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星降る魔女の子供達  作者: ねぎとろ


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44話 『瓦礫の山』

 本部へと駆けていく中、無数の残滓が視界に映っていく。

 大きさはまちまちであるものの、進行する上で邪魔になる残滓は多く、未だ戦っている人を見過ごすことは出来なかった。

 だから私は時間が掛かってしまう事を承知の上で、目につく残滓を手当たり次第に討伐していく事にした。

 ただそれでも轢き殺すように一撃で倒して進んだこともあって、想定よりも早く本部へと辿り着いた。


 そうして逃げ道を塞ぐように積み上げられている入り口の瓦礫を無造作に破壊し、中へと入っていく。

 相変わらず烙印者の気配はここには無い。


「――っ! これは外よりはマシだけど、酷すぎる……!」


 内部も内部で争った形跡は多く、死体や被害は少ないものの、無残な死体が見えやすく転がっている光景に思わず目を覆いたくなってしまう。

 加えて私が歩く音以外の音が一切聞こえない事実に、本部内が殲滅されてしまったのではないかと不安が募っていく。


「メルクは無事だよね?」


 皆殺しにされたであろう死体を見てしまったこと、少しでも息のある人が居ない事に冷や汗が流れてきた私は、メルクの安否を確認する為に急いで療養していた病室へと走り出す。


「これも違う。これも……ここは崩れて埋まっちゃってるし……」


 病棟はボロボロに崩れており、瓦礫に埋もれている死体や、吊るされている死体、果てには食いちぎられたようなものまで転がっていた。

 しかし病人や怪我人が集まっていた場所なのにも関わらず、無抵抗なまま殺された死体は少なく、抵抗したであろう痕跡は残っている。


「もっと早く助けに来れなくてごめんなさい。せめてゆっくり休める事を祈っておきます」


 自分がもっと早く戻って来ていればという、自責の念に駆られそうになりながらも死体を一つ一つ確認し、抵抗した意思に敬意を込めて祈りを捧げる。せめて安らかに眠れるようにと。


「メルクー? 居たら返事してー!」


 病棟を練り歩き必死に探そうとも、敵に会う気配もなく生きている人が居る気配もない。

 ただ、死体の中にメルクの姿もなく、他に見ていない所は瓦礫によって完全に埋もれてしまっている病室だけだ。

 偶然にもここがメルクの療養していた病室だが、完全に崩れて埋もれていれば生きている可能性は低いと後回しにしていた。

 しかし、逃げていないとすればここ以外には考えづらく、返事が返ってくることを期待しながら時間は掛かるものの瓦礫を退かして探すことにした。


「――ユフィさん! ここです!」

「メルク!? ここに居るんだね!」


 微かに聞こえた返事に私は歓喜しながらも、崩れないようにゆっくりと瓦礫を退かし、幾分か時間は掛かったものの安全にメルクを救出することが出来た。

 体を小さく畳み、震えながらメルクは私を見上げている。

 信じられないと言うような表情をしながら。


「こんな奇跡ってあるんだね。良かった、メルクが生きていてくれて本当に良かったよ」

「ユフィさん、私凄く怖かったです。誰も助けに来てくれないんじゃないかって……。だから、私を見つけてくれてありがとうございます」


 メルクが寝ていたベッドと近くに備え付けられていた窓。

 その二つを守るように、不自然にも空間が出来ており、それでメルクは生き延びる事が出来ていた。

 これが偶然の産物だとは思えない。

 奇跡の可能性はあるにしろ、人為的なものだと思う方が自然だろう。

 それをやってくれた人物はおおよそ予想がつく。


 とは言え、今はとにかく泣いているメルクを抱きしめながら生きていることを喜ぶとしよう。


「どう、落ち着いた?」

「はい。すいません、みっともない姿を見せちゃって……」


 泣き止んだメルクはそう言うと、顔を隠しながら私から離れた。


「良いの、私だってメルクが生きててくれて泣きたくなるくらい嬉しいんだからさ。それに、こうして生き残って泣くのなんて全然みっともなくないよ」


 離れたメルクをもう一度抱き寄せ、隠している手を退かし、目を合わせる。

 私の行動、或いは言葉に驚いたメルクは小さく笑った。


「……励ますにしても強引すぎです。でも、ユフィさんらしいですね」


 メルクはもう一度涙が流れそうな程に潤んだ瞳のまま呟くと、照れを隠して顔を背ける。


「ふふっ。こういう時は強引なのが一番だからね。お陰で怖くなくなったでしょ」

「まぁ、そうですね。お陰様で落ち着きを取り戻せましたけど、強引なのが嫌いな人も居るかもしれませんから気を付けた方が良いですよ」


 あくまでも冷静な態度を装って私を諫める発言をしつつ、立ち上がって服の埃を叩いている。

 しかし顔はどことなく嬉しそうだ。


「そっか~。メルクは強引なのが好きなんだね」

「なっ!? ニヤニヤしながらなんて事を言うんですか! ユフィさんの馬鹿!」


 崩れた瓦礫が散らばる、襲撃された戦場の中で相応しくない会話。

 けれどもこれで良い。こうして普通に会話が出来るようになったからこそ、聞ける事もあるのだ。


 それこそ、本部が襲撃された時の話。

 メルクを助けた今、次はクロス達の安否と襲撃に連なる情報が必要だ。


「ねぇメルク、ここが襲われた時さ、クルスさんが来たみたいなこと言っていたけど、その後どうなったの? 通信が途切れちゃって聞こえなかったんだよね」


 こんなタイミングで振るべきじゃない問いかけ。記憶がフラッシュバックしない事を願う。


「えっと、クルスさん……ですか?」


 突然話を振られた事にきょとんとし、必死に記憶を漁っているのか言い淀んでいる。


「うん。思い出せそう?」

「あ、あー! そうです! クルスさんがクロス総隊長を殺さなきゃいけないって言っていました! まずいです。早く助けに行かないと!」


 ハッとした顔で思い出したかと思えば、突然焦り出すメルク。

 青ざめた顔で、冷や汗をかいているのが私の目から見ても理解出来、すぐにでも走り出しそうなメルクの手を掴む。

 急いては事を仕損じる。

 逸る気持ちも急行するべきなのも分かるが、少なくとも戦える私が先頭に立つべきだから、この行動は正解の筈だ。


「メルク、お願いだから一人で突っ走らないで。私から離れられたら襲われた時に守れない」

「ご、ごめんなさい。なんか居ても立っても居られなくて」

「大丈夫だよ。クロス総隊長の元にはカルマさんも居るしさ。あの二人がそう簡単に殺されたりなんかしないよ」 


 カルマも万全じゃないとはいえ実力はあるし、クルスが烙印者の武器を使おうともそう簡単には殺せない筈だ。

 とは言え、さっきから本部内が静かすぎるし、戦っている気配もない。

 これを伝えればメルクは更に焦ってしまうかもしれないから言わないが、もしかしたらもう戦いは終わっていて、殺されてしまっているという事も考えておいた方が良いだろう。


「それもそうですね。ユフィさんの言う通りでした。というか、私なんかが行っても足手まといなのに、焦っちゃって馬鹿みたいですよね」

「ううん、そんな事ない。心配するのは悪い事じゃないし、メルクは足手まといなんかじゃないよ。ただ一人で突っ走るのは危ないからさ、ほら、私と一緒に行こう?」


 言葉と共にメルクへと手を伸ばす。繋いで歩くのはリスクだが、こっちの方が守り易い。


「はい!」


 返事と共にメルクが手をしっかりと握り返すと、間髪入れずに私は走り出した。

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