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星降る魔女の子供達  作者: ねぎとろ


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36話 『逃がさない』

 目にも止まらぬ刺突。

 私がかろうじて出来たのは突きの軌道を逸らす事だけ。

 心臓を的確に狙った突きをギリギリで逸らせた事は上々だが、代わりに左肩は貫かれている。

 突かれた左肩からは血が滲むが、貫通したレイピアが壁に刺さったお陰で烙印者は引き抜くのに時間が掛かっている。

 痛みはあるが、これはチャンスだ。


「ははっ! 凄いよ、まさかこれに対応してくるなん――」


 負傷個所を抑えたい気持ちがある中で私は右腕に力を込めると、陽気に喋る烙印者の脇腹を狙って力の限り武器を振り抜いた。

 烙印者は口から涎を噴き出しながら吹き飛んでいく。

 想像以上に服の材質が硬く、鉄を殴ったかのようだが、簡単に吹き飛んだことを考えると、案外烙印者本体に耐久力はないのかもしれない。


「良いね、良いじゃんか。僕に攻撃を当てれるなんて。あは、あはは。最高だ! これなら僕が全力を出しても大丈夫そうだ!」

「あんた、何を言って――っ!」


 小柄な体を上手く使っての独特な動きはあまりにも速く、気付けば迫る刃に驚き、私は勢いよく飛び退いた。痛みはさらに増す。

 けど、今の刃は本能的に避けなければいけなかった。

 いや、正確に言えば迫る刃ではなく、先端にいつの間にか塗られている紫色の液体を危険視したというのが正しいだろう。


「んー、避けられちゃったか。初見が一番油断しているからやり易いんだけどね」


 距離を取った私と対峙しながら、レイピアを不自然にも鞘へと戻し、すぐに引き抜く。

 一見よく分からない行動にも思えるが、すぐにその意図を理解し、私はジリジリと距離を取りながら少しでも動揺を誘う為に問いかけた。


「そうやって毒を使い分けてるって事でしょ?」

「うん、そうだよ。別に隠すつもりもないしね。どうせ分かったって見えないんだからさ」


 私が気付いたことなんて意にも返さず、気にも留めない様子のままに、烙印者は毒を禍々しい紫から目を凝らさないと見えないくらいの色へと変化させた。

 これでは戦闘中に認識する事は難しい。

 常に毒に気を配らないといけない以上、私は嫌でも避ける事を余儀なくされてしまう。


「その顔。ぞくぞくしちゃうよ。……でもね、僕はもっと苦痛に満ちた顔が見たいんだよ!」


 次々と仕掛けられる猛攻に、私は掠る事すらないようにひたすら避け続ける。

 その中で私は毒というものが烙印者にも効くのか。

 仮に効いたとしてもどれくらいの効力があるのかを考えながら、反撃の機会を窺い続けた。


「――きゃあっ!」

「ルーナ!? 大丈夫!?」


 不意に私の耳に届いたルーナの悲鳴。

 それを聞き逃す事はなく、視線は一瞬そちらへと向いてしまった。

 私の視界に映るのは一撃をくらって吹っ飛んでいるルーナと、追撃のハンマーを必死に受け止めているノーヴァの姿だ。

 しかし、幾ら心配だとしても戦っている最中にまたもよそ見をするのは悪手でしかなく、その事に気付いた時にはもう遅かった。


「君の仲間は凄いね。普通の人間なのにあそこまで戦えてるんだからさ。だけどね、君はそっちを見てる暇はないんじゃないかな?」

「っ! まずい! 掠った!?」


 視線を外している一瞬に距離を詰められていたようで、声のする方へと視線を戻した時には下から突くようにレイピアの刃が飛んできている。

 こうなってしまえば完全に避けきることは叶わず、胸に掠った毒は私の全身を蝕んでいった。

 吐き気と痙攣。

 今はそれだけの症状とはいえ、ここまで速攻で発動する毒ともなれば時間が経つほど強力になっていくだろう。

 だから、今私がやるべき事は烙印者としての回復力を信じて時間を稼ぐことだ。


「さぁて、僕の毒の効果はどうかな? 苦しいでしょ? 大丈夫、もっと苦しめてあげるからさ。ほら、苦痛に歪む表情をもっと僕に見せてよ」

「……ふぅ。行って! 蛇ちゃん達!」


 無理やり吐き気を抑え込み、悠々と歩いてくる蠍の烙印者へと苦し紛れの一撃を放つ。

 それは蛇による突撃であり、呼び出された蛇は噛みついたまま離れた家屋へと烙印者を連れて行った。

 蛇と烙印者が家屋にぶつかった事により、倒壊した瓦礫により烙印者は姿を消す。


「はぁ、はぁ。うっ、おえぇ!」


 視界がぐらつき、地面に膝をついて吐いてしまうが、それでも蛇を操り続けて拘束を解かれないようにと踏ん張り続ける。

 姿は見えずとも、烙印者が蛇を振り払おうと抵抗しているのが召喚した蛇を通して分かるのだ。

 とはいえ、時間を稼ごうと一向に私の体から毒が抜ける気配はなく、むしろ順調に巡っていく毒は体中の筋肉を固めていた。

 やはり烙印者と言えど、毒は効果的らしい。

 治るのか、慣れるのかどうかは私の体次第。

 どうにか自然治癒力に賭ける他ない。


「あ、あっちの状況は……?」


 私が賭けに出なきゃいけなくなったが故に、私がこのまま毒に負けてしまえばルーナ達も殺されると思い、確認する。

 が、私の心配など杞憂なようでルーナ達は攻勢に転じていた。

 いつの間にか増えている傷と出血はここから見える程多いが、それでも突撃しているノーヴァは烙印者の振り下ろすハンマーを受け止めている。

 激しい衝撃と風圧が私を通り過ぎていく。

 砂埃が一瞬私の視界を奪い、次に目を開けて確認した時には最初と同じようにルーナが茨鞭を駆使して拘束していた。


 ……とはいえ、そう簡単に倒せないのが烙印者だ。

 ここまで優位な状況になったとしても烙印者ならば能力一つで盤面をひっくり返すことが出来る可能性がある。

 そう思ったからこそ、私は気力を振り絞り、無理やり上空へと飛ぼうとしている水瓶の烙印者を仕留める為に蠍の烙印者を抑え込んでいる拘束を解く事にした。


「――絶対に、逃がさないんだから」


 今ここで蛇を向けなくても仕留めれる可能性はある。

 むしろ、私の身を守るためには拘束を解かない方が良かっただろう。

 けど、そうは言ってもこの好機を逃すべきではないも事実。

 私が動かした蛇は烙印者の足へと巻き付き、地面へと固定する事で逃げ道を塞ぐ。


 ……これで、後はルーナとノーヴァに任せれば大丈夫だ。


「今よノーヴァ! 決めなさい!」

「任せてくださいっす! もう逃がさないっすよ!」


 私のアシストに気付いた二人が一瞬こちらへと視線を向け、それからすぐに鈍い音と声にならない叫び、最後にグシャっという潰れる音が耳に届いた。

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