創作メモ21
そろそろ時間かも、と彼女が言った。
「なんの?」
「花火」
そう言われて校庭を見れば、確かに後夜祭ももう終幕だ。
このところ、騒音だなんだと厳しくなって、文化祭後の花火は今年が最後になるかもしれないと先生が言っていたのを思い出す。言われてみれば周りに何もないド田舎でもなく、車通りのままある大通りに面したこの高校の校庭で花火を打ち上げるというのが、高校生なりにも何かしらの法律に引っかかるのではないかとすら思う。
「というか、あんたはこんなところにいていいの?」
不意に彼女が怪訝そうに聞いてくる。
何をいまさら。
「何をいまさら」
思わずそのまま口に出ていた。
とはいえ、後夜祭が始まったのはもうだいぶ前だ。その時間からここにいて、そしてその後夜祭ももう終わろうとしているタイミングで聞かれても困ると言うものだ。
それに対し彼女もまた「まあ、それもそっか」と頷いて、校庭の方に顔を向ける。その横顔がかつてなくはっきり見えて、見間違いかと目をこすった。
「あ、あんたの友達、踊ってる」
「この距離でよく見えるな」
ここは四階だ。しかも夜。明かりがあるとはいえ、よくもまあ見えるものだと自分も目を凝らす。踊っている人影は多数あるが、そのうちのどれが友人のものかなど到底わかりようもなかった。
そうこうしているうちに、校庭の中心から人が捌けられていく。ざわざわと人が端に寄っていく動きは、黒い波のようにも見えた。
「そうだ」
先生らしき人が花火に点火して離れていく。パン、パン、と軽快な音を立てて、思ったよりも低い位置で花火が散った。このくらいの規模がちょうど良いのだろう。
「あんたに伝えておくことがあったんだ」
「今?」
なんやかんや始まってしまえば花火は見ていて楽しい。下にいる生徒たちも盛り上がっている。
「うん、今。というか、今しかない」
よりにもよって後夜祭の締め括りに……と思ったけれど、これは、つまり、そういう展開なのだろうか? そんな青春を謳歌したい気持ちと、そんなことよりも花火を見たい気持ちが揺れ動いていることなど気にも留めず「あのね」と彼女は言葉を続ける。
「――思い出したの、私の本名」
え、と彼女の方を振り返った。だが、そこにはもう誰もいない。窓の外で大きな花火が弾ける。その音に混じって、か細く、彼女の声が聞こえた気がした。




