創作メモ23
「君は、本当に変わらないな」
そう言うと彼女は笑った。その笑顔が、どこか寂しげなものであったことは、気付かないふりをした。
初めて彼女と会ったのは、まだ十にもならない頃。当時少し年上に見えた彼女は、けれど今となっては子供に見える。
変わらない、のではなく、変われない。
そういう風に、できている。
同じくらいの大きさだった手も、今では私が彼女の手を包み込める。今ならもう、彼女を抱えて走ることだって、私にはできるのだ。
「だめよ」
その考えを読んだかのように、彼女が笑って窘めた。
「それは、だめ」
「………………」
「それは、神様を怒らせてしまうから、だめ」
「………………そっか」
この土地には神がいて、彼女は遥か昔にその神に嫁いだのだと聞かされた。彼女の齢を考えれば、その当時であっても婚姻などとは無縁だったろう。結婚などとは名ばかりの、体の良い生贄だったのだ。
その当時の見た目のまま、年相応の思考のまま、無垢で無邪気で、無知な子供。そうあることを強いられた彼女という存在。
失敗したな、と思った。
今日のこのことがあった以上、神とやらは彼女の記憶をそのままにしてはくれないだろう。私との時間も、僅か一晩でなかったことにされてしまうかもしれない。
もう一度、彼女の手を取る。彼女の顔から笑みが消えた。あるのは困惑と恐怖――そして、僅かな期待。
「……ごめん」
そのまなざしに、私は項垂れるように手を離した。
「いいのよ」
ほっとしたような安堵が、彼女から漂ってくる。
ここから彼女を連れ出すのは容易い。けれど、彼女は遥か過去の人間。ここから連れ出せば、存在そのものが消えてしまう。
連れ出すだけの、勇気がなかった。
「……ごめん」
もう一度謝って立ち上がる。
「もう帰るの?」
「うん」
「そう」
彼女が視線を落とした。彼女もわかっているのだろう、明日の私たちの関係がどうなっているのか。
「――またね」
それでも彼女はそう言って手を振った。
だから私も、「またね」と嘘をついた。




