35話 『再会』
「――さすがに強いわね。ノーヴァ、一旦態勢を立て直すわよ!」
「了解っす!」
「良いよ。幾らでも逃げなよ。どうせ君たちに勝ち目なんてないからね」
さっき助けた人に烙印者の居場所を聞き、ルーナ達が戦っていることを教えてもらったお陰で、想定よりも早く発見することは出来た。
クロスに聞いた通り、目に見える範囲では烙印者は少なくとも二人。
一人は男装をしており、もう一人は目隠しをした上で修道服を着ている。どちらも烙印は隠れていて見えそうにない。
もう少し観察すれば確認出来そうだが、そう悠長にしている時間はないようだ。
烙印者達から逃げるルーナとノーヴァは血を流し、服も破れているのが見て取れた。
「……!?」
「やべっ、気付かれちゃった?」
それに対して逃げる二人を追いかけようともしない烙印者達に傷は見えず、修道服の奴に限っては屋根上、それも姿を殆ど見せなかったにも関わらず首を捻じ曲げるようにしながらこちらを向いてきている。
「んー、見つかったかは分からないけど、一旦ルーナ達と合流した方が良さそうかな」
目隠しをしているからこそ、見つかったのかどうかも分からない。
それに一切こちらへ向かって来ようとしないし、喋りもしないのが不気味だが、今はとにかくルーナ達に会って現状を話し合った方が賢明だろう。
「ルーナ! ノーヴァ!」
「っ!? ――ユフィ!?」
戦場の音に紛れれば私の出した声などすぐにかき消されてしまい、烙印者達が気付くことはなかったものの、後ろから声を掛けた所為なのか、ルーナとノーヴァは瞬時に武器を手に取って戦闘態勢へと移行した。
しかし、すぐに私の存在に気付くとまるで幽霊でも見たかのような表情へと変貌した。
「あはは。二人共、驚かせてごめんね。助けに来たよ!」
「えっ? はっ? ちょっと待ちなさい。助けに来たって……まさかノーヴァ、貴方が!?」
「ち、違うっす! ウチはなにも言ってないっすよ!」
私を放ってルーナはノーヴァを睨むと、睨まれたノーヴァは首を横に振りながら全力で否定している。
ひとまずここは放置プレイされている私が説明した方が良さそうだ。
「まぁまぁ、ルーナちゃん。落ち着いてよ。ノーヴァは悪くないよ。単純に私がクロス総隊長に直談判して来ただけだからさ。早急に片付けて戻るっていう約束だけどね」
「……はぁ。全く、貴方はそうやって危険な事に首を突っ込んで……。まぁ良いわ。助けに来てくれたのは有り難いしね」
「そうっすね! ユフィさんが居れば百人力っすよ!」
戦場という場所、張り詰めた空気の中で楽観的な事を言うのは現実が見えていないだけなのかもしれないが、ノーヴァの言葉は確かに私達の心に多少の安寧をもたらしてくれた。
「あ、そうだ。ルーナにクロス総隊長からの伝言があるんだけど、遅れてもう一人強い人を派遣するみたいだよ。武器持ちでスターク隊長の一時的な代わりだってさ」
「そう、それは頼もしいわ。倒した後の建て直しにも必要だしね。……さてと、それじゃそろそろ戦いましょうか。烙印者が痺れを切らして他の人々を襲う前にね」
私達が話をしていたのは時間にしてどれくらいだろうか。
それ程経っていない気はするが、それにしたって烙印者たちが一向に私達を探そうとせず、その場で留まっているのは何処か不気味なものを感じてしまう。
とは言え、物陰から様子を窺い続けても烙印者が何を考えているのなんて分かる訳もないし、意味なんてない。
今はとにかく、死角からの先制攻撃を成功させるべきだ。
「ルーナちゃん、私がまずは飛び出すからあっちのハンマー持ちを任せて良い? ノーヴァちゃんもルーナちゃんと一緒に戦ってもらえる?」
一度上から見たのと、今確認した事で分かったが、烙印者の武器はレイピアとハンマーで間違いない。
二人に確認してもどんな烙印が刻まれているかまでは分からないらしく、武器だけで判断するならばおおよそ蠍座と水瓶座といった所。
とは言え、ルーナとノーヴァも戦っている最中に能力は使われていないとの事で、両方の能力が未知数なのも不安材料の一つと言える。
だとすれば、蠍座だと仮定した上で毒を使われる可能性を考えると、レイピア持ちは烙印者の体を持つ私が相手するべきだ。
「えぇ。それで構わないわ。すぐに倒して援護するわね」
「ウチも問題ないっす。ハンマーならウチとの相性は良いっすしね」
私が考えていた事を説明する時間はなかったものの、私の指示からある程度汲み取ってくれたのか、納得を示す。
そんな二人の言葉に小さく頷き、もう一度烙印者へと視線を向けた。
そうして仕掛けるタイミングが訪れた時、私は烙印者を前に強張っている二人の背中を叩いて和らげると同時に、物陰から飛び出した。
「それじゃ、そっちは任せたよ!」
キョロキョロと辺りを見渡し、私達が居る逆方向へと顔を向けた瞬間を狙った私は、一直線に攻撃を仕掛ける。
武器を手にし、一歩目から勢いをつけて。
「――なっ! この力は!?」
力に身を任せた突進ではあるが、不意を突いた一撃は烙印者の判断を鈍らせ、咄嗟にレイピアで防がれようとも、もう一人との距離を引き離すのには充分だった。
「ルーナちゃん! 今だよ!」
「はいはい、任せなさい。行くわよ、ノーヴァ!」
「こっちは準備万端っすよ!」
私の言葉を皮切りにルーナ達も飛び出し、私へと視線を向けていたハンマー持ちの烙印者へとルーナが茨鞭を振りかざす。
それに続き、ノーヴァもハンマーを構えて茨鞭によって動きを阻害されている烙印者へと横薙ぎに振り抜いた。
「あはは。いやー、水瓶の奴は大人気だなぁ。嫉妬しちまうよ。で、器さんは一人で戦えるのかな? あぁ、でもクレヴィスみたいな戦闘狂に勝ったみたいだからそれなりには戦えるのか。それじゃ、手加減は無しで大丈夫そうだね」
私の攻撃を防ぎ、悠々と距離を取った烙印者はレイピアの先端を私へと向けながらそう言い放つ。
一連の所作からは自信が感じられ、クレヴィスと同様にこいつも自分の力に絶対的に信頼があるようだ。
「そう、手加減してくれるなら有り難いけどね。それで、あっちが水瓶って事はあんたは蠍で合ってるの? 私の予想だとその筈なんだけど」
「ん? あぁ、そうだね。それで合ってるよ。僕が蠍であっちは水瓶。後は……まぁこんなつまらない話はもうやめにして、さっさと戦おうか。器さんは頑丈だから沢山遊べそうだしね」
レイピアを向けたままで自らの烙印を私へと見せた後、彼女は恍惚の表情を浮かべながら舌なめずりを始めた。
これ以上の対話は望み薄だ。
「ノーヴァ! そいつの能力は水による推進力よ! 上からの攻撃に注意しなさい!」
「大丈夫っす! ハンマーの防ぎ方なら心得てるっすから……って、うそうそ、やばいっす! こいつ、すげえ馬鹿力なんすけど!?」
「何してるのよ! わざわざ受け止める馬鹿がどこに居るのよ!」
「いやー、ちょっと対抗心的なのが燃えてきたんすよ。でも、もうこんなヘマはしないっす! 大体力量は把握したっすからね」
私が蠍の烙印者と対峙している間、ルーナ達の戦いは激しくなっていくが、戦闘音に紛れて話している声も耳に届いていた。
それはどこか余裕さを感じるものがあり、水瓶の烙印者の能力がハンマーから水を放出して推進力を得るというのを知ったからだろう。
知っているのと知らないのでは雲泥の差があるし、余裕が生まれるのは良いことだが、どうかこれ以上の油断をしないようにだけ注意して欲しい所だ。
「へぇ、避けるなんて流石だね。でもさぁ、僕を前にして余所見するなんて慢心し過ぎじゃない? それとも、僕の事を舐めてる訳じゃないよねぇ!?」
蠍の烙印者の行動に警戒しつつも、私の視線はルーナ達の戦いへと向けられていたが、唐突に迫ってきたレイピアの刃と異常なまでの殺気に冷や汗が体を伝い、私の体は反射的に動く。
「いやいや、あんたの方があっちより弱そうだからね。仕方ないんじゃない?」
どう考えても蠍の方が強いのは間違いないが、今すぐ攻め立てられてしまえば防戦一方になってしまう。
だからこそ、私は敢えて神経を逆なでするような言葉を向け、怒りによって動きを単純なものにさせようとした。
「ふぅん。クレヴィスを殺したからか知らないけど舐められるのはムカついちゃうなぁ。僕を侮って痛い目を見なければ良いね!」
しかし、私の目論見通り怒らせることは出来たものの、蠍の烙印者の攻撃は一向に単調なものにはならず、むしろ軌道が読みづらく、私の動きを先読みするかのようなものになってしまった。
つまる所、私の作戦は失敗に終わったという訳だ。
「どう? さっきから避けてばっかだけど、これでも僕は弱く見えるのかな!」
言葉と共に放たれるのは目にも止まらぬ速さの一撃。
音を置き去りにする攻撃は、壁を背にしている今の私では完全に防ぐことも避ける事も叶わなかった。




