42話 『双子の烙印者』
ふわふわと宙を舞う人影。
装飾の施された黒いドレスと、フリルの付いた可愛い傘。
それは所謂お嬢様のような風貌だった。
「ご機嫌よう、器様。僭越ながらそのお身体をお貸しさせてもらってもよろしくて?」
目が合った瞬間、ニッコリと笑いかけてくる烙印者。
笑顔だけで見れば純粋無垢な女の子であるが、双子の烙印が刻まれているのだから烙印者に違いない。
「それで、可愛い顔して言われて私がはい、どうぞってすると思ってるの?」
「いえいえ、それはあり得ないと思っておりますわ」
「だったらどうして奇襲しない訳? どうせ戦うつもりならそっちの方が良いと思うけど」
分からないのは烙印者がどうして正面から姿を見せてきたのかだ。
私の能力でも気付かない程に接近し、それでいて奇襲を仕掛ける事はしない。
私達を倒す。或いは捕らえる為なら普通はあり得ない行動だ。
「えぇ。そうですわね。でも、一人じゃ負けてしまうかもしれませんし、もう一人のわたくしを待つためにお声がけさせていただいたんですわ」
さっきまでの笑顔が嘘だったように、邪悪な笑みを浮かべながらクスクスと笑う烙印者。
もう一人の私というのがそのままの意味なのかはともかく、事実だと仮定したら今すぐにでも攻撃を仕掛けなければならない。
「そんな殺気を向けてももう遅いですわ。既に着いてしまったもの」
「ユフィさん、もしかしてウチらは烙印者二人と相手しなきゃいけないって事ですか?」
「そうみたいだね。双子がまさか本当にその通りだとは思わなかったよ」
私が確認していた双子の位置は後から遅れてきた方であり、一人だと思っていた私達は確実に盲点を突かれてしまった。
だが逆に考えれば二手に分かれてから出会っていれば二体一になっていたし、こうして集まってくれるのは都合が良い。
「ノーヴァ、白の方は任せるけど大丈夫そう?」
視線の先、容姿が瓜二つ。ドレスが白色の烙印者をノーヴァに相手してもらう事にした。
双子と言うからには、戦闘能力も瓜二つだと想定出来る。中々に厄介な相手だろう。
特に手負いのノーヴァでは余計に。
今度こそは私がすぐ倒すしかない。
「はい、多分なんとかなると思います。いや、なんとかするんで大丈夫っす!」
「無理せずに。最悪殺されないように時間を稼ぐだけでも大丈夫だからね」
意気込んでいるノーヴァには悪いが、ここで戦力を削りたくはない。
勿論任せる以上は倒してくれれば助かるが、それよりも攻撃を凌いで傷を負わない戦い方をして欲しい所だ。
「器様、お話の邪魔をして申し訳ありませんが、そろそろお時間ですわ。わたくし達は二人で一人、クロイと――」
「――ディオスですわ。それではお相手をよろしくお願いいたしますわ」
流石に作戦を練る猶予までは与えてくれず、クロイとディオスはドレスの裾を掴み、ぴったりと息の合ったお辞儀をしたかと思えば、私をジッと見据えて攻撃を仕掛けてきた。
ディオスもクロイも両方が日傘を武器として扱い、私だけを狙ってきている。
まるでノーヴァなんて見えてないかのように挟み撃ちだが、私が馬鹿正直に相手するわけがない。
当初の予定通りノーヴァへと視線を送ることで白のドレス、ディオスからの攻撃を防いでもらい、私はクロイの相手を始めた。
「こんなもんね。これなら楽勝かも。――ノーヴァ! そっちは任せたからね! さっさと仕留めるから死なないでよ!」
「了解っす! むしろウチが先にユフィさんより先に倒しちゃうっすからね!」
クロイの攻撃を防ぐことで力量を把握した私は、ノーヴァがディオスの相手をしてくれている間に仕留めようと、一転して攻勢を仕掛けることにした。
「っ! なんなんですのこいつ!? こんなに強いなんて聞いてないですわ!」
数々の烙印者の力を吸い取ったから。というのもあるが、それにしたって他の烙印者よりも明らかに弱い。
もし二人で一人程度の力しかないのなら、ノーヴァでもある程度は粘る事が出来る筈だ。
まぁ私が強くなりすぎているからそう思ってしまうだけかもしれないが。
「知らなくて当然だよ。だって強くなったのはついさっきだからね。私だって自分がここまで強くなれるなんて思ってなかったから。ごめんね、倒させてもらうよ!」
攻勢に出てからというもの、クロイは悪態を吐きながら私の猛攻をギリギリで防ぐことしか出来ていない。
とは言え、ここまでの実力差がありながらも私の攻撃を受け流すことが出来ているのは素直に凄い技術だろう。
無論、あくまでも技術だけだが。
ただそれも長くは保てないようで、余裕のない表情で歯を食いしばった後、苦し紛れのカウンターを仕掛けてきた。
が、そんな攻撃すらも筋が単純すぎて避けるのは容易い。
「なんで当たらないの!? 嫌よ! こんな、こんなのってあり得ないわ!」
「これが私と貴方の埋められない実力差だよ。理解出来たでしょ? これ以上抵抗しないならせめて苦しまないで殺してあげるけど、どうする?」
「黙りなさい! わたくしを舐めないでくださるかしら!?」
私の提案に対して顔を真っ赤にしながら拒否すると、怒りの感情に支配されたのかおおよそ優雅とはかけ離れた言葉をブツブツと呟きながら無謀にも遥か上空へと飛び上がった。
「はぁはぁ、ここから貫いて差し上げますわ!」
息を切らしながら私へと日傘を向け、高らかに宣言するクロイ。
避けられるという事を想定していないのか、勝ち誇ったような言葉に私は小さく溜め息を吐く。
怒りに身を任せた短絡的過ぎる行動だ。
そんな私を見て、クロイは日傘を真下に構える。
「それでは逝かせてあげますわ~!」
上空からの落下。その勢いを力に私へと突撃をしてくるが、蠍の烙印者のレイピアよりも圧倒的に遅い上、直線上に落ちてくるものを避けられない道理がない。
「さようなら、クロイ」
クロイが私へと到達する直前にスッと横に移動して避けた後、そう小さく呟いてからそのまま頭を掴み、思いっきり地面へと叩きつける。
地面へとめり込むクロイの頭から流れる血によって、地面がどんどん赤黒く染まっていき、それが広がる頃にはピクピクと痙攣していた体は動かなくなっていた。




