印者全員って事ね」
力までもそっくりそのままというのは考えにくいが、もしそうだとすれば余りにも絶望的な状況だ。
なにせ、今の私はあくまでも烙印者一人分の力しかない。
一気に攻められ、挙句の果てに能力なんて使われたら対処なんて出来る筈がない。
だから、私はまず烙印者たちが能力を使えるのかどうかを試すことにした。
先手必勝も兼ねた一撃を加えながら。
「――っ!? 防がれた!?」
私へと武器を構えていたから当然かもしれないが、それでも私にとっては紛れもなく全力の一撃だった。
それをいとも簡単に防いできたのだ。
思わず声を出してしまう程の驚きだ。
「能力は……さすがに使ってこないか」
一撃離脱という形で再度距離を取ったが、烙印者たちが能力を使ってくる気配はない。
ただ、私が攻撃を仕掛けたからなのか、機械のように動き出した烙印者たちは各々私へと攻撃を仕掛け始めた。
遠距離から銃弾と矢が放たれ、死角からは鞭と槍。至近距離では防ぎようがない攻撃の数々。
声も出さずに取られる周到な攻撃を避けたり防いだりというのは不可能であり、どう足掻いても傷は増えていく一方だった。
「まずは一人目!」
とはいえ、防御するのが叶わないという事は最初から分かっていた事だ。
だからこそ私は防御に重きを置くのではなく、多少の傷など無視して攻める事を選択した。
背水の陣とも言える策だが、結果的に隙を見つけて一人は倒せたし、なにより烙印者達が存外脆い事を知れたのは大きいだろう。
「二人目! 三人目! 良し、この調子ならいける!」
攻撃さえ当てれば一撃で倒せることを知り、どんどん倒していく。
能力も使えず、規則性のある攻撃のみ。
ただただ愚直に攻め立ててくるだけであり、反撃を駆使すれば、全ての烙印者を倒すのは思っていたよりもそう難しい事じゃなかった。
「よいぞ。この程度で死なれてはどうしようかと思っていたところだ。では、我が直々に相手するとしようか」
魔女が拍手をし、ゆったりとした足取りで私へと近付いてくる。
顔は愉悦の表情に満ち、一歩進むごとに強烈な圧が私を包んでいく。
天気は徐々に荒れていき、雷雲立ち込め、嵐の様に風が吹き荒ぶ。
立っているのも困難な程の強風に思わず顔を逸らしてしまった。それがいけなかったのだ。
「――はっ? 投げられた!?」
何が起きたのか理解するのに数秒掛かり、宙を舞い浮遊感を味わったことでようやく自分が頭を掴まれて投げられたことに気付いた。
「他に考え事か? それでは簡単に死んでしまうぞ」
地面が目前に迫り、咄嗟に受け身を取れないと考えた私は衝撃を抑えようとしていた。
しかし、声と共に再度顔を掴まれてしまった。
どれだけ藻掻こうと、尋常じゃない握力の前では無意味であり、私の体は無慈悲にも地面へと叩きつけられた。
瞬間、地面は割れ、砂埃が舞う。
衝撃により骨は軋み、血が込み上げてくる。
「うぐぐ、い、いつまで掴んでんのよ!」
顔を掴んだまま見下ろしてくる魔女へと、寝転がったまま蹴りを繰り出す。
が、瞬間移動したように目の前から消えられた事によって当たりすらしない。
「つまらぬ。所詮はこの程度か」
「ごほっごほっ。な、何言ってんの。さっきは油断しただけだから!」
立ち上がり血を吐き出した私は、ガッカリして隙だらけな魔女を拘束しようと蛇を呼び出す。
けれどそんな簡単に魔女を捕えられる訳がなく、またも魔女の姿が消えたかと思えば、躱されるだけじゃなく接近までも許してしまっていた。
「其方の全力、見せてみるが良い」
魔女が声を発しても動揺せず、私は返答しないで笛を全力で振るった。
瞬時に反応したのも相まって、魔女は直撃する寸前になっても避ける素振りすら見せていない。
これでようやく多少の傷を与えられる。
そう思っていたのに、気付けば地面へと伏しているのは私の方だった。
「な、何が起きたの……?」
絶対に私の方が速かった。
それなのに魔女には傷一つなく、私の方にも当たった感触なんてない。これが避けられただけ。
それならまだ理解は出来た。
でも、私の体には激痛が走っている。
つまり、反応できない速さで攻撃されたという事だ。
「もう立てぬのか? 我はまだ遊び足りないぞ」
倒れている私の髪を掴まれて持ち上げられるが、体の至る所から痛みが襲ってくる所為で顔は苦痛で歪んでしまう。
けど、それでも私は抵抗する事を止めない。
「そうだ。今なら避けないでいてやるぞ。幾らでも殴ってみるが良い」
「クッソ。こんなの最初から私に勝ち目なんて……」
宣言通り避けない魔女を殴るも、とてつもない硬さを誇る体に対しては無意味であり、むしろ反動によってフラフラだった私の体は力無く倒れようと傾いていく。
支える力も残っておらず、これでは意識を失うのも時間の問題だ。
「……あぁ、私じゃ世界は救えないのか」
倒れゆく最中、僅かに映る視界には落胆している魔女の顔だけが見えてしまい、私は思わずそう呟いてしまった。




