『仲間の絆』
一言一句嘘を吐かず、全てを話した事で、ルーナは少し怖い顔をしながら考え込んでいる。
ノーヴァはノーヴァで私の体をペタペタと触り、異常? がないか確認してくれていた。
もしかしたら二人とも私が今も魔女に乗っ取れていると思っているのかもしれない。
「――事情は分かりました。今回のような事態は初めてだと認識していますが、貴方の意識は現状問題ないですか?」
「うん、特に問題はないよ。意識が乗っ取られるような感覚もないし、今は私が主導権を握っているかな」
魔女を完全に抑え込めたなんて思っちゃいない。
あの程度ではすぐに出てくるだろうし、なんなら既に出てきていて、私は自分で体を操作していると思い込んでいるだけかもしれない。
ま、流石にそれは無いだろうけど、魔女の力は依然として未知数だ。
私は本当に私なのか? なんて、考えれば考えるだけ不安は募っていく。
「ユフィちゃん、魔女が心に居るなんて最悪っすね。ウチじゃこう上手い事は言えないっすけど、ウチらならユフィちゃんが正気に戻るまで持ちこたえるんで安心して下さいっす!」
「うぅ、ノーヴァちゃんのその言葉だけで嬉しいよ~!」
言葉だけで不安な気持ちは消えていく。でも、そんな優しい言葉を掛けてくれるからこそ私は〝魔女になったら迷わず殺して〝なんて言えない。
……ただ、もしも私が魔女になってルーナ達を傷付けるのなら慈悲なく殺して欲しいけど。
「……ユフィちゃん? 心配しなくて良いっすよ。ウチら全員が全部分かってますから。ユフィさんが望んでいる事も、最悪の手段を取らなきゃいけない時が来るかもしれない事も」
「そっかぁ。皆には言わなくても伝わってたんだね。これでいつでも任せられるよ」
魔女に負けるつもりはないけれど、万が一の時でも皆が殺してくれる。
出来れば重荷を背負わせたくはないけど、皆が覚悟を決めているのなら安心だ。
「馬鹿。なんて顔してるのよ。今の状況を分かっていますか? 貴方は最悪処刑されてしまうかもしれないんですよ?」
「えへへ。でも本当に嬉しくてさ。――って、処刑!? うわっ……あり得るかも……」
どうやら安心感を得た私は悟ったような笑みを浮かべていたらしく、叩かれた後に危機感を持つようにと釘を刺されてしまった。
事実、私は今の今までルーナ達が何とかしてくれると思っていたからこそ処刑や監禁の可能性を忘れていた。
「全く。危機感が欠如してるのは問題ですね。けどまぁ、暗い顔してるよりはマシですよ」
私の態度に溜め息をついたルーナは呆れながらも小さく微笑むと、メルクへと通信を始める。
「――メルク、今までの話は聞こえてましたね。ですがまだ報告はしなくて大丈夫です。戻ったら私がしますので何か聞かれたらとりあえず任務は完遂したと伝えてください」
「わ、分かりました。本件に関してはルーナさんに一任します」
任務については普段ならメルクが先んじてある程度報告しているものの、今回はリーダーとしてルーナが全てを報告することが決まった。
後はルーナがどこまで話すのか、そして、全てを話したとしてクロス達がどう判断するのかだ。
もしかしたら更に危険な存在へと昇華した私は、ルーナの言う通り今度こそ本当に処刑されてしまうかもしれない。
「――失礼いたします! 先の任務にて異常事態が発生した為、チームのリーダーとしてその報告に参りました。慌ただしくて申し訳ありませんが、お許し下さい」
「あぁ。緊急事態ならば気にしなくて問題ない。詳しく報告をしたまえ」
クロスの元に辿り着いた私達は急いでいたこともあって息が乱れていた。
緊急任務をしていただけに、何か異常事態が起きたのではないかとクロス達は険しい顔を向けてきた。
しかし、息つく暇もなくルーナが烙印者が居なかった事と私について説明したことで、この場に居ないスタークを除いてクロスとカルマ、クルスの表情は徐々に驚愕へと変貌していった。
「――報告は以上になります。現状、魔女はユフィ隊員によって抑えられている為、危険性はないと判断してここに連れてきた次第です」
私が今は安全であると最後に話したことによって、武器へと手を掛けていた隊長達は一度落ち着きを取り戻し、報告を聞いたクロスは椅子に座ったまま目を閉じている。
「おいおい、クロスさんよ。考えるまでもねえぜ。こいつがこのまま力を増していけば俺たちの脅威になるんだぜ? それも魔女っていう最悪の形でな。だったら今ここで処分するのが正しいだろうが!」
「カルマ、お前の考えは浅はかすぎるぞ。魔女を宿しているのなら制御出来る可能性があるに他ならない。なにより、今ここで貴重な戦力を失うのは人類の損失だ」
クロスが考えているという事自体が気に食わない。っと、そう言わんばかりにカルマは武器を私へと向け、歩みを進める。
どうやら本当にこの場で処刑するつもりのようだ。
この行動に対し、クロスが止めないって事は抵抗しない方が良いという事だろう。
迫るカルマの本気の一撃。それも走馬灯が巡るほどのもの。
だけど、今度は目を閉じない。
「――ふざけるな!」
間一髪で私の視界に飛び込んできた背中。轟音が鳴り響き、尚私は生きている。
どうやらクルスが守ってくれたようだ。
それに周りを見ればルーナもノーヴァも止めようとしてくれたのか、態勢が崩れていた。
「あっ? クルス、なんで止めやがる。こいつも死ぬことを受け入れていたじゃねえか。まさかこんな奴が本当に魔女を制御出来るとでも思ってんのか?」
「そんなの分からないだろう! 現に今は出来ているんだ! それに、もしだ、もしもユフィ君が魔女に覚醒しようとしたらその時は私が命を賭して対処する。それで文句はない筈だ! 今この場で処刑など絶対に許さん!」
激昂したように言い放つクルスの表情はいつもの優しいものとはまるで別物であり、その気迫によってカルマは怯んでしまっている。
ただ、そんな状況下でもクロスは目を閉じているだけで口出しすることはなく、先程とは打って変わって場は一気に静かになってしまった。
そして、そんな緊張感が走る中でノーヴァは体を震わせながら手を上げた。
「あ、あの、ウチもユフィちゃんが魔女になっちゃうのは嫌だし、いざとなったら命を賭けるっす! だから、ここで処分なんてしないで下さい!」
「そうね、私も制御できる可能性を信じたいし、監視役として最悪の時はこの身を犠牲にしても止めてみせます」
「わ、私はオペレーターだから戦場じゃ何も出来ないかもしれないけど、いつでも異変を察知出来るように努めたいと思います!」
ノーヴァに続いて、ルーナもメルクも重圧に負けじと私を擁護する。
「ちっ! てめえらがそうしたきゃ勝手にしやがれ! 俺は認めねえからな!」
クルスやルーナ達が何を言おうと、未だに何も話そうとしないクロスを見て、カルマはイラついたように頭を搔きながら部屋を出ていってしまった。




