『烙印を持つ少女』
胸元の烙印を一瞥。
そして、同時に疑問が浮かんだ。
「この烙印、どうして私に刻まれてるのかなぁ」
探されている。という事に疑問を感じた私は、胸元に刻まれた烙印をマジマジと見ながら記憶を探る。
しかし、幾ら探ってもシスターが烙印について話してくれた記憶はない。
教会の前に捨てられていたと話してくれた事はあっても、両親はおろか、烙印については何も話してくれていないのだ。
とは言え、シスターが何も知らないから話さなかった可能性はある。けど、でも、だったら、
「あの子なら、あの子なら私について何か知ってるかも……!」
答えを知っていそうな女の子が目の前に居る。
魔女の烙印という言葉も聞こえたし、それがこの烙印と関係しているというのなら、私の出生に関わる謎も知ることが出来るかもしれない。
「――そうかよ。ここまでして吐かねえって事は本当みたいだな」
「さ、さっきからそう言ってるじゃない。もう用件は済んだでしょ。出てって頂戴」
茨鞭から解放されたシスターは咳き込みながらも女の子を睨みつけ、帰るのを急かす。
「言われなくてもここにはもう用はねえよ。ちっ、クソが。無駄足かよ」
女の子が背を向け、出ていこうとするその瞬間、私は服を捲り上げて烙印を見せながら声を張り上げた。躊躇なく、好奇心に従うように。
「ま、待って! ねぇ、この烙印って魔女に関係しているの!? 私の両親は一体――」
「馬鹿! なんで、どうしてここに居るのよ!」
声を荒げ、絶望の表情を見せるシスター。
初めて見る顔に、気迫に驚いた私はここで初めて間違いを犯したのだと気付いた。
外見に騙されず、安易に姿を見せるべきじゃなかったのだ。
「おい、おいおいおい! なぁ! なんであんた嘘ついたんだ?」
「早く部屋に戻りなさい! 貴方のは魔女と関係ないから! 早く!」
ゆっくりと振り返る女の子から感じる圧は凄まじく、まるで心臓を握られているような感覚に陥った私は、止まらない冷や汗を垂れ流しながら、必死に意識を保っていた。
視界は歪み、シスターの声が聞こえても、逃げる事はおろか動く事すら出来ないのだ。
「嘘は吐いちゃいけないなぁ。こいつの烙印は胸にある。つまり、それは私達と同じように魔女によって生み落とされたと事に他ならない。違うのは、魔女の依代――つまりは重要な器って事だ。……なぁ、あんたも分かってたんだろ? 分かった上で育てたんだろ?」
「そ、そんな、私は本当に知らない。だって、魔女の烙印は額に刻まれるものなんじゃ……」
女の子の視線が私からシスターに向けられた時、重く降りかかっていた重圧から解放された。
それと同時に荒い呼吸を抑え、震える体で二人の会話を遮るように浮かんだ疑問を口に出す。
「……シ、シスター? どういうことなの、ま、魔女っていなくなったんだよね?」
今日知って、疑問に思い、今日シスターから教わった。魔女はいなくなったと。灰の様に消えてしまったと。
でも、私は魔女は生きているのかもしれないと思ってしまった。
なんとなくだけど、そんな気がしたから。けど、それはあくまでも思っただけ。
それなのに、私は訊ねてしまった。消えたと、居なくなったと、そう言って欲しいから。
彼女の言う私が、私という存在が魔女の器という事実を否定したいが為に。
「そんな奴に聞かないでも、私が教えてやるよ。私達のような烙印を持った存在はな、全て魔女が生まれ変わるために生み落とされた存在だ。んで、お前はその中でも魔女そのものになる力を持っている器。つまりは、私達の王みたいな存在って訳だ。ははっ、まさかこんな所で出会えるなんて思ってもいなかったが、こいつは運が良い。僥倖だ」
さっきまでの迫力は消え、問いに答える女の子の言葉は柔らかかった。
恐らく私が畏縮しないように。なんて、甘く考え過ぎだろうか?
「で、でも、私は魔女になんてなってないよ? 凄い力だって持ってないし、それに魔女になんて私はなりたくないよ……」
「お前が魔女になりたいかどうかなんて関係ない。器としてお前が存在する以上、お前はいずれ魔女になるんだよ。そう、例えば人間を殺して力を奪ったり、他の烙印者、つまりは私のような存在から力を受け取ったりしてな」
私へと説明してくれる女の子は、やはり殺意や敵意を向けてはこない。きっとそれは私が器であり、魔女になる存在だから。だと、思う。
それに、私を連れ去りたい彼女からしてみれば、敵意を向ける意味は全くといって言いほど無い。
優しく、味方であろうと振る舞うのは至極当然の事だった。
それが例え、今この瞬間だけだとしても。




