43話 『ディオスクロイ』
クロイを難なく倒し、私はすぐにノーヴァの元へと赴こうとした。
けれど、不思議と違和感を感じ、足は立ち止まる。
「これで後はノーヴァの方をなんとかすれば……? あれ?」
今までは烙印者を倒せば力を吸収出来ていた。なにより烙印者は殺されれば塵のように消えるのだ。
にも関わらず、未だ塵となって消える気配のないクロイに対して違和感と一抹の不安がよぎってしまう。
そしてその不安は的中し、本当に死んでいるのかを確認しようとしたその時、クロイの体は突如として魚の様に激しく痙攣し始めたのだ。
「うわっ! なにこれ!? どうなってんの!?」
急に息を吹き返すように痙攣したかと思えば、次の瞬間には糸で操られる人形のように起き上がるクロイ。
そんなあまりにも異常すぎる光景に私は思わず驚いてしまい、怖くなって少し後ろに下がってしまう。
しかしこんな私など他所にクロイは生気の帯びてない目でノーヴァの方を見つめると、おおよそ人間の関節では出来ないような動きをしながら動き始めた。
「ひぃぃ! な、なんすかこいつ! めっちゃ気持ち悪いっす!」
一体何が起きているのか。
あまりの光景に脳が混乱してしまったが、耳に聞こえた悲鳴によってすぐに思考は切り替えられ、私の足は叫び散らかしているノーヴァの元へと動いた。
「ユ、ユフィさん! あ、あれなんなんすか!?」
私が近づいてきていることに気付いたノーヴァは、物凄い速さで私へと近づき、半分涙目になりながらクロイを指差している。
そんな中で私はクロイの動向を気にしつつ、ノーヴァを一瞥した。
戦闘時間が殆ど無かったからなのか、どうやら傷は増えていなさそうだ。
「あー、えーっと、私にも分からないんだよね。多分殺した筈なんだけどさ」
ひとまずノーヴァが無事だった事に安堵しつつ、私は答える。
「うぇ!? そうなんすか!? あ、でも死んで操られてるならあんな気持ち悪い動きも出来る……のかなぁ?」
いつの間にかディオスにべったりとくっついているクロイに対して好き勝手に言い続ける私達。
そんな私達に対し、ずっと黙っていたディオスはぷくっと頬を膨らませながら怒り始めた。
「全く、クロイを気持ち悪がるなんて酷いですわね。ほら、おいで。一緒になりましょう」
今から何が始まるんだろう。
怒っていたディオスがクロイを抱擁すると、二人から眩しい閃光が放たれ、私達は思わず目を瞑ってしまう。
そうして、光が収まってから目を開けてみれば、そこにはクロイを吸収――というよりも合体したような姿をしているディオスが傘を両手に持ち、構えていた。
「私達は二人で一つ。これこそが双子の烙印者の真骨頂ですわ!」
「ユフィさん、これってもしかして合体を止めるべき……でしたよね?」
「そうかもしれないね。でも大丈夫、今の私なら負けないからさ。ノーヴァの事も絶対に守るから。大船に乗ったつもりで任せといて!」
ノーヴァとクロイが合体し、例え烙印者二人分の強さになろうとも負けるつもりは毛頭ない。
クロイ単体の実力も分かっているし、油断はしないが、今の私の敵ではないだろう。
「優雅に構えてる所悪いけど、先に仕掛けさせてもらうよ!」
双子の烙印者が浮く以外の能力を持っていると仮定して、それを使われる前に倒してしまおうと、私はノーヴァを置いていくほどの速さで攻撃を仕掛ける。
「一人で来るなんてお馬鹿さんですわね! 返り討ちにしてさしあげますわ!」
私の接近に合わせて日傘を振るい、能力を使ったのか衝撃波のようなものを放ってくるが、それすらも背後に回る事で回避し、驚いたディオスが振り向くと同時に鳩尾へと拳を振るう。
全力で殴った事による一撃は、ディオスをうずくまらせるのには充分な一撃であり、私を見上げなら苦しそうにしていた。
「実力差が分かったでしょ? クロイにも言ったけど、これ以上抵抗しないなら苦しまずに殺してあげるよ?」
「ク、クロイの記憶も持ってるからもうその台詞は聞いてますわ。そして、私の返答は――勿論こうですわよ!」
「そっか、それは最悪の選択だね」
私が仲間を大切にしているという所を利用するつもりなのか、ディオスは俊敏な動きでノーヴァを狙おうと走り出す。
しかし、視線から動きを予測していた私はすぐにディオスへと追いつき、背中を笛で叩きつけた。
背骨の折れるような鈍い音が聞こえ、血を噴き出すと同時に動かなくなるディオス。
クロイの時とは違い、今度はしっかりと塵となって消えていき、力は私へと吸収されていく。
二本の日傘は主を失ったことで道端に転がっており、私がディオスを瞬殺した事で、ノーヴァは日傘と私を交互に見つめながらきょとんとした顔で驚いていた。
「あ、えっと、ビックリさせちゃったよね。あはは、なんかごめんね」
強くなりすぎたことで、恐怖を抱かれてしまっていないか心配になり、少しだけ距離を取りながら、愛想笑いのような笑顔を作る。
怖がられていたとしても、ショックを隠せるように。
「す、凄かったっす! こう、バシューンって感じですぐに倒してて! もう、ホント、めっちゃカッコいいっす!」
羨望の眼差しを向けながら興奮気味に話しかけるノーヴァに対し、怖がられているかもしれないと思った自分が恥ずかしくなり、褒められたことも相まって顔が熱くなってくる。
「ちょ、なんでそっぽ向くんすか!? あ、もしかして照れてるんすね~?」
「う、うっさいな! 今はこんな話してる場合じゃないでしょ!」
「それも……そうっすね。すいません、なんか興奮しちゃいました」
ノーヴァが褒めてくれるのも、照れているのを指摘されるのも、こういう関係性になれたという事は嬉しいし、もっとこうしていたい気持ちはあった。
が、ノーヴァにも言っている通りイチャイチャと話している暇なんてないのだ。
そしてその事にはノーヴァも気付いたようで、すぐに興奮していた心を沈め、私からの次の指示を待っている。
「それじゃ私はとりあえず本部に行くね。ノーヴァには残滓討伐と救出を任せても良いかな? 出来るだけ私も向かいながら残滓を倒していくからさ」
「任せて下さいっす! ある程度片付いたら最後の烙印者も倒しちゃいますよ! さっきは実力を見せれなかったっすけど、ウチだって戦えるんすから!」
「うん、ノーヴァの実力も信用してるよ。……でも、んー、出来れば私が来るまでは手を出して欲しくないけど。――ま、そういう訳にもいかないか。ただ、これだけは約束して、危なくなったら絶対に逃げる事!」
私の真剣な眼差しにノーヴァは頷くことで返し、私達は各々行動を開始した。
一刻も早くこの場を治める為にも。




