創作メモ22
もう、この世のどこにもいない人の姿で、それはそこにいた。
「幻覚かな」
そう独り言ちれば、悲しそうに眉を下げる。
そんな表情をされてしまっては、こちらも少しばかり気まずくなるというもの。
「なら、幽霊?」
それに今度はゆっくりと首を振った。幽霊でもないらしい。
「じゃあ……なんなのかな?」
試しに問うてみるものの、相手はうんともすんとも言葉を返さない。ただ、よく知る人の姿で、こちらを見ているだけだ。
一歩踏み出すと、踏み出した分だけ距離は近くなる。近づいた分だけ解像度も上がる。正しくそこに存在しているもののようにも見えた。
「………………」
不愉快だ。
そう、端的に言えば不愉快だった。
友達、親友、家族……そのどの言葉でも言い表せなかった彼女との関係性。強いて言うならば「運命」だろうか。
けれど、別れは当然に、突然にやってきた。
彼女は死んだ。
もう、何年も前の話だ。
「……せめて、笑ってくれないかな」
喪失は大きく、けれど、その喪失すら埋め尽くすほどに、彼女からもらったものは多かった。その記憶のすべてで、彼女は朗らかに笑っていた。そんな哀れみに満ちた表情は、彼女に似つかわしくない。
それは相変わらず何も口にしない。言葉を知らない存在なのかもしれない。或いは、声を発することができないか。
だが、こちらの言葉自体はわかるらしい。私の言葉にちらとこちらを見たそれは、次にはにこりと笑って見せた。
ああ――
「ありがとう」
迷いなく、武器を振り下ろす。驚いたそれの顔に私は侮蔑を返した。
「今ので、きみが偽物だということがわかった」
目の前でそれが霧散していく。
幻覚でもなく、幽霊でもない。ましてや本人であることはあり得ないし、許さない。
彼女はもうどこにもいない。
その喪失の痛みこそが、彼女がこの世にいた証左なのだ。




