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星降る魔女の子供達  作者: ねぎとろ


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3/21

『特異な力』

 説明を聞いた所で私を依代に魔女が生まれるなんて到底信じられない話。

 だけども、まるで最初から知っていたかのように、私はそれを理解してしまう。

 否定しようとしても、これが真実なのだと、心の底からそう思えてしまうのだ。


「い、嫌。私、魔女になんてなりたくない。どうして、ねぇ、どうしてシスターは教えてくれなかったの!?」

「そ、それは、教えればきっと貴方が悲しんでしまうと思ったから……」

「違うだろ? お前はこいつが成長するのを待ってから、私達と戦うための道具にしようと考えていた。だから教えなかったんだ。なにせ、お前の服からは残滓の匂いがするからな。つまり、お前は――」


「――だ、黙りなさい!」


 涙ながらに私へと訴えていたシスターは、女の子が何かを言おうとした直後に走り出し、何本ものナイフを投擲する。

 対して、不意を突かれたにも関わらず女の子は易々とナイフを掴んで返し、茨鞭を振るった。


「やめて、教会が、私の育った場所が壊れちゃうよ!」


 私が叫ぼうとも、二人に声は届かず、シスターを捕まえる為に振り回される茨鞭によって教会は崩壊していく。

 柱は折れ、天井は崩壊し、あまりの光景に動けない私へと無慈悲にも降りそそぐ。

 が、私が怪我を負う事はなかった。女の子が守ってくれたのだ。


「ちっ、器に死なれると困るんだよ」

「あ、ありがとうございます」

「隙だらけよ! 死になさい!」


 私の手を引き、立ち上がらせた女の子の背後を狙い、シスターが短剣を突き立てるが、その行為は無意味となった。

 女の子にとってシスターの動きは遅く、隙を突かれようと捕まえるのは簡単だったのだ。


「くっ、ここまで、みたいね。ユフィ、貴方を最後まで愛していたわ。どうか、貴方の力で世界を救って――」

「――器に余計な事を言うんじゃねえよ。消えな」

「――っ! あ、あぁぁぁあ!」


「う、嘘だよね、こ、これは夢、だよね。シスター? 生きてる……よね?」


 私の目の前で容赦なく締め付けられたシスターは大量の血を吐き、断末魔を最後に息絶えてしまった。

 体は半分になり、そのどちらもが動くことはなく、下半身に至っては徐々に黒い灰へと変わっていく。


「嫌、嫌、死ぬなんて嫌だよ! お願い、目を覚まして!」


 私の必死な願いも叶うことはなく、黒い灰へと変わった下半身は、女の子へと吸い込まれるようにして消えていく。

 どうして下半身だけなのか、なんで上半身はそのままなのか。

 そんな疑問など浮かぶ余裕などなく、鼻の奥を刺激するような血の匂いと、眼前に映っている光の宿っていない目を向けるシスターが、私の頭をおかしくさせていく。


「私の所為だ、私が飛び出したから、あの時ずっと隠れていれば……」


 グルグルと巡る頭の中では、生き返るはずなんてないと分かっている。

 でも、私は現実を直視出来ず、ただひたすらに自分を責め続けた。

 けれど、まるでそんな事許さないかのように、私を襲うのは強烈な吐き気。

 脳が本能的に目の前の光景が現実である事を示し、拒絶しているのだ。


「う、オエェェ」


 吐けば楽になるなんてことも、現実を忘れられるなんてこともないけれど、ただただ何も出なくなるまで吐き続けた。この苦しさを紛らわせる為に。

 そうして吐き続け、胃に何も無くなった頃、私は女の子を睨みつける。そして、


「返せ、シスターを返せ! なんで、なんで殺したの!? 殺さなくたって、私の事は助けたんだから、シスターの事も殺す必要なんてなかったのに!」


 呪うようにありったけの言葉を言い放った。

 自分の気持ちは整理出来ないけど、大事な人を殺した相手は目の前に居るのだ。

 自分を責めてしまえば心が壊れてしまう。なら、狡いかもしれないけどこうする他ない。

 力の無い私ではどう足掻いても戦えないのだから、仕方ないのだ。


「いやいや、そいつはおかしい話だ。あいつも私を殺そうとしてたし、そもそも私達烙印者とあいつ等は敵同士だぞ? 正当防衛とは違うが、殺し合うのが運命だったんだよ」


 シスターとこの女の子は殺し合うほどの敵同士。それはさっきまでの流れで理解できる。

 けど、どうして敵同士なのかとか、そんな事は今はどうでもいい。

 とにかく、私はシスターが殺されたという事実が辛くて仕方がないのだ。


「……あー、ユフィ。だったか? お前も拾われた時から命を狙われてたんだよ。偶然力が発現していなかったから、武器にならないと判断されて育てられただけ。いや、もしくは器だから殺せなかったのかもな。どっちにしてもあいつからの愛情は全部偽物だ。忘れちまえよ」


 薄ら笑いを浮かべながら話す女の子は、人を殺したにも関わらず何も感じていない、むしろ当たり前のことをしたかのように振舞っている。


「う、嘘だ! そんなの信じない! シスターが私を殺そうとしてたなんて嘘! 全部、私を貴方の仲間に、魔女にするための嘘でしょ!?」

「まぁ信じてもらう必要はないね。私はお前を連れ去りにきただけだ。既に近くの街では魔女の残滓に暴れてもらってるし、後は逃げるだけだからな」


「魔女の……残滓?」

「そうか。言い忘れてたな。私達烙印者は人間の魂を使って魔女の残滓っていう生き物を創り出せるんだよ。ドロドロの黒い液体みたいなもんだけどな。ほら、こんな風に」


 さっき殺したシスターの魂を使ったのかは分からないけど、女の子の手のひらで形を成した真っ黒な生物はいつの間にか人間よりも大きくなり、女の子の横に立っている。


「こうやって形を成した後は命令すれば自由自在。ま、器じゃ残滓は作れないから関係ないけどな。器は人間を殺したりしたら全てを吸収しちまう。私ら烙印者は一部しか吸収できないから、戦力として創ってるわけだ」


 この女の子はさっき、近くで魔女の残滓が暴れていると言っていた。

 という事はつまり、沢山の人を既に殺しているという事。

 そして、今も暴れているという事は人を殺している可能性が高い。

 それに加え、今創りだされた残滓も命令を受けたのか私たちの前から消えるように、何処かへと走り出している。

 きっと今も暴れている残滓に合流するのだろう。

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