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星降る魔女の子供達  作者: ねぎとろ


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『救世主……?』

 駄目だ。これ以上は駄目。やめさせないと。

 私を連れ出すために誰かが犠牲になるなんてもう嫌。例え知らない人であっても、私の所為で死ぬなんて耐えられそうにない。


「ね、ねぇ、貴方と一緒に行くからもうこれ以上誰かを殺さないで……」

「……ふーん。ま、お前が来てくれるのなら止めてやるよ。ほら、私の手を取れ、そうしたら今すぐにでも残滓を止めてやる」


 私に差し出された手はとても綺麗で、雪の様に白く、この惨劇を引き起こしたとは思えない。

 でも、そんな綺麗な手でも、これを取ってしまえば私の人生はきっと魔女になる為だけに費やされてしまうだろう。

 そうして、魔女になったら最後、あの本の中の魔女の様に世界を滅ぼしてしまう。

 けど、私がどんなに嫌がったとしても、どちらにせよもう逃げられない。この女の子が強い事は理解しているし、私が抵抗したところでどうにかなるとは思えない。

 だとしたら、どっちみち選択肢がないのなら、今救える命を救うべきだ。


「わ、分かった。もう覚悟は決まったよ」

「――大丈夫! 君が手を取る必要はないよ。残滓は既に滅ぼしたからね」

「ちっ! もう来やがったか!」


 私が手を取ろうとしたその瞬間、男の人の声が聞こえると同時に私は抱き抱えられた。

 そして、間髪入れずに女の子へと複数の人達が武器を持って襲い掛かる。


「大丈夫かい?」

「は、はい。その、貴方たちは?」

「無事なら良かった。残滓を倒すのが遅れてしまってね。済まない。僕達の事は後で説明するよ。それで、確か君の事を育てている我々の仲間が居た筈だが、この様子だと……」


 私は男の人の言葉を聞き、無言で首を横に振った。きっとこれだけでシスターがどうなったのかは伝わったはずだ。


「辛い思いをさせてしまったね。もう少しだけ待っていてくれ。すぐに終わらせてくるよ」


 私の頭を撫でると優しく微笑み、男の人は他の人達が戦っている場所へと向かう。

 すると、男の人が入ることによって私の目からでも分かるくらい圧倒的な戦いとなってしまった。

 勿論、烙印者が劣勢だ。


「なんで、どうして私がこんな奴らに、一撫でで死ぬような脆弱な人間如きに!」


 シスターが戦っているときには感じた強さも今は全然感じず、男の人達の連携によって翻弄されてしまっている。

 茨鞭という武器の相性もあるだろうけど、どれだけ振り回しても当たることはなく、茨を銃弾のように掃射しても弾かれるか、防がれてしまっている。

 カウンターで隙を突かれれば傷を負い、振り回される茨鞭の合間を縫うようにして避ける人から顔を斬られ、女の子は傷だらけ。

 多数に無勢。どれだけ攻勢の手を緩めずに猛攻しようと誰にも直撃する事はなく、最後は簡単に首を落とされてしまった。

 けれど、そう簡単に烙印者は()()()()()()


「クソッ! 一人でも道連れにしてやる!」


 斬り落とされた頭部で悪態を吐いた女の子は、首無しの体で囲んでいた一人を無理やり掴むとその頭を捻じ切った。

 そして間もなく頭部を無くした体は地面に倒れ、動かなくなる。

 ただ、烙印者の女の子も力尽きたのかいつの間にか黒い灰となって消えており、カランと乾いた音を立てた武器だけが消えずに取り残されていた。


「隊長。この遺体はどうしますか?」

「あぁ、そうだな。丁重に扱え。戻ったら遺族に連絡する」

「了解しました!」


 人が一人、いや、シスターも合わせれば二人死んだ。

 そんな状況にも関わらず、涙を流す人はいない。

 悲しんでいないようには見えないが、それでもやっぱり人が死んだ事に対する反応としては淡白のように思えてしまう。


「あ、あの、仲間が、人が死んでしまうのは、その、日常茶飯事なのですか?」


 烙印者や残滓と戦うのであれば、普通の人間じゃ歯が立たないだろう。それも、一対一で戦うとなれば尚更だ。

 今の一連の流れを見ればそれくらいは私でも分かる。

 そもそも、現にシスターは最初に一人で戦い、死んでいる。

 あそこまで強くても一人では簡単に殺されてしまっているのだ。

 つまり、この人たちはきっと誰かが死んでいくことや、助けられずに死んでいく仲間を沢山見てきている。

 だから、死に対する感情があまり湧かないのではないかと、私はそう思った。

 問いかけになんて答えるかは分からないけど、この考えは概ね間違ってはない筈だ。


「……そうだね。部隊の家族や友人、仲間、それに顔も知らない人達。そのどれもが死んでいくのは良くあることだよ。でもね、神出鬼没の烙印者達に対して我々はどうしても後手に回ってしまうのが現状だ。助けようにも助けられない。悲しくとも慣れる他ないんだよ」

「そう、ですか。でも、話を聞く限りだと慣れるのも無理はない……と思います」


 死に慣れる。それも戦っていく上では大事な事なのかもしれない。

 でも、私は余り慣れたくはないと思う。だって、目の前の男の人が悲しんでいるようにはどうしても見えないのだ。

 こうなってしまえば最早人間として大事なものを失ったと言えるだろう。


「そうだ、君に聞きたいことがある。烙印者はどうして君に手を差し伸べていたんだい?」

「あ、えっと、それは多分この烙印……えっ!?」


 私が胸元の落胤を見せたその瞬間、私を心配していた人達はすぐに距離を取った。

 既に戦闘態勢を取っているようだし、この人たちからすれば私はもう敵という認識で間違いない。

 こうなってしまってはもう遅いが、私の行動は余りにも迂闊だったようだ。


「各自間合いを意識して構えろ! 胸にある烙印は魔女の器だ! 心して掛かれ!」


 優しく微笑んでいた顔は険しくなっており、見つめる目には敵意が篭っている。

 この人がもう一声指示を出せばきっと私は殺されるのだろう。


「そんな……」


 天国から地獄。助けて貰えたと思ったその矢先に、私は殺されるのだ。

 でも、私は烙印者だから、殺されて当然で敵意を持たれて警戒されるのも当たり前なのかもしれない。

 家族や友人を殺した烙印者の、それも元凶である魔女の器が戦う意思もなく目の前に居るのだから、この人たちからすれば被害を抑える為にも殺しておく以外に選択肢はない。


 ――でも、まだ私は死にたくない。烙印者だとしても生きていたい。


「嫌だ、私はまだ、死にたくなんか……」

「な、なんだこれは。ぜ、全員戦闘態勢を解除しろ! そこで待機だ!」


 私の小さく放った呟きが聞こえたのか、男の人は部隊を制止させ、ゆっくり近付く。


「待ってください隊長。幾らなんでも烙印者へ無防備に近づくのは危険です!」

「そうですよ、止まってください! 隊長が殺されたらこの部隊は終わりなんですよ!?」

「大丈夫。問題ないよ。殺す気ならもうさっきの烙印者と協力して殺しに来ている。それにお前たちから見ても敵意がないのは分かるだろう?」

「――ッ!? それは……。はぁ。分かりました。隊長の好きになさってください」


 無理やりではあるけど、他の人達を納得させたのは、この人が今まで得た信頼と、私が烙印者として何もしなかったからに違いない。

 とは言え、ここから先対話したとして、私がここから生きられる保証はあるのだろうか?


「えーっと、理解していると思うけど、君の烙印はさっき我々が殺した魔女の子と同様の代物だ。――いや、もしかしたらより恐ろしいものかもしれない。だから、君の結末はもう……」


 すぐに武器を取り出して私を殺せる距離を保ちながら、神妙な面持ちで話し掛けてくる。

 それはとても穏やかな声色で、出来るだけ敵意を込めないようにしているみたいだった。


「……殺される以外に選択肢はないってことですよね?」


 自分が死ぬしかないと分かっても、逆上して襲い掛かるほど私の理性は失われていない。

 これは例えこの人が敵意剥き出しで喋り掛けてきていても変わらないだろう。

 なにせ、私には元々戦う意思も逃げるという道も無いのだから。


「そういう事になる。烙印を持ってしまっているから、申し訳ないけれど……」

「そう……ですよね。分かりました。出来れば痛みもなく殺していただけると助かります」


 きっと、この人はここまで簡単に応えるとは思っていなかったのだろう。

 だからこそ、驚いたような、困惑しているような顔で私を見ている。


「分かった。出来るだけ痛みはないようにするよ」


 剣を鞘から抜き、男は少しずつ近づいてくる。ゆっくりと、だけど、確実に私を殺す為に。

 その間、私は目を瞑って今までの思い出を振り返る事しか出来ない。

 シスターに不自由なく育ててもらった事、それはきっと烙印者としては幸せに生きれた方だろう。まだ大人にも満たない年齢だけど、充分な人生だったと言える筈だ。

 そう、充分……じゃない。違う、全然違う。確かにシスターとの日々は幸せだったかもしれない。だとしても、私はまだ死にたくない。生きていたい!


「くっ! もし、もしも君がまだ生きたいのなら我々の組織――『ジャッジメント』で、自らの価値を、存在意義を証明するべきだ」


 私の顔はきっと涙でぐしゃぐしゃになっていて、その顔は声に出さずとも、生きたいと、死にたくないと伝える程だったのだろう。

 だから、この人の振るった剣は首を斬り落とす直前に止まったのだ。

 私が普通の女の子に見えたのか、それとも良心の呵責に耐えられなかったのかは分からない。

 ただ、どちらにせよ一時的とはいえ生き延びられたのは確かだ。


「ありがとう……ございます。生きられるのなら、まだ生きて良いのならやってみます」

「あぁ。それじゃ、少し準備をするから待っていてくれ」


 男は私から離れ、仲間の元へと戻っていく。恐らく私を生かしたまま組織に連れていく為に仲間を説得する必要があるのだろう。

 ここからじゃ断片的にしか会話が聞こえないけど、少なくとも良い顔をしている人はいないようだ。

 有り得ないといった表情をしている人の方が多いし、烙印者という殺すべき存在を生かし、且つ組織という本拠地に連れていくのがどれだけ難しいのかは想像に難くなかった。

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