『チーム結成』
廊下をひたすらに走る音が耳に届く。続けて、私達の部屋の扉を無理やり叩く音までも。
「な、何事!?」
部屋のドアに鍵が掛かっていたにも関わらず、それを無視するかのように容赦なく破壊されてしまっている。
これにはルーナが驚くのも無理はなく、私の涙が引っ込むのも当然だろう。
「おっはようございまーす! いやー、待ちきれなくて早く来ちゃいましたよ~」
「ごめんなさい、止めたんですけどどうしようもなくて……本当にごめんなさい!」
「あ、ははは。これはやばいかも……」
もはやルーナの存在を無視して一人で永遠と喋っている元気な女の子と、ひたすらに謝りながら眼鏡を掛けている女の子が壊れた扉から入ってきた事により、ルーナの顔は見る見るうちに鬼の様に変化していく。
プルプルと肩を震わせ、今にも爆発寸前のルーナを横目に苦笑いしながら逃げようと思ったが、元気な女の子が私の近くへと寄ってきてしまった為に逃げられなくなってしまった。
「あ、あの、近いんですけど……」
「んー、烙印者って聞いてたんですけど、こうして見ると普通の女の子じゃないっすか! これなら怖くないですし、任務受けて良かったっす! あ、ってか小さくて可愛いっすね!」
「そ、そうかなぁ。そう思ってくれるなら私も嬉しいかな……。ん? あ、お、鬼が……」
「ん? 鬼なんて何処にも居ないっすよ! それよりもどこに烙印があるんですか? お、目も綺麗っすね!」
私の視界には、寝間着で髪もボサボサにも関わらず、一切耳を貸さず気付きもしない女の子を睨むように立っているルーナが居た。
もはや怒り過ぎてオーラさえ出ているように感じてしまい、私は一切怒られていないのにも関わらず、ガタガタと体を震わしてしまう。
「あのー、そろそろ後ろ見た方が良いんじゃ……」
「へっ? 後ろ?」
「うん、後ろ」
キョトンとしたような、呆けた顔で女の子が後ろを振り向いたその瞬間、
「貴方ね! 勝手に入ってきて何してるのよ!!」
まるで稲妻が落ちたと錯覚するほどの怒声が響き渡り、振り向いた瞬間に怒られた女の子はあまりの怖さに涙目になってしまっている。
が、それでもルーナの怒りは止まらない。
「貴方って人は常識ってものが分からないの? それとも扉は壊して入るものだと教わったのかしら?」
「い、いや、普通にノックしてから入る……です」
「そうよね。当たり前よ! で、なんでそれをしなかったのかしら?」
「えっと、その……浮かれちゃって……」
正座させられて説教を受けている女の子を横目に見つつ、コソコソと支度しているが、凍り付くよう声と視線は私の心に恐怖を植え付けるには充分だった。
怖い、怖すぎる。よし、決めた。今後は絶対にルーナの事は怒らせないようにしよう。
「全く、これからはもう少し節度を持って行動するように心掛けてください。それと、貴方は悪いことをしたらまず謝ることを覚えなさい」
「はい。ごめんなさいでした」
密かに決意を固めている私を他所に、説教と女の子が謝った事で満足感を得たのか、機嫌が戻ったルーナは着々と支度を進めていく。
ただ、怒られた事で涙を流してガクガクと震えている女の子に初対面の私が声を掛けられるはずもなく、気まずい空間の中で鼻水を啜る音だけが響く。
「さて、訓練までまだ時間もありますし、お互いに自己紹介でもしておきましょうか」
「うん! それ賛成! これから同室になるんだし、仲良くなりたいもん!」
ルーナも支度が終わったのか、沈黙を壊すようにパンっと手を叩いて鳴らしてから、笑顔で自己紹介することを提案した。
当然私もその提案にすぐさま反応し、意気消沈している二人もルーナが笑顔を見せたお陰なのか表情が少し明るくなり、喋りはしないもののコクコクと頷いている。
「良かった。それじゃまずはあなた達からお願いしても良いかしら?」
「は、はい。それじゃあ私からやらせていただきます」
ニッコリと無言の圧力でも与えるかのようにルーナが視線を向ければ、眼鏡を掛けた女の子は勢いよく立ち上がって話し始めた。
「まず、先程はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。私はこのチームのオペレーターを担当します、メルクと申します。よろしくお願いします」
「うん、よろしくね、メルクちゃん!」
「メルクさん、こちらこそよろしくお願い致します」
背は低く、ツインテールで子供っぽい印象を覚えてしまっていたけど、頭も良さそうだし外見に伴わず、相当大人のようだ。
それに、オペレーターをやっているという事は私達に指示を出したり、サポートしてくれるだろうから頭の回転も速いだろう。なんとも頼もしい限りだ。
ただ、敵意とかないみたいだけど、なんだかちょっと避けられている節はあるし、少なからず私への苦手意識を持っているみたいなのが気になる所。
「はいはーい! 次はウチの番ね! ウチはお二方と一緒に戦わせてもらう、ノーヴァです! どうぞよろしくっす!」
「あはは。ノーヴァちゃんは切り替えが早くて凄いなぁ。これからもその元気さを頼りにさせてもらうね」
「はぁ、まぁ良いでしょう。ノーヴァさん、あまり迷惑を掛けないでくださいね」
「えっ!? なんか私への対応がメルクと違くない!?」
メルクに続き、ノーヴァが元気よく自己紹介してくれたが、どうやら既に怒られた事を忘れているようで、メルクとは正反対の天然という事はすぐさま理解出来た。
とは言え、最初から話しかけてくれるという事は、昨日聞いた通り私に対して苦手意識がないみたい。
これならきっと、ノーヴァと仲良くなるのは案外簡単だろう。
「それじゃ次は私の紹介、といきたいところですが、先程メルクさんからの言葉にもあった通り、私達は同室兼烙印者の監視をするチームを組むことになっています。当然、チームにはリーダーが必要になるのですが、問題なければ私がリーダーで宜しいですか?」
毅然とした態度でルーナがリーダーを宣言し、当然の如くメルクもノーヴァも否定や文句を言わず、ただただ無言で首を縦に振っている。
無論、監視対象である私が反対など出来る訳もなく、メルクとノーヴァの二人が賛成した時点でルーナは私達のリーダーとして決定した。
「――それでは改めまして、私はルーナと申します。これからはチームのリーダーとしてビシバシ指導させていただきますので、どうぞよろしくお願いします」
「ひぇ、やっぱり違う人にすれば良かったかも……」
「た、確かにそうかもしれないっす……」
息の合った私とノーヴァの言葉を聞いたルーナは早速私達へと睨むように視線を向け、「何か言いました?」と呟く。
それを聞いた私達は冷や汗をかきながら首を横に振ることでなんとか難を逃れることが出来た。




