創作メモ9
流転
王族の魂は、流転する。
何度も何度も転生して、後世まで伝わっていく。
逆に言えば、その魂を継いだ者だけが王族に名を連ねられる。
けれど、魂なんて形のないもの、誰がどうやって見分けると言うのだろう。わかりやすい紋章のひとつでもあれば理解もできるが、それすらなくして、何を基準に魂を判別しているのだろう。
王族の末席に名を連ねる者として、ずっと、ずっと不思議だった。
「──」
彼女に、そう呼ばれるまでは。
城の奥深くに幽閉された、かつての勇者。魔王を討伐し、しかしその呪いを受けて不老不死となった人。
「あなたの欠けた部分は、私の中にあります」
呪い──即ち、魔王の子。
魔王の子を宿したものの、その生育は封呪によって阻まれており、結果的に彼女は不老不死となった。魔王の子を産み落とすまでは、死ねない体となったのだ。
その封印を施したのが、魂のもと主人。彼女が使える主君。詰まるところ、封印を解くことによって、俺の魂は完成する。
だが、それは同時に魔王が産まれることを意味する。
かつて、目の前の勇者に敗れかけた魔王は、近くにいた彼女の主君の体を乗っ取った。──そうして、この女を犯したのだ。自らの魂の器を、産み落とさせるために。
しかし、それはうまくいかなかった。主君が魂を割って封印を施したことによって、魂の質量保存によって魔王の魂もまたふたつに分たれてしまった。
「腹の中の魔王は、私が責任を持って討伐します」
混ざり合った魂のどちらもが、本来あるべき番を見つけて惹かれている。 だが、分かるのだ。
彼女の腹の中の子は魔王とならない。
魔王となるのは、俺なのだと。
「……」
「どうしました」
魂なんて形のないもので、どうして見分けがつくのかとずっと疑問には思っていた。だが、今ならわかる。これだけ惹かれているのに、魂の半分が、一個になることを拒絶している。目の前の勇者を死なせまいと、抵抗していた。