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星降る魔女の子供達  作者: ねぎとろ


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26/50

『襲来』

 地面を転がり、激しく痛む頭とそこから零れ落ちる血が私に何が起きたのかを物語っている。

 まるで鈍器で殴られたかのような錯覚も覚えてしまうが、鈍い衝撃を受けた瞬間に感じたのは蹴られたという感覚。

 つまり、私はただの蹴りで吹き飛ばされたのだ。


「っ、こんな事出来るのは私と同じ……」


 頭が揺れたことで脳震盪を起こしたのか目の前は揺れ、垂れる血が更に視界を歪めていく。

 それでも私は必死に意識を保ち、体を起こそうとした。

 追撃を避ける為もあるが、攻撃を仕掛けてきた相手を見定める為にも寝てなんていられない。


「ユフィさん!? 大丈夫ですか!?」


 フラフラの状態で立ち上がろうとする私へと焦りながら近づくメルクの声が聞こえ、そちらに視線を向ければそんなメルクの首を掴もうとしている烙印者の姿があった。

 このままでは捕まって殺されてしまうのは明白だ。一刻も早くメルクを逃がさないと。


「メ、メルク! 私は良いから逃げて! も、もう後ろに烙印者が!」

「――えっ?」

「あーあ、こんな雑魚を殺して器様を連れ帰るだけか。これじゃあ欠伸が出ちまうぜ」

「お、お前は、蟹の烙印者!? よくも、よくも両親を殺したな! 絶対に許さない!」

「はっ? そんな事知った事じゃねえよ。たかだか人間風情の事を覚えてる訳がねえだろうが! てめえは今まで殺した残滓の事を覚えてるのか!? あっ!? なんとか言ってみろよ! カスの癖に粋がってんじゃねえぞ!」

「え、なに、嫌、何をする気……あぁあああ!!」


 私の目の前で首を掴まれて持ち上げられていたメルクは、腕の骨を折られて耳を裂くほどの絶叫を上げている。

 でも、その絶叫すら烙印者にとっては心地良いのか、今度はニタニタと笑いながらもう片方の腕も折ろうとし始めた。


「……こ、これ以上はやらせないから!」

「あぁ? なんか言ったか?」


 動け私の足。言葉だけじゃこいつは絶対にメルクを離さない。

 だから動かないと、助けないと。

 私の所為で襲われたんだ。だから痛いとか辛いとかそんなの二の次だ。

 今はただ無理にでも体を動かさなきゃ!


「絶対にメルクは殺させないんだから!」

「ははっ! その傷で突っ込んでくるのかよ! 面白れぇ、作戦変更だ。歯向かってきたんだから四肢の一つをもぎ取っても文句はねえ筈だしな!」


 無我夢中で突進したこと私に対し、メルクを無造作に放り投げた烙印者は楽しそうな顔をしながら笑っている。

 これで良い。私なら殺されることはないし、メルクが逃げる時間を稼げれば充分だ。


「はぁ、はぁ。絶対に許さないんだから……」

「メルク! ここは私に任せて逃げて! こっちはなんとかするから。メルク達の仇も絶対に取る。だからお願い、今は逃げる事だけを考えて!」


 突進して掴みかかった私は憎悪に支配されているメルクを呼び戻すために声を張り上げた。

 迸る痛みを耐えながら私を信じてくれるように願って。メルクだけでも生き残るようにと。


「――っ! 分かりました。すぐに救援を呼びますので、絶対に死なないで下さい!」


 思いは届き、一瞬だけ曇った表情をして唇を嚙み締めた後、メルクは背を向けて走り出す。

 ――本部へと通信を開始しながら。


「良いねぇ! 泣かせるじゃねえか。友情ってやつか? 反吐が出るなぁ!」

「あんたなんかに、私は絶対負けないから!」


 強い意志を持ってそう言い放つけど、正直言って私だけで簡単に勝てるなんて思っていない。

 あくまでも救援が来るまで耐えれば良いのだ。

 今回の任務は不運にも本部からも支部がある他の国からも遠い場所だけど、既に通信が開始されている以上数十分程度で来てくれるはずだ。

 だからそれまでの間全身全霊で戦い、討伐出来れば御の字。

 最悪負けて連れ去られさえしなければ問題ない。


「……なぁ器様よ。そうやってずっとしがみついてるだけで何もしてこねえのか? まさかこの程度で時間稼ごうってんじゃねえだろうな!?」

「な、なにこの力。抑えきれない?!」


 力の応酬をした結果、負けた私は引き剥がされ、そのまま腕を掴まれて簡単に投げられてしまった。

 なんとか受け身は取れたものの、掴まれた腕は投げられた衝撃で壊れ、脳は更に揺れて立っている事すら難しくなっている。


「おいおい、威勢が良いのは口だけかよ! もっと本気で来いよ! もっともっとクレヴィス様を楽しませてみろよ!」


 体に力が入らない私へと、クレヴィスと名乗る烙印者は威圧するように言葉をぶつけてきた。

 ついさっきまでは私が全力で掴んで抑えていたからこそ、嬉しそうにしていたのに、今や瞳孔は開き武器である巨大なハサミの切っ先を向けてきている。


「何のつもり? 武器を向けられたって残念ながら怖がったりはしないよ」


 なんとか足腰に力を入れて立ち上がり、真っ直ぐとクレヴィスを見つめながら私は怖気づくことなく言い放つ。

 ただ、血で濡れたハサミと同じ赤色の髪と、露出の多いパンクな服、それに加えて頭二つ分ほど高い身長は少なからず私へと威圧感を与えていた。

 だからこそ、威勢の良い言葉はそれを隠すための虚勢であるのもまた事実だ。


「へぇ、良いねぇ。いつもの雑魚共はちょっと威圧するか私様を見て逃げ出すってのに。さすがは器様だ。この際さっきのゴミの事は忘れるとして――さっさと戦おうぜ!」


 言葉と共に得体の知れない恐怖感を発したクレヴィス。

 その恐怖は纏わりつくように私の動きを鈍らせているが、そんな事など露も知らないクレヴィスは笑いながらハサミを投げ、それと並行するように凄まじい速度で走り出した。


「っ! 速い!? 避けきれ――」


 幾ら身構え、直線的に飛んでくるハサミは避けられても、想定外の速さで攻めてくるクレヴィスの攻撃を避けることは叶わず、死角からの蹴りはいつの間にか眼前まで迫っていた。

 とはいえ、間一髪腕を使って防ぐことは出来ている。

 が、壊れた腕を無理やり動かした為に、残っている腕の骨の軋む音と激痛。

 そのどちらもが私に襲い掛かってきていた。

 けど、今ここで膝をつくわけにはいかない。

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