33話 『不在の仲間』
それからというもの、カルマとの話が終わってから私はメルクと共に病室での療養を余儀なくされた。
身体的には完治しているが、何故か新たな任務をさせられることはない。
毎日毎日メルクと楽しく話をするだけ。
とはいえ、さすがに一週間近くもこの状態だとルーナ達に会いたいという思いが膨れ上がっていくのも無理はなかった。
「それじゃちょっと私はルーナちゃんの事探してくるね。メルクも一緒に来る?」
「ううん、私はまだ全然治ってないから安静にしておこうかな。でも、ルーナさんには私も会いたいから見つけたら連れてきてね」
「勿論! んじゃ、行ってくるね!」
元々病室から出る事を禁じられていない為、意気揚々と病室を出た私はルーナを探すために奔走した。
しかしどこに行っても痕跡はなく、そして本部に残っている人たちがやけに少ないという異様さに気が付いてしまった。
「二人とも、何処に居るんだろ……?」
私という烙印者が走り回っても気にも留められていないという状況の中、わざわざ注目を浴びるのは愚策かもしれないが、それでも私は自分の中に芽生えている嫌な予感をかき消すために大声を出して探そうと決意した。
勿論道行く人に聞くという手段を考えなかった訳じゃないが、ちゃんと答えてくれない可能性を考慮した苦肉の策だ。
無論、これでも見つからなければ聞く他ないが。
「ねぇ聞いた? ルーナさんって今隣国の戦いに駆り出されてるんですって。しかも、負傷したカルマ隊長の代わりとしてよ? 凄いわよね、私も一緒に戦いたかったわ」
「いやいや、あんたじゃ無理でしょ。端的に言って実力不足だと思うし」
「えー? 私も実力的には同じくらいだと思いますのに……」
「そうかもしれないけどさ、ほら、私らは本部の守りを任されてるんだから諦めなさいよ。それと、毎日同じことを聞き続けてる私の気持ちも考えてよね」
「うー、だって羨ましいんだもん! あのカッコよさが分からないの!?」
「はいはい、もうそれも聞き飽きました。さ、黙って見回り再開するよ。暇かもしれないけどこれも任務なんだから」
この会話が聞こえたのは息を整え、私が叫ぼうとしたその時だった。
話しかければ良いのになんとなく隠れてしまった私は、盗み聞きしたに過ぎないが意図せずに知りたかった情報を入手出来てしまったのだ。
こうなってしまえば私の取る行動は一つだけ。
まずはクロスの元に急ぐ事だ。
ルーナが戦っているのなら、私も一緒に戦う為に。
「ふむ、なにやら慌ただしい足音が聞こえたかと思えば、まさか君が来るとはね。蟹座との戦いをカルマから聞かせてもらったが見事なものだったらしいな」
「はぁはぁ。そ、そんな事はどうでも良いんです! それよりルーナちゃんの事でお話が!」
駆け出した私はノンストップでクロスの元へと辿り着き、扉を壊さんとばかりに開く。
開口一番クロスが言葉を発するが、それを無視して私はルーナの話題を切り出した。
しかし、私の言葉を聞いたクロスは険しい顔をしながら手を払って下がるように指示を出すだけで、近くに居たカルマも罰が悪そうにそれを見ている。
でも、ここで行儀良く引き下がるわけにはいかない。
「あの、どうして遠ざけようとするんですか? もう知ってるんですよ!? ルーナちゃんと、それにノーヴァちゃんも隣国に行ってるってことぐらい!」
「それで、だからどうしたというのだ。まさか君も行こうと考えている訳じゃあるまいな? いや、君は助けに行こうと考えているだろう。だから未だここに居座ろうとする」
殺気とは違う威圧のようなものを浴びてしまい、私は一瞬尻込んでしまうが、それでも頑なに居座り、クロスの遠ざけようとした思いを無駄にさせた。
そうして、どちらも話さないまま睨み合いが続いた時、ずっと黙っていたカルマがクロスへと耳打ちをすると、クロスは諦めたように私を遠ざけようとする理由を話し始めた。
「……仕方ない。話してやるとしよう。まずはつい五日程前に起きた隣国での騒ぎからだ」
淡々としながらも、それでいてどれ程隣国が絶望的な状況なのかをハッキリと話してくれた。
どうやら現在隣国に複数体の烙印者が存在するらしく、そしてなによりも天秤座の能力によってスタークが殺されてしまったとの事。
余りに衝撃的な事実を受け、立ち眩みを起こしたように座り込むが、そんな私に構うことなくクロスは話し続ける。
「スタークを殺した天秤座、そいつの能力は自分の命を犠牲にするものとの報告もあり、隊長一人で厄介な敵を殺せたのも事実だ。しかし、それでも烙印者が二人残っている以上は隊長に近い実力者を隣国に送る他なかった。だからこそ、ルーナ君たちを向かわせたのだよ」
どうして私を頼らなかったのか。どうして私を使わなかったのか。
ルーナ達を向かわせた理由は分かっても、私の中ではこの疑問が浮かんでしまう。
でも、それを言葉にしようと口を動かそうとした時、クロスが先んじて疑問に対する答えを教えてくれた。
「君の言わんとしてることは分かる。どうして君を戦力として送らなかったのか。だろう? その疑問に対する答えは一つしかない。自国を守るためには君が必要だからだよ」
鋭い目を向けながら私を黙らせ、正直に理由を述べるクロス。
けど、今は襲撃されていないこの国の為に私を残したと言われても到底納得出来る筈がなかった。
子供じみた浅はかな考えかもしれないが、私が居れば助けられるのならすぐに行くべきだ。
「その顔は納得できないって顔か。しかしユフィ君、君にも考えてみて欲しい。君は今や隊長を凌ぐ実力を持っていて、我々の切り札とも言える。そんな君をそう易々と隣国に向かわせられると思うかな?」
「……でも、まだこの国は危機に陥ってないし、それなら私を使ってさっさと隣国を助けた方が良いと私は思います」
「そうか。言葉が足りなかったな。確かにこの国は未だ平和そのものだが、いつ襲われるかなんて誰にも分からない。今すぐかもしれないし、君の言う通り隣国の戦いが収まってからかもしれない。だが、どちらにせよ君を行かせることは出来ないんだよ。なんといっても、今の我々には隊長が存在しないのだからな」
一瞬、クロスの言っていることが理解出来なかった。
隊長が居ない? 確かにスタークは死んでしまったかもしれないが、カルマはともかくクルスが居るはずだ。
……いや、違う。既に裏切っているとしたら居ないのも考えられる。
「納得してもらえたかな。もしそうなら即刻この場を立ち去りたまえ。また必要な時は追って通達をする」
私に考える隙間を与えないように、喋る暇すら与えないように、クロスは背を向けてそう言い放つ。
そうして硬直し、動こうとしない私に対してカルマを使って追い出そうとした。
多分、ここで言う通りに退けばルーナを助ける事が出来なくなる。
そんな気がして、私は意地でも退かない為にまずは隣国に行くという話ではなく、クルスについて聞くことにした。
本当に裏切ったのか気になる所だし、ここで駄々をこねるように行くと言い続けても無駄だと分かり切っているからこその機転だ。




