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星降る魔女の子供達  作者: ねぎとろ


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31話 『疑心』

 そして、病室の扉が勢いよく開けられる。

 この開け方は二人の内のどちらかだ。


「――おっ! 二人とも良い雰囲気っすね! ウチも混ぜてくださいっす!」


 ズカズカと病室に入ってきたノーヴァは、私達を見るや否や笑顔で間に入り込むと、メルクではなく私へと目を向けながら口を開く。


「ウチらの仇を討ってくれたんすよね。メルクも凄い嬉しそうだし、本当にありがとうございます。英雄さん!」

「ちょ、えぇ!? もしかして聞いてたの!? でも、ごめん。私はまだちゃんと討伐されているかは分からないんだよね……」

「大丈夫っす。きっと倒せているっす。なんとなくそんな気がしますから!」


 ニシシと笑うノーヴァと私の反応を見てクスクスと笑うメルク。

 英雄と呼ばれるのはなんだか気恥ずかしいけど、そんな二人を見てれば似合わないけども不思議と悪い気はしない。


「それじゃウチはこれだけ言いに来たのでおさらばするっす!」

「え、そうなの? もっとゆっくりしていけば良いのに」


 もう少し話したかった私が引き止めようとするが、急いでいるのかノーヴァは首を振ってその誘いを断った。


「残念ながら任務なんすよ。本当はもっとゆっくりしたいんすけどね。また戻ってきたらよろしくっす! 英雄さんはここでゆっくりしてくださいっす!」

「そっか、それは残念。任務頑張ってね!」

「行ってらっしゃい、ノーヴァちゃん」

「あ、メルクもちゃんと休むんすよ!」


 そう言うとノーヴァは私達へと手を振りながら病室から出ていき、見送り終わった私がメルクへと話しかけようとした。

 その時、今度はノーヴァよりも荒っぽく扉が開かれた。

 ルーナがお見舞いに来たとは思えないし、一体誰なんだろうか。


「よう、楽しんでいる中悪いな」


 疑問を浮かべたものの、考えるよりも早く答えが出た。

 そもそも足で扉を開ける人なんて私の知っている中じゃ一人しか居ないのだ。

 そう、ぶっきらぼうなカルマだけ。


「カルマ。病室くらい丁寧に開けたらどうなんだ。二人が驚いているだろう」

「ちっ、うるせーな。俺は俺のやりたいようにするんだよ」

「はぁ。二人共ごめんね。少しだけお邪魔させてもらうよ」


 呆れているクルスが少し遅れて入ってくるが、今はそれどころではない。

 私を嫌っているカルマが近付いてきているのだ。


「な、なにしに来たんですか!?」

「ばーか。怪我人の所に来る理由なんて一つだろうが。見舞いだよ」


 カルマが私へと近づくにつれて、何か言われるんじゃないかと身構えてしまったが、想定外にもぐしゃぐしゃと頭を撫でられるという結果になった。

 今までの対応からすれば考えられないような行動だ。


「一人で良く戦ったな。烙印者といえど仲間の為に命を張る奴は良い奴だ。良く頑張った」


 撫でられながら優しく褒められるが、なんとなくドキドキというか、変に緊張してしまって上手く返答することが出来ない。

 その上、妙に違和感を感じるというか、目の前をひらひらと舞うものに目が行って……。


「あ、あの! その腕ってもしかして……」

「あぁこれか? こいつはちょっとしくじっちまっただけだ。思いのほか強くてな。手負いの獣にやられたようなもんだし、お前が気にすることじゃねえよ」

「カルマの言う通り、ユフィ君が気に病むことじゃないよ。僕だって一歩間違えたら死にかけていた可能性があるくらいの戦いだったからね。メルク君が呼んだ部隊も戦いが終わった後だったから手遅れだったし、ともかく僕としては良くあんなのと一人で戦えてたなと、君の底知れない力に恐怖すら覚えてしまいそうだよ」


 クルスが私を褒めているのかは別として、それからクルスは見舞いの言葉も含めつつ、私が一番聞きたかった意識を落とした後の戦いについて話してくれた。

 最後には最後の悪あがきでカルマが腕を失ったことや、クレヴィスが死に際にも楽しそうな顔を浮かべていた事も含めて。


「……メルク、仇を討てて良かったね」


 話しを最後まで聞いた私はメルクへと声を掛ける。


「はい! これでこれからは悪夢を見なくて済みそうです」


 ホッとしたようなメルクの顔を見る限り、きっと心のどこかでクレヴィスが生きている可能性を考えていたのだろう。

 でも、それは仕方のない事だ。

 なにせ、クルスが真相を語る前は私が戦った事までしか分からなかったのだから、そう考えてしまうのも無理はない。


「クルス隊長、カルマ隊長。メルクは疲れているみたいで、寝させてあげても良いですか?」

「うん、構わないよ。それなら場所を変えようか。カルマも良いよね?」

「あぁいいぜ。怪我人はゆっくり休ませてやりてえしな」


 もしもメルクが話に加わりたかったのだとしたらこの提案は悪い気もするが、それは杞憂のようで許可が出るとすぐにメルクは寝てしまった。

 最初に起こしてしまった私が悪いのかもしれないが、よっぽど限界だったみたいだ。


「カルマ隊長って案外隊員想いなんですね。見直しました」

「うるせえ。頑張った奴を労うのが普通だろうが」

「え、それって私はどうなんですか?」

「てめえはもう労ってやっただろうが。調子乗ってんじゃねえよ」


 ぶっきらぼうにそう言い放たれてしまい、いつ労われたのかを考えてしまうが、思えば確かに私は頭を撫でられている。

 メルクへの優しさとは違って適当な気もするが、あれはあれでカルマなりの労いなのだろう。


「それで、今はどこに向かってるんですか?」

「ん? あぁ、防音室だよ。カルマが話をするならどうしてもそこが良いらしいからね」

「知らねえ奴にはあんま聞かれたくねえ話だしな。念には念を入れておいて損はねえよ」


 話をする為に場所を変え、カルマの指定した防音室へと移動した私達。

 その中でまず最初に口を開いたのは私であり、ずっと気になっていた事を聞くことにした。


「あの、気になっていたというか、少し不自然な事なんですが、どうして二人はあのタイミングで助けに来れたんですか? 良く考えてみれば本部から距離があるし、隊長二人がすぐに救援に来たとしても間に合いませんよね?」


 この質問は暗に監視でもしてたんですか? というのを遠回しに聞いているだけだ。

 別に私は烙印者だし、本部から離れた場所に行く以上監視が居るのは仕方のない事だと思うから気にはしないが、それでも隊長二人が監視というのは意図が読めなさすぎる。

 なんと言っても、そもそもとして烙印者が現れるかどうかなんて事前には分からない訳だから可笑しいと思ってしまうのだ。

 クルスが今回の任務を私達へやらせるように進言したらしいし、考えれば考える程にクルスが助けてくれた時に言っていたクレヴィスの言葉が引っ掛かる。

 断片的で完璧には聞き取れなかったが、それでも裏切りがどうとか言おうとしていた筈だ。

 まぁでも、隊長に限って裏切るというのは変な話だし、きっとこれは聞き間違いか記憶違いなだけだろう。……って、それにしてもやけに二人からの返答が遅いような。


「え、えっとクルス隊長?」

「ん、何かな? あぁそうだったね。あの烙印者の武器の事なら他の烙印者が乱入してきて回収することが出来なかったよ。君も重傷だったからね。深追いはしないことにしたんだ。あぁ、そういえば君は意識を失いながらも力が吸い込まれているように見えたが、あれから体に変化や異常はないかい?」


 一瞬、私はクルスが何を言っているのか分からなかった。

 強制的に私からの質問を回避するにしても、もっと上手く逸らすだろうし、あまりにも強引すぎて脳が追い付かないのだ。

 それに、私を見ている筈なのに目には光がなくて吸い込まれそうだし、焦点も合っていないのが怖すぎて質問し直そうにも言葉が喉から出てこない。


「お、おいクルス! お前なんか変だぞ? ユフィは俺たちがあの場にすぐ来れたことについて聞いてきたじゃねえかよ。聞いてなかったのか?」


 どうやら私と同じようにカルマもクルスの変貌ぶりに驚いていたみたいだが、すぐに私の異変を察知したのか話の方向を戻そうとしてくれた。

 けれど、それでもクルスは一向に話を聞こうとせず、カルマへと返答することはない。

 まるで私からの返答を待つように、ジッと顔を動かさずに見つめてくるのだ。


「あの、えっと、少し強くなれたような気がするだけです……」


 クルスの異様なまでの変貌に不信感と恐怖を感じたが、最早どうしてこうなったのかの原因を追究しようとは考えられず、私はただ怯えながら返答した。


「そっか、その程度の変化じゃ問題なさそうだね。それじゃ、僕は総隊長へと詳細の報告をしてくるよ。ユフィ君、お大事にね」


 そう返した事でクルスに目の光が戻ってホッとするも、不信感を拭う事が出来なかった私は、去っていくクルスへと「お気遣いありがとうございます!」と言って作り笑顔を返した。

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