『泡沫』
朝の光が、まるで記憶のかけらみたいに私の頬をなでていく。
もう慣れたはずの生活。
胸の奥が音を立てるように締めつけられた。
夢を見ていた。
丘の上、風が吹いて、いつものように笑っていた。
「元気にしてる?」
そんなの、ずるいよ。
「……また、会えたらいいね」
「それが夢の中でも?」
「君が覚えていてくれたら、それでいい」
目を覚ますと、私はひとり。
残るのは、涙の跡だけ。
そんなに泣いてたつもり、なかったのにな。
私は立ち上がり、顔を洗い、水を飲み、いつものように服を着る。
そしてドアを開けて、陽の差す道を歩き出す。
何も変わらない日常。
でも、私は知っている。
世界の形が同じでも、私の心は、もう元には戻らないことを。
それでも、今日も生きる。
夢の続きを見たくて。
いつかもう一度、彼に会えるその夜のために。