創作メモ12
怪我した冒険者
「すっかり元気になりましたね」
そう笑う彼女の表情は、どこかさみしげでもあった。
討伐してほしいという魔物が出たと聞いて、街から少し離れた洞窟にやってきたのはひと月ほど前だっただろうか。目的の魔物自体はすんなり退治できたのだが、いかんせん洞窟自体がひどく脆かった。危うく生き埋めになるところをなんとか逃げ出したはいいものの、落盤に巻き込まれたために大けがを負って動けなくなっていたところに、彼女が通りかかってくれた。
この近くで調剤をしていると言う彼女の作業場で治療をしてもらい、なんとか動けるようになったのがつい先日。その間、魔物の討伐の件については伝書鳥で事前に連絡はしたが、果たして報酬はきちんと払われるのかが心配だ。
「ありがとう、助かったよ」
「いいえ。私も、あの洞窟の魔物には困っていたから」
聞けば、ここらには貴重な薬草が見られるらしい。街中の調剤所ではそういった貴重な薬草の取り扱いは同業者から目をつけられたりするためにあまり扱えないのだそうだ。だが、あの洞窟に魔物が住み始めてしまったせいで、迂闊に出歩けなくなり困っていたらしい。
とはいえ、あの洞窟にいた魔物ほどではないにしても、街から少し離れれば魔獣の類はそこらにいる。そんな中でひとりでこんな小屋で作業をするのは怖くないのかと問えば、怖いけれどこれが私の仕事だから、と微笑まれた。
「多少危険は伴うのは確かだけど、小さな魔獣程度なら私でも追い払えるし……冒険者の方に取ってきていただくのもあるけど、でも、それだと名称や見た目、効能がわかっているものしか手に入らないわ」
見たことのない薬草も、この世界にはたくさんある。
「私は、そういうものを研究するのが、仕事なの。調剤の仕事は、その傍らでやっているもの」
研究だけだと、食べていけなくて。
そう笑う彼女の顔は、しかしそれでも研究が楽しいことを十分に感じさせるものであった。
「研究とか、そういうのはわからないけど……助けてくれたお礼だ、何か必要があればいつでも呼んでくれ」
「ありがとう。でも、どちらかといえば、うちの店で何か買ってくれる方が嬉しいかな」
「そっか」
返ってきた言葉に「ははは」と笑う。確かに、売上に繋がった方が、彼女の生活の支えにはなるだろう。
「じゃあ、これからは出立前の準備にお邪魔させてもらうことにするよ」
「ありがとうございます」
そう笑う彼女は、やはりどこかさみしげだ。その理由を問おうとして、やめた。
彼女は、ただの命の恩人だ。それ以上の関係は、きっと持ってはいけないのだ。