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第6話 誕生日プレゼント

 オーク、魔物図鑑で見たことがある。

 全長5メートルから大きくて10メートルを超える。その大きな体は筋肉質で、常に右手には棍棒が握られている。


(魔物図鑑の記載通りの見た目だな)


 しかし、このオークはただのオークではない。

 星屑の森の魔力の影響を受けた狂暴化したオーク。

 名づけるのならオークバーサーカー。

 ふん、中々いい名づけセンスだ、俺。


「と、とりあえず、全力で逃げるっ!!」


 俺はオークバーサーカーに背を向けて逃げた。

 とにかく、全速力で逃げた。

 だが、オークバーサーカーは決して見逃さない。


 獲物を見つけ、必死に食らいつくような目を向けながらこちらに迫ってくる。


「ま、マジですかぁ~はぁ、はぁ、はぁ」


 ふと思い出した。


(そういえば、体力には自信がなかったんだった)


 全速力で走った結果、一瞬で体力が底をつき、徐々に減速する。

 だが、オークバーサーカーはこちらに向かって全速力だ。

 

(考える時間はない。とりあえず、時間稼ぎだ)


「ウォーターバレット!!」


 とっさに背を向けて、初級魔術、ウォーターバレットを起動させ、オークバーサーカーの足元を狙った。


 当たるっ!

 そう思ったがすぐにオークバーサーカーはその場で足を止め、よけてまたこちらに向かって走り出した。


(噓でしょ!?)


「ウォーターバレット!ウォーターバレット!ウォーターバレット!ウォーターバレット!」


 何度も放つが、オークバーサーカーは名前とは裏腹に華麗な動きでよけた。


(狂暴化しているとはいえ、知性が皆無というわけじゃないってことか、なら今度は)


 右手に魔力を集中させ、オークバーサーカーの頭蓋を捉えた。


「ウォーターランスっ!!!」


 水系統の中級魔術、ウォーターランス(加速上昇)。

 高速で渦巻く水の槍がオークバーサーカーの頭蓋に向かって放たれた。


(これで少しは)


 だが、棍棒一振りでかき消された。


(えぇー!?噓でしょっ!!!)


 中級魔術をたかが棍棒でかき消すなんて普通出来るか?いや、狂暴化したオークバーサーカーならワンチャンできるか。

 でも、中級魔術を防がれたら時間稼ぎすらできないんですけど、というか為す術がないんだけど。


 俺が今扱える無詠唱中級魔術は水系統が多い。

 その中でもウォーターランスは俺が持つもっと威力がある魔術。

 それを防がれたとなると、今の俺にできることはない。

 

(ここまで…………ってなるわけないだろうがっ!!)


 せっかく得てた第二の人生。

 こんなところで死んでたまるかっ!!


 血が沸き立った。

 内の底から這いあがってくる何かを感じた。

 初めての感覚だ。

 俺はこの感覚を受け入れていいのだろうか。

 いや、拒んでいる場合じゃない。

 こっちは命がかかっているんだ。


 感覚に身を任せながら、右手をオークバーサーカーに向けた。

 それは無意識だった。


()()()()()()()()


 その言葉を口にしたとき、今までにない速さで情報が処理され、コンマ数秒で水系統の中級魔術ウォーターランスが起動した。


 手元から水が渦巻き、鋭い槍へと形を変える。

 渦巻く水は今までになく激流のように荒ぶるもそのバランスは奇跡的に(たも)っている。


 そして、それは勢いよく放たれた。


 オークバーサーカーはそれに反応してさっきのように棍棒で防ごうとした。

 だが、棍棒がウォーターランスに触れた瞬間、棍棒が粉々に砕かれ、肉ごとそぎ落とし、右腕を貫いた。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 オークバーサーカーが右腕を抑えながら叫んだ。


「はぁはぁはぁ…………何今の」


 最初の一発目のウォーターランスの3,4倍の破壊力と速さ。

 それは上級魔術のレベルに匹敵していて。

 その感覚に手が震えた。


(あ!?今考えている場合じゃない!今のうちに遠くへ逃げないと)


 俺は地面を踏みしめながら、少しでもオークバーサーカーから距離を離した。


(まだあの感覚は残ってるな)


 奥底から這い上がってくる何か。

 それは今でも俺の内の奥底でうごめている。

 だが、不思議と嫌な気分じゃない。

 この感覚を例えるなら、そう。

 カフェインを摂取して気分が高揚している状態に似ている。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「ま、マジですか…………」


 右腕を失ってもなお、オークバーサーカーは本能を剝き出しにしながらこちらに向かってくる。


(俺に恨みでもあるんですか、まったく)


 と思いつつも、現状何の解決もしていない。

 それどころか、追い詰められている。

 距離は少し離れているが、すぐに追いつかれる。

 木の上に登ろうにもその手段がない。

 もう一度魔術を使うか?

 次は仕留められるかも。


 俺は足を止めて、再びオークバーサーカーへと振り返った。


(感覚のままに動け、感覚のままに…………)


「ウォーターっ!……っ!?」


 突然、全身から力が抜け、車酔いのような感覚に襲われた。

 俺はこの感覚に見覚えがあった。

 それは魔力が尽きる前兆だ。


「もう魔力が…………」


 このまま魔術を使ってオークバーサーカーを倒しきれなければ確実に殺される。

 でも、今走って逃げても追いつかれる。

 どうする、どうすればいい。


 絶体絶命のピンチに思考が停止し、同時に死ぬイメージが頭の中で駆け巡る。

 

(まだ死にたくない。俺はまだ…………)


 足が止まり、その場で突っ立っていると、オークバーサーカーがすぐ傍まで迫っていたが。

 気が付いた時にはすでに遅かった。


「あ…………お、お母さん」


 とっさに目をつむった。

 その時。


獄炎(ヘル・フレイム)っ!!」


「んっ!?」


 聞き覚えのある声に俺は振り返った。

 そこには汗をかきながら息を荒くするクネア・フォーミアが立っていた。

 そして、オークバーサーカーは火系統の上級魔術、獄炎(ヘル・フレイム)によって黒焦げとなった。


「お、お母さ…………」


「ぶ、無事でよかった!!」


「うむぅ!?」


 お母さんは俺のほうに駆け寄り強く抱きしめた。

 それはもう強く、強くだ。


「怪我はない? 痛いところは? 骨は大丈夫だね。あれ、でも目が………充血しているわけじゃないみたい」


 お母さんは俺の体の隅々まで状態を確認した後、ほっとしたのか膝を崩した。


「よ、よかった~」


「お、お母さん、その…………」


「私の管理不足だった。まさか、あの魔術陣を起動させられるぐらいの魔力をカノンが保有していたなんて。完全に私の落ち度、本当にごめんね、カノンっ!次から気を付けるからっ!!」


「お母さ、んっ!?」


 お母さんは強く俺を抱きしめた。


(痛いっ!痛いっ!痛いっ!)


 心から叫んだが、同時にお母さんの温もりにほっとしている自分がいる。 

 でもやっぱり痛い。内臓が飛び出そうだ。


「お、お母さん、い、痛い」


「あっ、ごめんね」


「ふぅ…………生き返る」


 大きく酸素を吸って、目線を黒焦げになったオークバーサーカーを見る。

 あのオークバーサーカーを黒焦げにする魔術を行使するお母さん。

 それを目のあたりにした俺はまだまだなんだと実感した。


「カノン、お家に帰ろう。ここは危険だから」


「うん」


 でも、同時にあの高揚感が何だったのか気になった。


(なんだっただろう。あの…………あれ、急に眠気が…………)


 頭を働かせようとすると急に眠気が襲ってきた。

 今日はたくさん動いたからかな、すごく眠い。

 その様子を見たお母さんは俺をおんぶした。


「ゆっくり寝てていいよ」


「お母さん、でも」


「大丈夫。私が守るから。だからおやすみなさい、カノン」


「うぅ…………ん」


 俺はそのまま眠りについたのだった。


□■□


 クネア視点


 カノンをおんぶして家に帰った後、ベットに運んだ。

 

「…………赤い瞳ね」


 カノンは間違いなく人族。

 真っ黒な黒髪に瞳、背丈の成長具合、どの特徴から見ても人族。

 唯一、気になるのは高い魔力耐性ぐらい。


 でも、たしかに私は見た。

 カノンが真っ黒で純白な瞳が赤い色に変わっていたことに。


 瞳の色が変わる。その症状が現れる種族はあの種族しかいない。

 高い興奮、危機的状況の中にいる時にのみ、現れる特異的な種族。


 魔族だ。


 でも魔族の特徴はそれ以外に髪の色は緑か青、成長も早く5年で人族の成人ぐらいまで成長する。

 その点を踏まえれば、カノンは魔族の特徴を備えていない。


「ハーフってセンスもあるかな。でも人族と魔族は敬遠のなかだし、ハーフもありえない」


 気にしたってしょうがない。

 だって答えを知るすべはないのだから。


 ふとカノンの寝顔に視線を移した。


(カノンが生きてて本当に良かった)


 あの時、カノンがいなくなった時は悪寒が走った。

 言葉にならない何かを感じた私は必死にカノンを探した。

 あの気持ちは噓じゃない。

 本物だった。


 私はあの時初めて実感できたんだ。

 カノンを想う気持ちは本物だったんだってね。


「それにしても転移魔術を組み込んだ魔術陣を起動させられるぐらいの魔力量をこの年で保有しているなんてね。やっぱり、剣士よりも魔術師の素質があるみたい」


 転移魔術は聖級魔術並みの魔力を消費する。

 そのため、魔力を流しても大抵の魔術師はこの魔術陣を起動できない。


「本格的に魔術の教えるときかな」


 ふとカノンへと視線を移すと。


「うぅん…………お、お母さん」


 と寝言をつぶやいた。


「もし、私が本当のお母さんじゃないって知ったら、カノンはどう思うんだろう。私、嫌われるかな?なんてね」


 私はカノンの寝室を後にして、外に出た。

 外は真っ暗、上を見上げれば星が輝いている。


 目をつぶれば、5年間の思い出が鮮明に思い出せ、自然と笑みがこぼれた。


「あっ…………私も随分、心酔しているみたい」


 拾った当初はただの興味本位だったけど、今はかけがえのない大切なものになってしまったみたい。


「慎重にカノンを育てないとね」


 私は空を見上げながらその夜を過ごしたのだった。


□■□


 今日で7歳になる誕生日、お母さんがネムット村に出かけていた。


「珍しい、こんな日にお出かけなんて」


 お母さんはちょくちょくネムット村に出かけているが最近、頻繫にネムット村に出かけている。

 だからといって買い物をしている様子でもなかった。


「まあ、いいか。それよりお勉強の続きだ」


 2年前、オークバーサーカーに襲われた日からお母さんは魔術の特訓に専念した。

 剣術の練習は3日に一回程度で、ほとんどの時間を魔術に費やしているし。

 筋トレも欠かしていない。

 俺は反省を生かすタイプだ。

 あの日の反省を活かして体力づくりは毎日続けている。

 おかげでこの通り、7歳の体にしては引き締まり、ナイスボディへと仕上がっている。


(同年代の友達がいれば、間違いなく自慢してるな、うん)


「とはいえ、最近、イマイチなんだよな~」


 本格的にお母さんから魔術を学ぶことになってから、魔術の腕は間違いなく上がった。

 でも未だに中級魔術を無詠唱で完璧に起動させることができない。

 毎日のように、無詠唱で中級魔術を見せるもお母さんは必ずこう言う。


『カノンはこれでいいと思うの?』


 その言葉に俺は何も言い返せなかった。

 正直な気持ち、水系統なら無詠唱中級魔術は完璧だと思っている。

 思っているが、お母さんにそんなことを言われたら、つい疑ってしまう。

 自分の魔術には何か欠けている何かがあるんじゃないかと。


 おかげで上級魔術を無詠唱で起動させる方法は分からずじまい。

 俺が今できることは中級魔術の理解を深めたり、魔術師の戦い方だったりなどの勉強をすること。


「一体、何が足りないんだろう」


 魔術の基礎は完璧だ。

 無詠唱魔術だって初級はすべて使えるし、中級だって水系統は完璧だし、それ以外に火系統、土系統も意識すれば使えるようになった。

 ほかの系統も時間の問題だ。


「あ、お母さんが帰ってきた」


 窓の外からお母さんの姿が見えた。

 俺はすぐに扉の前に立ち、ガチャっと開くと。


「おかえりなさい、お母さん」


「た、ただいま、カノン」


「?」


 お母さんが帰ってきて最初に目についたのは後ろに隠している長い棒状のもの。

 茶色い布で包まれていてなにかはわからない。


(ネムット村で買ってきたのかな?)


 お母さんはすぐに上へとつながる階段を上がっていった。


「…………」


 気になる。

 すごく気になるが、詮索したところでお母さんにばれるが落ちなのが目に見えている。

 今日は見なかったことにしよう、そう思った。


 それからいつも通り、魔術の特訓をした後、水浴びをして食卓の椅子に腰かけた。


(あれ、今日はご飯が豪勢だな)


 お母さんはよく記念日と称していろんな日を記念日として記録している。

 だが、別にその日になったからと言って何か特別なことがあるわけではなく。

 ただお母さんがその日になると、記録している手帳をなだめながら、親ばかモードになって変な人になるだけ。

 豪勢なご飯が食卓に並んだことは一度もない。


 そんなことを考えているとお母さんが向かい側の椅子に座った。


「カノン、今日で7歳になるよね?」


「う、うん。そうだけど」


「ごめんね、カノン。私、常識には疎いから」


「えっ!?」


 お母さんが突然、涙を流した。


「お母さん、大丈夫?」


「大丈夫だよ。カノン、まず一言、誕生日おめでとう。私、誕生日を祝う習慣を知らないから、いろんな人に聞いたんだけど、誕生日はプレゼントを送るんでしょ?だから、私からカノンへ誕生日プレゼント、受け取って」


 そう言ってお母さんは帰ってきたときに持っていた茶色い布で包まれていて物を俺に手渡した。


「あ、ありがとうございます」


 え、なにこれ。夢ですか。

 俺の頭は状況についていけず、混乱していた。


 たしかに今までに誕生日に祝わられたことはないし、プレゼントももらったことがない。

 てか、この世界では誕生日に祝う習慣がないと思っていた。


(と、とりあえず開けるか)


 俺は茶色い布をはがした。

 中身は俺の背丈より大きな杖だった。


「魔術師は必ず魔術の効力を増幅させる杖を持っているの」


「えっ、じゃあこれって」


「うん。カノンの杖だよ」


「僕の杖…………」


「私が作った、特製の杖だよ。いろいろこだわってるんだけど、一番は魔力水晶玉。この水晶玉には、いろんな特性があって、全魔術の効力、火力を1.5倍に増幅。水系統なら2倍に増幅させてくれるの」


「えぇ!?」


 なにそれ、チートじゃん。


 骨組みは木で作られているがかすかに魔力を感じる。

 青色の水晶玉からも魔力を感じ取れる。

 触っただけでわかる。

 これは杖として一級品だ。


(まさか、最近、外に出かけていたのは全部、この杖を作るため?)


 これほどまでの杖を作るにはかなり大変だったはずだ。

 しかも、今の俺の実力には似合わないぐらい持ったない杖だ。


「ありがとう、お母さん」


 嬉しくてつい涙が出た。


 拭いても拭いても止まらない涙に困惑しつつも、同時に強く決意を固めた。

 お母さんが僕のために作ってくれた杖を握りしめながら。


(僕はこの杖を使うにふさわしい魔術師になる)


 そう決意したのだった。


「よ、喜んでくれてよかったよっ!!!」


 そう言ってお母さんは嬉しさあまりに俺を強く抱きしめた。 


□■□


 ここで魔帝暦で活躍した三大英雄について話そう。

 三大英雄は魔帝暦1500年の歴史の中で活躍した大英雄であり、その名は現在の聖魔暦を生きる人たちにもよく知られている。

 それぞれ。


 賢者ルドラ。

 卓越した魔術は神の奇跡と謳われ、魔法のようだったと言われている。

 彼の姿は魔術師のあこがれであり、目標になっている。

 そして、人類初の第12階梯魔術師になった人物でもある。


 剣帝シルフィ・アストレア。

 彼女の剣技は並外れており、その身には神の加護が宿っていたと言われており、剣聖の称号を得ている。

 もし長寿であれば、二人目の剣神として名をはせていた、と囁かれている。


 聖女アリア。

 死者を蘇らせることができたといわれている治癒魔術師の頂点。

 神聖国家アバロの建国者ともいわれており、また彼女を一目見たら、忘れられなくなるぐらい美貌だったとも言われている。


 これ以外にも三大英雄の関してはいろんな話を聞く。

 例えば剣帝シルフィ・アストレアは戦いを求める狂剣士だったとか、逆に実は剣を握るのを嫌っていたとか。

 聖女アリアであれば、表では誰にでも優しい女の子だが、その裏では常に相手をさげすんでいたとか。

 根の葉もないことが世界に広まっている。


 そのため一部では三大英雄は存在しない、という人もいる。

 だが、実際にパルニア王国にアストレア家は存在するし、聖女も神聖国家アバロに存在する。

 賢者も元を言えば魔術師のため存在すると言える。


 それだけ有名な三大英雄はいろんな活躍を主軸に物語として描かれている。


 そして、その影響を受けた一人の少女がその思いを胸に志した。


「私、賢者様みたいな魔術師になりたいっ!!」


 純粋無垢な夢。

 まだ6,7歳ぐらいの幼い少女が絵本を閉じながら叫んだ。

 彼女は一度、決めたら止まらない。

 その衝動を抑えることなく、本能のままに歩み始め、ネムット村で一人しかいない魔術師のもとへと走った。

 何の変哲もない家の扉に到着し、コンコンとノックした。


 キーっと扉が開く。


「こんな昼間に何のようって、あんたは…………」


「カルネおばあちゃん、こんにちは」


「ティカ、こんな時間にいったい何しにきたんだい?お父さん、お母さんは?」


「お父さんならお仕事、お母さんはお父さんのお手伝い。それより、カルネおばあちゃんにお願いがあるの」


 目を輝かせるクレアを見てカルネは嫌な予感がした。


「私を賢者様みたいな魔術師になりたいのっ!だから、私を弟子にしてっ!!」


 嫌な予感があたり、カルネは溜息を吐きながら考えるそぶりも見せずにハッキリと答えた。


「いやだね」


「なんでよ」


「魔術はね。おこちゃまが使っていいしろものじゃないんだよ。そんなことより子供は外で元気に遊んでな」


 そう言ってカルネはバタンっ!と扉を閉じた。

 一瞬、放心状態になるもティカはすぐに正気を取り戻し、大声で根も葉もないことを叫んだ。


「カルネおばあちゃんのばかっ!いけずっ!けちっ!としまっ!かねどろぼっ!!」


「あんたっ!言いたい放題言ってんじゃないよっ!そんなこと言うとお父さんに言いつけるよっ!」


「弟子にしてもらえるまで言い続けるもんっ!!」


「この小娘ぇ~~」


 そんな時だった。


「賑やかだね、カルネ」


「んっ?げっ、また来たのかい」


 カルネが向けている視線のほうには真っ白な髪が特徴的な女の人が立っていた。

 その顔には見覚えがあり、ティカはパッとすぐ近くにある広場の中心にある像を見た。


 そう彼女は村人たちが狂信的に崇める英雄、クネア・フォーミアだった。


「何しに来たんだい。自慢話なら聞かないよ」


「そんな悲しいことを言わないでほしいけど、でも今日はね、前に話した私の子を紹介しようと思って来たんだ」


「ま、まさか」


 カルネは想像ついたのか視線を下げた。

 そこには。


「私の自慢の息子、カノンです。どう、可愛いでしょ?」


「カノン・フォーミアです。よろしくお願いします」


 真っ黒な髪に瞳、整った容姿。背丈はティカと同じぐらいだけど、雰囲気は少しだけ大人びている。


「カノン…」


 これがティカとカノンの初めての出会いだった。


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