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第7話 カノン、師匠になる

 7歳になって、俺は振り返った。

 この第二人生を歩んだ7年間を。

 俺は後悔しないように全力でいろんなことに取り組んできた。

 しかし、どうにも違和感が残る。

 何かを忘れていないか?

 このままずっと頑張るだけでいいのか?

 俺は大切な何かを忘れているような気がした。


 そんなことをも思いながら魔術の研鑽(けんさん)を積みながら、剣術も少しずつではあるが鍛錬を続けた。


 そんなある日のこと。

 勉強の束の間、天井のシミを数えているときだった。


「友達がほしい」


 もう7歳だ。

 同年代の友達がいたっておかしくない。

 なのに、今の俺には友達が一人もいない。

 それどころか、お母さんとしか面識がない。

 というか、お母さん以外の人と会ったことがない。


 あれ?もしかして、やばいのでは?


 前世ではたしかに友達といえる友達はほとんどいなかった。

 だがいなかったわけじゃない。

 小中高と友達はいたし、大学だった最初のころはちゃんといた。


 何今の俺は友達がおらず、お母さんの面識しかない。

 このままだと、誰にもしゃべれなくなってしまう。

 そんなことになれば本末転倒だ。


 なんとかして、友達を作らないと。

 というか、普通に仲良くしゃべれる友達が欲しい。


 7歳の本能が目覚めた瞬間だった。


「でも、お母さんが近くの村に行かせてくれるわけがないんだよね~」


 あの言葉をはっきりと覚えている。


『そうだな~カノンが10歳になったら、星屑の森の近くにある村に行ってみようか』


 10歳、つまり後3年だ。

 

 あと3年って、長すぎるっ!そんなに待ったらそれこそお母さんとしか喋れなくなってしまう気がする。

 ここは直談判するべきだ。

 でも、何を理由に?

 友達が欲しいから?いや、それはちょっと精神年齢的にきついものがある。

 だからといってそれ以外に理由はない。

 いや、魔術師としての視野を広めたい、という理由はどうだろうか。

 うん、これならまだ納得がいく。


「よしっ!」


 俺はすぐに階段を下りた。


「あれ、お母さん?」


 しかし、お母さんの姿はどこにもなかった。


「またお出かけかな」


 お母さんがお出かけ中なら仕方がない。

 帰ってくるまで、魔術の勉強でもしてようかな。


 そうして、俺はお母さんが帰ってくるまでいつものように勉強に励んだのだった。

 

□■□


 クネア視点


 とある日のこと、ネムット村に訪れていたクネアはカルネと話していた。


「カルネ、聞いてるの?」


「聞いてるよ。耳がタコになるぐらいにはねっ!!」


「そう怒らないでほしいだけど」


「ならさっさと帰ってくれない?ここはたまり場じゃないんだよ」


「別にいいでしょ。私とカルネの仲だよね?」


「…………もう何も言わないよ」


 クネアとカルネ、二人がこれほど仲良くなった理由。

 強いてあげるなら、クネアがベラベラと喋り、それをあきれながらも聞いてしまうカルネ。

 その関係が続いてしまったゆえに変に仲良くなってしまったのだ。


 そして、どうしてクネアがこの2年間、カルネに話しかけるのか。

 その理由は可愛い我が子を誰かに自慢したかったからだ。

 最初は可愛い我が子が成長する姿を見るだけで満足していた。

 でも我が子が成長していくにつれて。


 共有したい、誰かに我が子を自慢したい。


 そんな欲求が芽生えた。

 だがクネアは親しく話せる友人なんていないし、星屑の森で過ごしている人はいない。

 この欲求をどうしようかと考えたときに思い浮かんだのが、ネムット村で話しかけた叔母さん、カルネだった。

 

「それにしても随分と変わったよね、ネムット村」


「あんたのせいでねっ!はぁ~2年前、あんたがドラゴンを殺したせいでネムット村は変わっちまったよ」


「怒ってる?」


「…………怒ってないよ」


 カルネは怒っていない。

 何も感じてなどいない。

 ただ、些細なことでこれほど変化するのだと、驚いているだけ。


「ならよかった。私、カルネとは仲良くしたいから」


「私はごめんだね」


「照れなくてもいいのに」


「照れてないわっ!!」


 私が笑うとカルネは気味悪そうな目を向けてくる。

 だけど、別に嫌じゃない。

 カルネは魔術師だ。

 しかも、こっち側の魔術師。

 だからかもしれない。

 こうして、気軽に話しかけられるのは。


「なんだい、じっと見て」


「何でもないよ」


 そんな会話を終えた私は家へと帰る途中、ある葛藤に苛まれていた。


 我が子を見せたい。

 もっと自慢したいっ!!


 我が子を他者に語り、自慢する。

 それに満足感を得ていたクネアだが、ついに見せて自慢したいと、思うようになった。

 でも、外の世界は危ない。

 危険がいっぱいだ。

 だからやっぱり、もう少し身を守るすべを身につけてからの方がいい気がする。


「でもやっぱり、見せたいよっ!!」


 葛藤が頭の中で巡る中、気がつけば家に到着していた。


「どうしよう………ちょっと覗いてみようかな」


 私がいない間、カノンが何をしているのかふと気になった。

 なので、透明化(インビジブル・ボディ)で身を隠しながら、カノンの部屋に侵入した。


「やっぱり、うちの子、真面目」


 カノンは真面目に本を読んで勉強していた。

 

 だけどその姿はどこか寂しそうだった。

 楽しそうに本を読んでいる。傍から見れば寂しそうな雰囲気は一切感じられない。

 なのに、その背中はどこか寂しそうだと思った。


 そういえば、カノンって私以外の人と会話したことないんだよね。


 外の世界は危険。

 それには間違いはない。

 でもだからと言っていつまでも外の世界を知らない状態でいるわけにもいかない。

 いずれ、ここを出ることになるのだから。

 なら早めに外の世界を知っておいた方がいい。


「やっぱり、友達が欲しい」


 友達、その言葉に私はなぜ、寂しそうだと思ったのか、答えを得た。


 カノン、友達が欲しかったんだね。


 たしかに、カノンはもう7歳。それなりにいろんなことを考える年ごろ。

 それにカノンは7歳とは思えないほどに賢く、頭が回る。

 むしろ、ここにずっといるほうが成長の妨げになっているのかもしれない。


 でも、カノンはすでに中級魔術を無詠唱で起動できる。

 その時点で魔術師としての実力は十分あるし、現状、魔術に関して本から学べることも少ないはず。

 上級魔術を無詠唱で起動させる方法を教える約束もしているし、それを教えてもいいけど。

 私個人としてはまだ上級魔術を教えるときじゃないと思っている。だから何かと理由をつけて時間を稼いでいる。

 

 結局、現状私がやっていることはカノンのためにはなっていない。

 ただ成長を遅らせているだけで、むしろカノンを孤独においやっている。


 どちらにしろ、もし何かあったときに、助けてくれる友達は必要なのはたしかだよね。


 クネアは決めた。


 そろそろ、カノンをネムット村に連れて行こう。

 最悪、何かあったら私が助けに入ればいいだけだし。


 クネアはその後、こっそりと抜け出して、何食わぬ顔で家の扉を開けたのだった。


□■□


 外の世界は俺にとって未知そのもの。

 だって星屑の森の中しか俺は知らないからだ。

 だからこそ、ワクワクするし、怖くもある。

 そんなことを胸に抱きながら俺は今日、外に出る。



 そして、ネムット村に訪れ、初めて同年代と思われる女の子と、お母さんが親しそうにしているおばあちゃんと対面した。


「カノン・フォーミアです。よろしくお願いします」


 挨拶は大事だ。

 なにせ、人の第一印象は一番最初の挨拶で決まるからだ。

 前世で読んでた本にそう書いてあった。


 俺は満遍な笑みで挨拶をした。


「この子が?」


「どう?可愛いでしょ、カルネ」


 カルネ、それが目の前にいるおばあちゃんの名前らしい。

 とても怖そうなおばあちゃんだが、雰囲気というか少しお母さんに似ている気がする。


「…………うん?」


 こちらを覗いてくる茶髪の女の子。

 警戒しているのか、口を閉ざしている。


(まぁ警戒されるのは仕方がないけど。でもあれだな、意外と平気だ)


 初めての外の世界に多少の動揺はあるかと思ったけど、意外と平気だった。

 むしろ、家にいた時とあまり変わらず、平常心を保てている。


(でも、友達を作れる気は全然しないや)


 そんなことを思いながらふと改めて外の世界を見渡した。

 空は一面、青空が広がっていて、ネムット村の村人たちはせっせと働き、活気がある。

 ふと目についたお母さんの像なんてすばらしい完成度だ。


 …………お母さんの像?


 二度見した。

 ネムット村にいくつも立てられたお母さんの像は精工に作られており、一部の村人は崇めるような動きをしている。

 

(ど、どういうことだ。なぜお母さんの像が…………)


 一瞬、戸惑うもすぐに頭を整理し。

 とりあえず、触れないでおこう、と決めた。


「はいはい、可愛いよ」


「でしょ!私の自慢の我が子だからね」


「そんな腕を組んで自慢して…………恥ずかしくないのかい?」


「カルネ、私に恥ずかしいところなんてないよ」


「ふん、でもさすがにあれを見られるのは恥ずかしいじゃないかい?」


 そう言ってカルネはお母さんの像を指さした。


「…………それは恥ずかしいかも」


 お母さんはカルネおばあちゃんと話しているときはすごく楽しそうだ。

 家でも見たことがない表情を浮かべている。


「それでこの子は?」


「あぁ~ティカ、挨拶しな」


「…………ティカ・クライスです」


「へぇ、カルネの子供?」


「違うわっ!ティカは村長のお孫さんだよ」


 ティカ・クライスは村長のお孫さんらしい。

 というか、カルネおばあちゃんの子供だったら、何歳で産んだんだよ。

 そんなツッコミを入れたくなった。


(しかし、村長のお孫さんか)


 チラッと村長のお孫さんを覗き見る。


 整った容姿に肩まで伸びる艶やかな茶髪。

 村人たちを見てもその容姿は頭一つ抜けており、自然と目が吸い寄せられる。


(見た目と身長からして同年代か、一つ上だろうけど、それにしたって可愛いな)


 俺が言う可愛いはあくまで村人たちの中で最も可愛いという意味で、決して俺が自身が本心で可愛いと思ったわけではない。


 だが、もし俺が何も知らずにネムット村で生まれてこの子に会ったら、惚れていたと思う。


「カルネおばあちゃん、そんなことより弟子の件!!」


「だから、弟子にはしないっているんだろ」


「なんでっ!なんでっ!なんでっ!!」


 カルネおばあちゃんはめんどくさそうな表情を浮かべながら頭を抱えた。

 その様子を見て、お母さんは面白がっている。

 なにせ、ふふっと笑っているからだ。


 一体何が面白いんだろうと思いながら、再び視線をティカに向けた。


「あ、あのティカさん?」


「なに?」


 うわ、怖。


 にらみつけてくるその目は獣を彷彿とさせ、全身が震え上がった。


「な、なんでもないです」


「なら話しかけないでっ!!」


 グサッと心に鋭い針が突き刺さった。

 初対面の女の子にいきなり、そんな言葉をかけられるなんて、さすがの俺も心にくるものがある。


「ティカっ!いい加減にしなっ!!」


「でもっ!!」


「ティカっ!!!」


 カルネおばあちゃんの声は村全体に響き渡り、その圧にさすがのティカも一瞬、押された。


「うぅ…………カルネおばあちゃんのバカッ!!」


 そう言ってティカは背を向けて走り出した。

 その姿にカルネおばあちゃんはため息を漏らす。


「あれ、いいの?」


「いいんだよ。あの子はあれで…………首を突っ込むんじゃないよ」


「私は何もしないよ。興味がないしね。でも…………」


 お母さんが俺のほうを見るが。

 まあ、気にしないでおこう。


 それよりあのまま彼女をほっておいていいのだろうか。

 追いかけたほうがいいんじゃないのか。


 カルネおばあちゃんは追いかける気配はないし、お母さんも同じだ。


 …………仕方がない。追いかけるか。


 俺は大きく一歩を踏み出した。

 その時。


「行っておいで、カノン」


 お母さんの咄嗟の言葉に俺は。


「はいっ!」


 大きな声で返事をしてティカの背中を追いかけたのだった。


 その様子を眺めるカルネはクネアを見て言った。


「余計なお世話だよ」


「ふふっ、そういわないでよ。ちょうどカノンの友達が欲しかったところなんだ」


 まるで、狙っていたといわんばかりの発言。

 クネアはニコニコと笑っていた。


「あの子はわがままだよ、あの真面目そうな子が友達になれるかね」


「それは私にもわからないよ。ただ…………きっといい友達になると思うんだ」


「ふんっ!どうかね」


 カルネの不機嫌そうな様子によりニコニコになるクネアであった。


□■□



 追いかけるものその背はどんどん離れていく。


「はぁ、はぁ、早すぎないっ!?」


 体力づくりを欠かさなかった俺でも追いつけない足の速さ。

 そのスピードは衰えず、途中の曲がり角を曲がっていった。

 俺も道を沿うように曲がったが、どこにもティカの姿はなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ…………ふぅ、どこ行ったんだ」


 見渡す限り、どこにもいない。

 だがあんな一瞬のすきにいなくなるなんてあり得ない。

 だとすれば、曲がった後、すぐにまた曲がったと考えられる。


「あっちだな」


 振り向く先には家と家との間に細い道があった。

 そこは人が一人分入れるぐらいの隙間しかない。


 まさか、この先か?


 俺はその道を通った。

 その先には(ひら)けた空間が広がっていた。


「村の雰囲気とはだいぶ違うな。何というか、神秘的な…………」


「なぁ!?どうして、ここがわかったのっ!!」


「あ、いや、ただ追いかけてきただけなんだけど」


 ティカは大きな木の下にいた。

 その木は大きく、かすかだが魔力を帯びていおり、星屑の森の木々に似ていた。


「私を?どうして?」


「それは…………」


 追いかけたほうがいいと思ったからだ。

 でもそれ以外に理由はない。

 なにか、こう立派な理由を…………。

 そうだっ!


「君のことが心配だったからさ」


「キモイ…………」


「うぅ!?そんなド直球に言わなくてもいいだろ」


「ご、ごめんってなんで私が謝らないといけないの!」


「知るかよ」


 しかし、なんだろうか、この満足感は。

 お母さん以外の人と話すのが初めてだからか、この会話に満足感を感じている。

 とはいえ、この子はずいぶんと我が強い女の子だ。

 まあ、俺は精神年齢的に高いから、むしろ普通の子供はこんな感じが普通なんだろうけど。


「なに黙ってるの」


「いや、ちょっと考え事を。それより村にこんな場所があるなんて…………」


「ここは私しかしらない秘密の場所よ」


「へぇ~なるほど。つまり、これでこの場所を知るのは僕で二人目、ということか」


 ティカは嫌そうな表情を浮かべた。


「そんなわかりやすく嫌そうな顔するなよ」


「あんたって周りから気持ち悪いって言われない?」


「うぅ!?言われたことないけど、今言われた」


 この子、人の心がないのかもしれない。

 そう思ってしまうほどに言葉がストレートだ。


 ここは一つ、あれを見せるしかないな。


 俺は彼女が抱く印象を変えるため、一つのパフォーマンスを見せる。

 右手に小さな火の玉を16つ生成し、緻密な魔力操作を経てお手玉のように円を描く。


 どうだ、すごいだろう。

 これがここ最近、魔術を勉強している中で、極めた魔力操作だ。


 正直、言ってこれを体現できる同年代の友達が魔術師はいないはずだ。

 さぁ、驚け。

 そして、すごいっ!カッコイイっ!素敵っ!

 ってほめた言葉をかけろっ!!


 数秒、無言が続いた。

 ティカは驚いた表情を浮かべながら、時間が止まったかのように静止し、我に返るとガサガサっとこちらに近づき。


「い、今のってもしかして、魔術っ!!」


「え」


「だからっ!今のって魔術って言ってるのっ!!」


「あ、ああ…………火系統の初級魔術、ファイヤーボールだけど」


 さっきまでとは違い、目を輝かせるティカは顔を近づけてくる。


 ち、近い。

 女の子の香りに緻密な魔力操作は失われ、火の玉はその場で消え去った。


「お願いがあるだけど、私に魔術を教えてっ!!」


「は、はぃ?」


「お願いっ!なんでもするから!!」


「な、なんでもっ!?」


 なんでもってことは、あんなことやそんなことをって何を考えているんだ。

 俺の見た目は子供だが、中身は立派な大人だ。

 まともな精神を持て、馬鹿が。


「さすがになんでもは冗談ですよね?あはは」


「冗談じゃない。私は本気っ!!」


「そ、そうか…………でもさすがに体は大事にしたほうがいいと思います」


「何を言って…………」


 ティカは察したのか、顔が赤鬼のように真っ赤になっていく。


「へ、変態っ!!」


「え、へぶしっ!!」


 瞬きした瞬間にはティカの平手がほほに直撃。

 よける間もなく後方へと吹き飛び、しりもちをついた。


「叩かれた、お母さんにも叩かれたことないのに…………でも悪くない」


「あんた生粋の変態なの?」


「違うわっ!決して僕は変態じゃないっ!!と思う、な~」


 たぶん、変態じゃない。

 これはあれだ。

 お母さん以外の人と会話できる嬉しさに興奮してしまっているだけだ。

 俺は決して変態じゃない。絶対にだ。


「目が泳いでるんだけど」


「うぅ…………もういいだろう、その話は。それより魔術を教えてほしいんだっけ?」


「あ、そう、その話っ!!」


 ティカは真剣な表情を向けてくる。


 この目は本気だ。本気で魔術を学びたいと思っている。

 正直、魔術を教えることはできる。

 だけど、俺なんかが教えていいのだろうかと、心配な自分がいる。

 なにせ、俺はまだ未熟な魔術師だ。教えられるかと言われれば、はっきり言えない。

 

 だが、彼女に魔術を教えるということは。

 それはつまり、俺が彼女の師匠になるということだ。

 師匠…………いい響きだ。


「それでどうなの?」


「わかった。僕が魔術を教えてあげる」


「ほ、本当に?」


「噓は言わない。ただし、これから僕のことは師匠と敬うようにっ!これ、絶対条件」


「え~敬う?」


「文句があるんですか?」


 そう言うと彼女はにらんできた。

 どうやら、俺を師匠と呼ぶことに不満があるらしい。

 だけど、これだけは絶対に譲れない。


「こちらとしては魔術を教えなくてもいいんだけど、困るのはどこの誰かな?」


「うぅ…………わ、わかった。これからよろしく、()()


 言いたくなさそうにしながらもハッキリと師匠と言うティカ。

 不服そうな様子には不満があるが、師匠という響きに俺はコクコクと頷いた。


「ふふん、これからよろしく、ティカ」


 俺はティカに手を伸ばした。


「なにこれ?」


「これからよろしくの挨拶なんだけど、知らない?」


「し、知ってるもんっ!」


 ティカはさし伸ばされた手を握った。


 あ、女の子の手ってこんな小さいんだ。


「い、いつまで握っていればいいの?」


「あ、ごめんごめん」


 サッと手を離した俺の手はまだ小さな手を握った感触が残っている。


「それで、私は何をすればいいの?し、師匠」

 

「あ、ああ、そうだな。とりあえず、魔力を空っぽにするところから始めようか」


「え…………」


「魔術を学ぶ上で大事なのは、魔術を扱う魔力ってことはわかるよね?」


「それぐらいわかるわよ」


「じゃあ魔術を学ぶのに、魔力が足りなくて起動できなかったら、本末転倒だと思いませんか?」


「たしかに」


 実際に、魔力量は生まれたときに決まっている、という認識が常識だ。

 つまり、ティカが魔術を学びたい、魔術師になりたいと言っても、実際になれるかはわからない。

 まあ、一般人の魔力量は中級魔術を一部扱えるレベルらしいから、そこまで心配する必要はないといえば、たしかにない。


 だが、俺が師匠としてティカに魔術を教える以上、本気でやる。

 だからこそ、特別にティカには魔力量を増やす方法を教える。

 それが魔術師の第一歩になるはずだ。


「そこで僕が編み出した魔力増量する方法をティカに実践してもらいます」


「それが魔力を空っぽにする?」


「その通り。実は魔力を空っぽにして、寝ると。次の日、魔力が増えているんです、これが」


 実際に俺はこれを6年以上続けている。

 今は魔力を空っぽにするのが難しくできていない。


「この生活をとりあえず、七日間続けてもらいます」


「な、七日間…………」


 絶句するティカ。

 それもそのはず、魔力を使い切るということは、一日、動けなくなるということ。

 これを七日間も続ければ、どうなってしまうのか、ティカにとっては未知数。

 だがもう遅い。

 俺は厳しいぞ、ティカ。


「僕からしたら、しばらくこの生活をしてほしいんだけど、まずは七日間。もちろん、できますよね?ティカさん」


「私を舐めないでっ! 私は本気なんだからっ!!」


 そうして、カノンが師匠としてティカに教える毎日が始まったのだった。

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